**工房見学(後)
オリハルコンの製作工程に必要なのはまず粘土のような物だ。
当主が工房の奥でつくったそれを、何かの液体を少しずつ入れながら混ぜ、泥水のような状態にする。
次に剣の型に入れ、錬金陣で魔法を掛けてから乾燥させる。
乾燥には、本来数日は掛かるそうだが、今回はセネカが魔法で乾燥させた。
少し品質が低下するが問題ないとのこと。
乾燥させると、水分が抜けた分、嵩が減るので、再び泥水のような物を型に流し入れ、錬金魔術を掛けて、乾燥の手順を行う。
乾燥した粘土が、型いっぱいまで埋まると、今度は型から出して、やすりで削る。
成形が完成すると、アヤトが知る釉薬よりはさらっとした液体に漬ける。
その液体が粘土に浸透すると、ハンドルのような物を回して液体の入った容器から粘土の剣を取り出すと、また乾燥、錬金陣で魔法を掛ける。
それから乾燥させては錬金術を掛け、最後に炉に入れる。
乾燥の手順と錬金術の魔法を掛ける手順が多かったが、乾燥は全て魔法で済ませたので、ここまでの時間は早かった。
次は肝心の炉を使用する手順だ。
クラスト家の炉は重厚な金属でつくられた長細い箱のような形だ。
片方の端を軸に、上下で二つに分かれる。
何か細長い形のたい焼きをつくる道具みたいなつくりをしている。
剣を中に入れ、上下の重厚な金属を合わせたら、軸とは反対側の端を固定する。
四角い金属の魔法陣の台の窪みに魔法石を置き、剣の入った長方形の箱を錬金陣に置いて、当主は精神を集中している。
低く唸るような音を上げる金属の台が、魔法の光を発している。
複雑な魔法陣の上で、金属の箱に力が掛かっているのが分かる。
熱もここまで伝わってくる。
時間の経過とともに、魔法石が小さく消えていっては新しい石を足している。
1時間ほど経った後、剣の入った箱を台から移動して、さらに1時間ほど常温に置いた後、魔法で冷やす。
乾かす時と違い、今度は冷やすのに少し時間が掛かった。
さすがにこの作業は、急速に冷やすと失敗するそうなので、これでもかなり早いペースでクーリングしたそうだ。
本来は、ゆっくり冷ますのと、触れると熱くて危険な為、扉と鍵付きの専用の棚に保管される。
そういうのは省略され、重い金属の上下を開いて、中の物を取り出す。
最初に入れた粘土の大きさから、半分以下になった物体。
出来上がったばかりの、まだ熱を持つオリハルコンの純白の剣。
ファンタジーの金属でつくられた剣だが、日本の通販と料理番組を合わせたようなノリでつくられた。
細かい作り方は違うが、炎熱の魔道具もこうやってつくられるそうだ。
以前つくったという物を見せてくれる。
手に持って見ると、赤銅色の棒状の物体。
そこそこ重量が感じられるが、金属としては確かに軽い。
この魔道具は、一族で縦ロールをつくる為の道具として、専用に作成されたそうだ。
あの髪は、クラスト家の魔道具製作技術のアピールの為でもあるらしい。
ちなみに、セフィアお嬢様の髪を毎日セットしているのはテリヤ・シスさんとのこと。
黒髪メイドさんによって、天然記念物ものの縦ロールは形づくられているのだ。
( それってドライヤーじゃねえ?。)
一度そう思ってしまうと、この棒がドライヤーにしか見えなくなった。
以前からのクラスト家の炉を使って、オリハルコンの剣が出来たところで、今度はセネカが新しい炉をセッティングし始める。
炉と錬金陣の台が一緒になったもののようだが、クラスト家にある炉と比べるとずいぶん大きなものだ。
昔ながらの鍛冶屋の道具と工場の機械くらい物が違う。
朝早くから、トリアステン商会の複数の竜車によって引かれて運ばれた大きな荷物。
オリハルコンの剣をつくっている間にも外で作業していたが、炉に魔法を掛けている途中には終わったようで、トリアステン商会の作業員は帰っていた。
クラスト家の工房のドアを取り外し、壁を一部壊して入れた炉を、セネカはテキパキと組み上げていく。
「手慣れているんだな。」
と、アヤトが言ったら、
「分解したのも私ですので、組み立てるのは簡単です。」
と、返された。
喋りながら、壁やドアまで直している。
鋭利に切られた壁の石が、何かヤバい薬品で、煙を上げてくっついていく。
「我が家の魔法防御があっさりと・・・」 とか、
「警備を見直さなくては・・・」
とか周りから聞こえるが、セネカは気にせず作業していく。
「私は物をつくるのがけっこう得意なんですよ。」
と、アヤトが聞いてもいないのに、言ってくる。
「・・・・・・」
呆れるほかない。
さきほどのオリハルコンの剣がつくられるより早い時間で、炉の設置が完了した。
それで今日の工房見学は終わりとなった。
それから屋敷の庭を散歩したり、屋敷の中を見学して過ごした後、新炉設置のお祝いを兼ねた夕食会をすることになった。
どこかそわそわしたクラスト家側の人間が、あれこれセネカに話しかけていたが、見事に新しい炉についての話題は出していなかった。
当たり障りのない会話と笑顔で話題をそらしていた。
次の日、元レイシアスト工房の炉、現クラスト工房の新炉で、さっそく剣をつくることになった。
昨日つくったオリハルコンの剣は、セネカが材料を提供してつくったセネカの物だそうだが、これからつくるのは、クラスト家がお金を払い、契約で提供された素材でつくるので、出来上がる剣はクラスト家の物になるらしい。
きびきびと動くクラスト家の職人に、新しい製法に対する意気込みを感じる。
数枚の紙を持ったセネカが、本来は当主とその後継者しか入れない部屋に入っていく。
物づくりは共同作業だ。
製造方法の情報は共有されなければならない。
だが、根幹となる重要な素材の配合や製造技術は当主が管理しなければならない。
製造方法の、どの部分を家族や職人達に公開し、どの部分を秘匿するかは当主が決めることなので、そこらへんは、アヤト達が帰った後のことになるのだろう。
部屋から出て来た当主の顔色が悪い。
「お父様・・・」
と、セフィアが寄るが、
「何でもない。」
と、手で大丈夫なことを示す。
そして、作業場から粘土のような物を複数運んでくる。
セネカから当主に製造方法が伝えられ、それによってつくられた物だ。
それを皆で捏ねて、液体を入れて泥水にし、用意された石膏の型に入れ、剣の形にして錬金術を掛けて乾燥させる。
ここら辺の手順は昨日と同様だ。
一つ違うのは、薄い金属の板のようなもので仕切って、別々の粘土の泥水を入れていることだろうか。
この石膏の型は、トリアステン商会が運んできた荷物に入っていた物だ。
昨日のように、魔法でさっさと乾燥されると、日本の某料理番組でよく見られる、あらかじめ仕込んでおいた物のごとく、粘土の剣が出てくる。
乾燥した粘土の剣をやすりで形を整える。
粘土の剣身に彫刻刀のような刃物で細かい模様を入れていく。
これは昨日なかった手順だ。
それを終えると、彫った跡に別の粘土を溶いた物を塗り、乾燥、また形を整えていく。
当然その度に錬金の魔法が掛けられている。
これらの作業は、クラスト家の人間も手伝っているが、セネカが手際よく行っている。
職人はその様子を食い入るように見ている。
最後に釉薬のような液体に粘土の剣を漬け、錬金魔法を掛けて、魔法で乾燥すると、立派な粘土の剣が完成する。
本来は粘土の剣は自然乾燥させるもので、今回も時間優先の名の下にセネカが魔法で乾燥させていた。
セネカは、何か言いたそうなクラスト家の人間を放っておいて、さっさと粘土を新型特殊炉に入れてしまう。
若干違うところはあったものの、基本的な手順は昨日と同様だった。
大きく変わったように見えないのは、大事なのが材料やその配合、錬金陣の構成や錬金術の式だからだ。
昔小学校にあったゴミの焼却炉を大きくしたような新型炉の下の方にある窪みに魔石を入れていき、魔法を発動する。
セネカが商品を説明する。
この新型炉は、旧型炉に比べると魔法石のエネルギー効率が2・3割は良いらしい。
出力も2・3割高いとのこと。
製作に掛かる時間も2・3割速いらしい。
魔法の定着の失敗も3・4割改善されるそうだ。
プレゼンが終わると、新型炉の優秀さが際立ち、クラスト家の人達も沸き立ってくれた。
「ここまで差があるのか。」
と、感心してもくれた。
魔法石とは、魔術師が魔物から出た魔石からエネルギーを取り出し、人間に使いやすい状態に魔力を抽出して結晶化させた物だそうだ。
似たようなものに魔法水・魔力水がある。
魔法水の方が、魔法石に比べ魔力を扱いやすく、魔力の供給源としては優秀だそうだ。
その反面、液体なので気化しやすく取り扱いが難しい。
固体の魔法石と違い、保管には特殊な錬金術によってつくられた容器かガラスの瓶に入れておかないと駄目なのだ。
魔石から直接魔力を取り出すのは難しく、時間も掛かる。
実際に魔法の補助としてこれらを使用しようとすると、魔法石や魔法水に加工する必要がでてくる。
魔法石や魔法水があると、普段以上の魔力で魔法を放ったり、魔道具を動かすことが出来る。
ただし、魔法石や魔力水にも弱点がある。
魔石と違って、少しずつだが魔力が抜けていくのだ。
魔力自然拡散である。
あらかじめたくさん作っておいても、いざという時に使い物にならなかったりする。
魔力の自然拡散が少なく、持ち運びもしやすいが、魔力効率は悪い魔法石。
魔力が空気中に拡散されやすく、持ち運びもしにくいが、魔力効率の良い魔法水。
どちらが良いかは人による。
ゴーレムや魔道具のエネルギー源として主に魔法石が使われるのは、経済効率がいいからだ。
戦争用の魔法補助の物資としては、魔法水が大量に用意されるし、上級冒険者の魔法使いが、上位の魔物を討伐する際には魔法水の方が好まれる。
この新型炉は、その両方に対応しているとのこと。
急ぎの仕事などの際は、魔法水に切り替えて製作を早めることが出来て便利なのだそうだ。
炉が発動している中、説明を続ける。
昨日の当主の様子とはえらい違いだ。
今はオリハルコン製作用の特殊炉に入れられた粘土に、圧力と熱と魔法が同時に掛けられているそうだ。
昨日の炉とは明らかにレベルが違う。
それを見守るクラスト家の人達には緊張が見て取れる。
それを扱い、魔法を使っているセネカにも緊張と真剣さがみられ・・・・・・いや、全然見られ無い。
相変わらず後ろを見ながら魔法を操っている。
やがて、金属のような光沢の白金のオリハルコンの剣が出来上がる。
柄は白、刀身に赤い模様が入った凝った造りの物だ。
領主はもちろん、領主の弟や職人から、感嘆の声が沸き上がる。
これはこれで綺麗でかっこいいが、
「何で炎熱や烈火の魔剣の方をつくらないんだ。」
アヤトとしては、握ったら炎が出る剣なんて憧れるし、そっちの方を持ってみたかった。
「あれはつくり方が秘密なんです。
さすがに見せてくれません。
それに、何回も炉で部品を形成し、複数回に分けて製造したりと、つくるのが大変面倒なのです。
配合を変えた複数の性質の違うオリハルコンを組み合わせたり、特殊な魔法陣を構築して焼き付けたり、溝をつくったりと、つくるのに大変時間も掛かります。
オリハルコンは、材料の配合や魔法の掛け方次第で、魔法を通さないオリハルコンの盾、魔力伝導率が高いオリハルコンの剣、軽いオリハルコンの鎧、頑丈なオリハルコンの籠手のような工夫が出来ます。
そして、魔力を通すと魔法を発動する魔剣も作ることが出来ますが、ちゃんと使える魔道具として機能させるには、気の遠くなるような研鑽と技術が必要です。
一度技術が確立すれば量産も可能ですが、オリハルコンの材料は量が確保出来ないので難しいでしょう。
それに、オリハルコンの材料は貴重なので、そのような消費の仕方はお勧めできません。
低品質のオリハルコンの武具を量産するなら話しは別ですが、掛かる資金の割に武器の性能が上がらないので、材料の無駄です。
オリハルコンは材料の素材やつくり方で性質や硬度、品質に大きな差が出ますから。
下手に材質をケチったり、手を抜くと中途半端な物しか出来ないので、それくらいなら、鉄で丁寧につくった武器の方が性能は良いですよ。」
セネカは、アヤト達パーティーメンバーに向けて話し掛けているのだが、むしろ周りの人間の方が聞き耳を立てている。
耳目が集まる。
話しが進むにしたがって当主の顔色も悪い。
「参考までに、イシュカさんが使っている打撃武器が『耐熱・耐魔力』に特化した最高品質のオリハルコンで、昨日つくったメスが『硬化・柔軟性』に重きをおいた最高品質のオリハルコンです。」
セネカは自分の、旧クラスト家の炉でつくられた白いオリハルコンの剣を取り出して、作業場の万力で固定していく。
何処からか、昨日のメスを取り出し掲げる。
メスを一閃する。
カン、と小さな音。
少し遅れて、カランカラン。と、金属が床に当たる澄んだ音が響く。
続いて、セネカに耳打ちされたイシュカが、自らの鉄パイプのような武器から炎の刃を出し、オリハルコンの剣に振りかぶる。
更に短くなるオリハルコンの白剣。
セネカは、ついさっき出来上がったばかりのオリハルコンの剣を手に取り、昨日クラスト家の技術でつくられた剣に向かって刃を振る。
また少し短くなる。
後はメスを使って輪切りにしていくセネカ。
当主の顔色がさらに悪くなる。
いや、向こうで、渋い顔のおじさん(領主弟)が打ちひしがれているんだが・・・。
またオリハルコンの剣が切られた。
あ!。
さらにさらに、おじさん(領主)が泣き始めているんだが・・・。
こういうのを【おじさんの哀愁】と、いうやつだろう?。
アヤトは見当違いのことを頭に浮かべて、見ていることにした。
いや、あんなおじさんの為にセネカを止めるのは嫌だし。
斬鉄の技は、セフィアさんが止めるまで続いた。




