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異世界怖い  作者: 名まず
19/60

**工房見学(前)

 授業後、いつものようにパーティーの集まる教室に入ると、メンバー以外の先客が居た。


人数は2人、金髪と黒髪の女性で、見た目のとしは、アヤトより少し下だろうか。


衝撃だったのが、女性の片方がドリル髪のお嬢様だったことだ。


( いるんだ。現実に。)


さすがファンタジー世界だと、妙な感動がある。


2人はセネカと話していていたが、アヤトが教室に入ると、話しをめてアヤトを見る。


セネカが目線で挨拶を促す。


アヤト以外のパーティーメンバーはすでに集合していて、挨拶も済ませているようなので、名前だけの軽い挨拶をする。


ちなみに、アヤトの名前は【アヤト】だ。


平民なので、フルネームじゃなくても問題ない。

むしろ、アヤトしか名が無いことになっているので、フルネームは名乗れない。


向こうからも自己紹介を受けた。


今知ったことだが、今度パーティーで行くことが決まってる町の領主の娘と、その臣下の娘らしい。


金髪でドリルの方が、カノヴァの大学生で、主に魔道具づくりの講座を専攻している先輩で、今度行く町では、パーティメンバー全員がこの先輩の家に泊めさせてもらえるそうだ。


「なんで?。」

貴族の屋敷にパーティーメンバーで泊まるなんて初めてだ。


「今度、彼女の実家でオリハルコンの剣を製造するからです。」


「おおっ!。」


オリハルコン!、異世界のファンタジー金属だ。


ミスリルはこの前見たし、今使っている槍にもミスリルは含まれているそうだが、それに続いて今度はオリハルコン。


ドリル髪のファンタジー女性(失礼)とともに、アヤトのテンションが上がる。


今日はお世話になる前の顔見せと自己紹介だそうで、金髪の女性の後ろで頭を下げてる黒髪の女性は、メイドっぽいなと思っていたのだが、幼少の頃よりセフィアと名乗った金髪の女性に仕えている本物のメイドとのこと。


名前はテリヤ、肩くらいに切り揃えられた真っ直ぐな髪が印象的だ。


学園の大学で、各国の貴族の常識・マナー、礼儀作法やお茶・裁縫、人の差配・金銭の管理から税金などの知識まで幅広く学んでいるそうだ。


学園ではオールマイティーな知識も教えている。


メイド頭や執事長など、配下の中でも上に立つ者は、そこらにいるお手伝いさんではない。

高い知識や教養が要求されるプロフェッショナルな職業だ。


カノヴァの学園には、それらを教える講義や教育課程も用意されている。


こっちの世界では、メイドはありふれた普通の職業だ。


日本のように外国に行かなければ学校が無いということはない。


その教育費は当然、セフィアの家の実家が出している。


家に仕える者の教育は貴族の義務であり、その為にお金を出すのは当然のことだそうだ。


学園内でも普段から貴人の世話をしている。

学園に召使いや使用人を連れて来るのはNGだが、こういうのはいいらしい。


学園内でメイドや執事みたいのを見かけるが、あれは学生だったのか。


主人と同じ学校に通い、共に学んできずなや忠誠心を深める。

そういう風に学校に通う学生はけっこういるらしい。




 その貴族のお嬢様、セフィア・メルカ・クラストの実家は、フレドの家のような城でこそないが、大きな屋敷だった。


敷地もやたら広い。


その屋敷の大広間には、バカ長い長方形の重厚なテーブルがあり、奥の中央の席には、40~50代だと思われる立派な紳士が座っている。


その紳士から見て右側には、貴族の家族っぽい人々が並んでいる。


その人達の後ろには、さらに貴族でない人達も並んでいるが、見た感じ使用人という感じはしない。

いかめしいおじさんだ。

・・・職人か兵士か。


その反対の席、つまり偉そうな紳士から見て左側には、アヤト達木漏れ日の樹のメンバーが座っている。


左右の席の落差がひどい。

これ何の集まりなんだ?。


豪勢な食事に、めかし込んだ家族、一族総出で出席しているんじゃないかという意気込みを感じる。

こっそり向かい側の席を確認し、セネカをつつく。


上座に座っているのは当主で、右に座っているのは当主とその弟の家族で、後ろに立っている人は、地位の高い職人のようだ。


こっちは座っているのに、正面に立たれると食べにくい。

顔が見えるし・・・。


一介いっかいの学生を、貴族の家族が揃って出迎える。


( これってこっちの世界では普通なのか?)

疑問は尽きない。


「おい、これ、本当にオリハルコンの剣の製作見学ツアーなのか。」


声をひそめてセネカに確認するが、セネカは当主の方を見ていて、顔をこっちに向けなかった。


あと、つっこみたいことがある。


後ろに立ってる貴族っぽくない人の髪は普通だが、椅子に座ってる貴族っぽい人の髪型が全員、ロールかカールだ。


女性が縦ロールのお嬢様スタイル。

男性が音楽室の肖像画スタイルだ。


正直笑わなかったのをめてもらいたい。


セフィアは長女、下に弟と妹がいる。


フレドくらいの歳の弟と7~9歳くらいの妹、母親や祖母らしき人、当主の弟とその家族もいる。


縦ロールのドリル令嬢やその妹のロリル少女はともかく、バッハな伯爵やバッハ君、カールおじさん(顔は渋いイケおじ)、ドリル母ちゃんやドリルばあちゃんに需要があるのだろうか?。


( ないな。)


そう思ってこの家族達を見たら、全員の目がこっちを向いた。


何故かセネカの視線も来た。


「気を付けてくださいアヤトさん。

クラスト家の人間は、あの髪型に対する悪口に、ものすごく敏感なんです。」

セネカが声を抑えて強く言う。


( いや、まだ何も言ってないが・・・・・・・・・・)

慌てて顔を下に向け、ごにゃごにゃ言っていると・・・。


「・・・くれぐれも余計なことを言わないでくださいね。」

笑顔があつい。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」

どうしてだろう。俺の信用が全然ない。


セネカはアヤトから目を離し、それとなくパーティーのメンバーに、クラスト家の人間はこの髪型が代々の伝統であること。


このクラスト伯爵領、クラストの町は物づくりの町として知られた大きな町で、ここでつくられるオリハルコンの剣やオリハルコン製のさねを使った鎧は、王家にも献上されていること。

を伝える。


ついでにオリハルコンにまつわることも説明しだした。


こっちの世界には、地球にはない魔法金属というものがある。


ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトなどがそれである。


これらの道具の作成には特殊な技術が要求されるそうだ。


例えばミスリルなら、ミスリルを溶かし、溶かした金属を編む。

魔法で編み物をするようにつくる特殊な技術が必要で、エルフや高位魔術師くらいでないと製造出来ない。


アダマンタイトに関しては、通常の鍛冶のやり方でつくれるが、かなりの高温と強い力・高密度の魔力が必要になるので、常人では作成は難しく、ドワーフや高い魔力を持っている鍛冶師が適しているそうだ。


オリハルコンなら、材料に高い熱と圧力を同時に掛けつつ、さらに魔法を加えるような製造技術が必要で、これが難しいらしい。

(後でセネカが、オリハルコンの考え方として、あなたの頭の中にある物で一番近い物はセラミックだと教えられて驚いた。)


オリハルコンは量産が難しく、大型の物をつくるのも困難だそうだ。

それは、オリハルコンを製造する炉や錬金陣を大きくするのが難しいことが原因とのこと。


この工房では、大きいものがつくれない為、鎧も大型の部品は使わず、小型の部品を組み合わせて作成しているとのこと。


そこまでの説明を受け、アヤトは仲間を代表して手を上げる。


「はい・・セネカ。

オリハルコンの製造の見学もそうだが、そういう話しって秘密なんじゃないのか?。

・・・そう簡単に見せてくれるものなのか。」


「そんなわけないじゃないですか。

オリハルコンの製造は門外不出の技です。

国にとっても重要な技術なので、よそ者に見せたとなったら、国家反逆罪で処罰されます。

まあ、おおまかなつくり方程度なら、わりと知られている情報ですので問題ありません。

実際の詳しい製作レシピを流出させない限り大丈夫ですよ。」


いや、向こうの席の人達、首を振っているんだが?・・・。


「そ・・そうなのか?。」


「ええ、ではこれを見てください。」


セネカは懐から小さな箱を取り出す。


中から粘土のような物を取り出し、ねる。

出来上がったのは中型サイズの粘土のメスだ。


形は間違いなくただのメス。

失敗しないドラマで見覚えがある。


呪文が唱えられ、セネカの左手に魔力が集まる。

左手の周囲が光り、直径50~60センチ程度の空間に圧を感じる。


周囲は、その光景に圧倒される。


間もなく・・・。

実際は10分ほどは経っているかもしれない。

あまりのことに皆魅入みなみいっていて、時間の経過を忘れていた。


セネカの左手にあったのは、サイズが3分の1くらいになった、手術用のメスを少し大きくした物だ。


淡い金色に光る金属にしか見えないメスを、厚手の布で包み、粘土を入れていた木箱にしまう。


「「・・・・・・・・・・・・・・」」


「これがオリハルコン製造を分かりやすく見せたものですが、説明したくらいで、これと同じことが出来ると思いますか?。」


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


いや、今のが異常なのは分かる。


「そもそも、オリハルコンの素材の調達や製作自体が困難です。

簡単に説明したくらいではつくれません。」


「でも今回、つくるところを見せてもらえるんだろう?。

それはいいのか。」


「ええ、本当なら断られるところですが、今回オリハルコン製造用の特殊炉を手配することを条件に、特別に見学させてもらえるよう交渉したんです。」


「それって学生に出来ることなのか?。」


「ええ、学内で人脈や交流をはぐくみ、それを社会に生かし、将来の活躍のかてとする。

これぞ学生の本来のあるべき姿です。

クラスト家の人達も、学生の勉学べんがくの為ならばと、こころよく了承してくれました。

実は近々、レイシアスト工房というオリハルコン制作工房が、新しい炉を導入するにあたって、古い炉を放出することになりました。

それを取り扱うのがトリアステン商会です。

幸い、どちらにも伝手つてがありましたので、今回の仲介をさせていただくことになりました。」


「だから、それって学生がやることなのか?。」


向こうの人達は、やっぱり首を振っていたが、セネカは堂々と頷く。


「ええ、社会で実地で学ぼうとする姿勢、まさしく学生に相応ふさわしいものではないでしょうか。」


「・・・・・・・・・・・・」

何を言っても無理そうだった。




 「オリハルコンの特殊炉購入の代金については今回は手付けのみで、残りはトリアステン商会側に借りるという形で、保証人は仲介者として私がなります。

オリハルコンの材料の流通に関しても、契約分に関してはトリアステン商会が請け負う。との了承が得られています。

事前に提示した条件通りです。

変更はありません。」


セネカは書類を出しながら、クラスト家の人間に向かって説明を続けている。


「本当なんだろうな。」


前の席のカールおじさん、当主の弟が怪訝けげんそうな声を出す。


かなり怪しんでいる。

ドラマならこのまま詐欺師に引っ掛かる場面シーンだ。


当主の弟が色々細かく言うのを聞く限り、条件が良過ぎて不気味らしい。


こちらの世界、金を借りる場合、利息の上限などの法律はない。

本人同士の話し合いで決まる。


さすがにこっちの世界でも、トイチの利息は取り過ぎで、商業ギルドから警告を受けるたりするらしいが、それでも、ひと月で3割や半年で5割、一年で倍くらいの利息は普通のことだそうだ。


グレーどころかブラックな金利だが、昔の地球は、日本でも西洋でも、もっとアコギだったらしいから、それよりはずっとましだとセネカに指摘された。


利息に関しては、こっちの世界の方が良いところがある。


それは複利はとってはいけないことになっていることだ。


いつまで、どれくらいの金利で借りるか、その都度、契約を更新しないといけないことになるが、こっちの世界、利子は単利法が採用されている。

数年単位で借り続ける場合も、自動的に単利法が適用される。


授業によれば大昔、庶民が複利法の知識を持たずトラブルが続出、その為、多くの国同士で話し合い、複利法による利子の徴収を禁止する条約をつくったのだそうだ。


それ以来、特別な場合を除いて複利法は禁止されているとのこと。


そういうところはやけに進んでいるなと思う。



 話しを戻すと今回の契約の場合、中古のオリハルコンの特殊炉が金貨1万枚、利子は年率1パーセントとのことだ。


今までのクラスト家の魔剣製造能力が年に1~4本ほどだそうだ。


今回の契約の場合、剣が年に10本程を予定、炉も大きくなるので鎧なども比較的大きな部品の製造も可能。

金貨1万枚で年1パーセントの利息なら、すぐに元を取ることが出来るようだ。


クラスト家の炎熱や烈火の魔剣の場合は、材料費が金貨300枚、売値が600枚、店頭に並ぶ頃には、金貨800~1000枚になる。


ぼったくりじゃないかと思ったが、良心的な値段だそうだ。

この時代の技術料や流通費を甘く見過ぎだと言われた。


ひどいところだと1本買うのに金貨3000枚くらい取られる。


それを聞くと、あのオリハルコンのメスを武器屋に持ち込みたくなる。


当主の弟さんは、炉の性能が偽りだった場合や炉だけ売ってつくる材料が手に入らないよう裏から手を回す場合を懸念している。


つまりは詐欺を心配している。


今回のオリハルコン炉は安い。


ただ、それはオリハルコンをつくる炉としての値段で、金額的には、日本円で30億~50億円、かなりの金額である。


伯爵家といえども、じゃあこの場で決めましょう。と、出せる金額ではない。


こうして自分達を家に招いている時点で、かなり前のめりに見えるのだが・・。


買いたいが、決断が出来ない様子で、ああやこうや議論しているようだ。


今回の取引の条件の一つが、冒険者パーティー木漏れ日の樹のメンバーにオリハルコンの剣の製作現場の見学を許す。だそうで、これはかなり特殊なことらしい。


「断られたらどうする気なんだ。」

アヤトが疑問を訪ねると、


「その場合は、後日レイシアスト工房の方に行きます。

ただあそこは距離があるのと、レイシアストさんが忙しく、なかなか時間が取れないんですよね。」

と、セネカがなげいている。


なら、こんな面倒なことをしなくても、さっきのオリハルコンのメスづくりで良かったのでは?。と、思う。


そんなことを考えていたら、


「あ、あの、レイシアスト様の工房に行くなら、わたくしも御一緒したいのですが・・・。」


セフィアさんがこちらの話しに入ってくる。


( レイシアスト様?。)

知り合いだろうか?。

セネカの方を向くと、


「ファンだそうです。」

と、返ってきた。


ここ20~30年で有名になった新進気鋭のオリハルコン製作工房が5つ。


その中でレイシアスト工房は唯一の女性工房主とのこと。


セネカは、セフィアさんのお願いをにこやかにかわしつつ会話を続けている。


結局レイシアスト工房には行かないということになって、契約に成功したはずのクラスト家のセフィアさんは大分残念がっていた。




 余談かどうかは分からないが、最後は当主の決断でオリハルコンの製造用の特殊炉の売買契約の締結と、オリハルコンの製造現場見学が決定した。


なごやかにサインや握手・書類のやり取りが行われている。


和やかな雰囲気の中、アヤトが何気なにげ無く、


「その炉はいつ来るんだ?。」

と、聞いたら、


「もうトリアステン商会の倉庫に来ているので、今から使いを出せば、明日には来ますよ。」

セネカは気軽に答えた。


( ずいぶん早いな。)

と、アヤトが思っていたら、当主がワインを吹いていた。


初耳のようだった。





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