**エルフのや(後)
焦げたり、凍ったりした的を片付けたり、荒れた地面を整地する。
どうして矢がギザギザに飛ぶのか疑問しかない。
しばらくして、訓練室からエルフの3人が完全に居なくなったことを確認すると、アヤトがセネカに詰め寄る。
「おい!。」
「まあまあ・・・」
宥めるセネカ。
「実は彼女らを指定して呼んだのは、アヤトさんに【弓矢の技】を見せる為なのは事実ですが、本命は、少し天狗になっているようなので、それとなく注意するように、彼女らの長老からお願いされていたんですよ。
エルフ族は皆優秀ですから。
そこで、上には上がいることを見せたんです。
身内が心配しているから、身を引き締めて勉学に励め。
そんなことを言っても、反発されるだけでしょう?。」
セネカは素直に謝る。
「なら、誤解させるように言うな。
俺のイメージが大変なことになるだろう。」
どうしてくれる。
俺の評価は帰ってこないぞ。
「いえいえ・・ほら、アヤトさんの尊い犠牲で、彼女らの反発心が養われました。
今頃、訓練室の予約を入れて矢の練習をしたり、魔物退治に行く計画を立てたりと、自分磨きに勤しんでいるはずです。
アヤトさんの評価ですが・・・・今さらですし、いいかなと。」
「正直に、人を出しに使ったと言え。」
ついでに、気になっていたことを確認する。
彼女らの前では、しにくかった話しだ。
まず、エルフについて聞く。
3人(?)共、特徴が全然違っていた。
一番気になったのは、ロゾトルスルメアと名乗ったエルフ(?)だ。
この人は、エルフか?。と、思うくらい『人間』ではなかった。
とても美しい生き物ではあったが、目は人間よりずっと大きく、色は紺に近い紫。肌は紫色で、肌には白い文様のようなものが浮かんでいるが、染めたり書いたものではなく生まれた時からのものらしい。
髪は白っぽいというか透明っぽいが虹色に輝いている。
明らかに種族的特徴が人間ではない。
アヤトが、それらを指摘すると、
「エルフの定義は、人によって違うので説明が難しいのですが・・・ロゾトルスルメアさんは、私の中ではダークエルフ・ハイエルフといった分類です。
見て分かるように、人間とは全く別の、独自に進化した種族です。」
セネカは口にする。
「ウルクミナと名乗った黒い肌のエルフがいたけど、あの人はダークエルフではないのか?。」
「人間の中にはそう呼ぶ人もいますが、正確には違います。
人間は自分の都合の良い、分かりやすい区別を好みます。
単純に肌の色で分ける人、敵と味方で分ける人。
エルフと争いになると、あれはダークエルフと言ったり、肌の色が黒いとダークエルフと決めつけたりします。
学者の中には、文明や暮らしで分けている人もいます。
これは、森と共に生き、精霊魔法を使い狩りをして暮らすのがエルフです。
文明を尊び、過去の遺産を収集し、研究したりするのがダークエルフです。
この区分のダークエルフは、人間と生活圏が重なりやすく、争いになることが多いので、余計にダークエルフと呼ばれ、人間に嫌われます。
他にも時間で区別として、700年以上生きているエルフをハイエルフと呼んだりもします。
ベルメリアさんは、白い肌のエルフですが、文明を貴ぶダークエルフとも言えますし、肌の色で区別するならエルフです。
ウルクミナさんは、自然を尊重し森とともに生きるエルフですが、黒い肌のエルフがエルフでないというのならダークエルフといえます。」
だそうだ。
ややこしい。
セネカ的には、紫の肌の人間種には見えないエルフの方が、真のエルフ・ハイエルフで、古くは古族と言われ、人前に姿を現すことは稀なのだという。
人に近く、人でない姿から、エルフが出現して以降、ダークエルフと呼ばれるようになったとか。
他にも、青い肌や黒い肌の【人】もいるそうだ。
【ダーク】エルフという名も、見た目と、住んでいた土地を奪った人間側が勝手に付けた名前だ。
人間型の白い肌と黒い肌のエルフは、どちらもエルフで、肌の色が違うだけだそうだ。
あなたの世界の白人と黒人の違いと変わりません。
肌の色など、暑い地域に住んでいるか寒い地域に住んでいるか、住環境に体が適応した結果が色に表れているだけです。
紫外線量が多い環境下では、色は薄いより、濃い方が紫外線から体を守れます。
本来、色に悪や善などはありません。
そもそもエルフは環境適応能力が高い種が多く、種によっては暑い地方で100年も過ごせ、肌や髪・瞳の色さえ濃くなったりします。
あなたの世界では、白人は日に焼けたら黒人になるんですか?。
長い時間の進化の形は、色で優劣をつけられるのですか?。
自然を尊重するか、文明を重視するかにしたって、考え方の違いです。
あなたの世界でも環境保護団体と科学至上主義者では主張は合わないでしょう。
ただ、文明を築くダークエルフは、人間にとって邪魔な存在になる。
文明が発展するのは住み良い地です。
お前らが住む土地があるなら、俺たち人間様に寄こせ。
それだけの話しです。
戦争して取るのです。
だから、相手はダークであり、悪なのです。
人は他者を殺すのに理由が必要な生き物なんですよ?。
そして、理由さえあれば他者を殺せます。
「・・・・・・・・・・・・・」
まあ、地球の歴史を見てもそれは理解できるが・・・・・話しが重かった。
黙ったアヤトに気付かったのか、セネカが話題を変えた。
「それと、アヤトさんには、あの3人の関係について、分からないことが多かったでしょう。
彼女らは、エルフが住む森にある、それぞれ別々の里に所属するエルフです。
お互いは好き合ってはいません。
はっきり言うと仲が悪いのですが、それ以上に嫌な天敵がいるので、それから隠れるように、同じ森に暮らしているのです。」
「同じ敵って、魔物とかゴブリンとか?。」
「ゴブリン程度、何とでもなります。
先ほどの私の話しを聞いていなかったんですか?。
エルフの嫌な敵と言えば人間に決まっているでしょう。
この世の癌細胞、自然の破壊者・・・あなたの世界でも数多くの動植物を全滅に追いやり、環境を破壊しているのは人間のようですが、こっちでもそれは変わりません。
人間種以外の生物にとって、人間とは、【ゴブリンより頭が良いから余計質が悪いゴブリン】程度の認識です。」
昔、エルフの森はもっと広大で、エルフは大陸の広い範囲に暮らしていましたが、次第に土地を追いやられて、今ではこの大陸に、あの森にしか里はありません。」
と、言われた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
会話が余計に重たくなった。
「あとは・・エルフがあの森に集まって暮らしているのは、あの森に世界樹が生えているからです。
彼らにとって世界樹は大事な存在なのです。
あの矢の元になる物も世界樹から採れます。
『世界樹の種』と呼ばれていますが、正確には種ではありません。
まあ、長くなるので、詳しくは今度行った時にしましょう。」
そう言って話しを締め括った。
ただ、新たな疑問も出てくる。
あまり人と交流しない。と、セネカが自分で言っていたエルフと交流を持ち、依頼も受ける。
時々学園の偉い人も訪ねてくるし、どういう人脈というか、こいつ何者なんだ?。
と、いうものだ。
やっぱり怪しい。
ちなみに会話は終わったと思ったが、一番最後にセネカは、こう言った。
「あっ、もちろん、人間は美しいものをつくるし、面白いことを考えるので素晴らしい。と、思っている多種族の人もいっぱいいますよ。」
フォローが遅えぇよ。
熱心に魔術ギルドの勧誘を受けた翌日、いつものパーティーが集まる教室に着くと、開口一番に協会とやらのことを聞いてみる。
「昨日、何とか協会とかいうところの奴が声を掛けてきたんだが・・・」
「ああ、魔導協会ファウルトですね。
あそこが来ましたか。
どんな感じでしたか。」
「なんか、熱血で、爽やかで、胡散臭くなかったぞ?。」
「何か、私に対する当てこすりを感じますが、まあ、いいでしょう。
あそこは大きな魔術ギルドです。
この辺りでは力を失っていますが、他国ではまだまだ大きな力を持っています。
協会の問題は、組織が大き過ぎて、派閥でバラバラに動いているところですね。
あそこが動きましたか。」
「大丈夫なのか?。」
アヤトが心配する。
「熱血で爽やかということはルーヤファーレスさんのことでしょう。
あの人は正道派の人間なので大丈夫ですよ。
少し熱いところがある人なので、ぜひ俺と一緒に魔術界を盛り上げていこう。みたいなノリで入会を誘われたでしょう。」
「ヤバい奴ではないのか。」
「あの人は大丈夫ですよ。
アヤトさんは、魔法使いを悪い人みたいに思っているかもしれません。
魔法は過去何度か世界を滅ぼしているし、世間もよく分からない魔法使いを恐れていますが、基本、魔法使いはエリートです。
犯罪のようなことをしなくても食べていけますし、まっとうな仕事もたくさんあります。
冒険者の間でも、魔法の使える人は引く手数多です。
アヤトさんを召喚したような、怪しい魔法使いは数が少ないです。」
「・・・・・・」
少しほっとする。
その後の、「気を付けていれば全然大丈夫ですよ。」
という言葉が無かったら・・・だが。
本当に大丈夫なんだろうな。
と、思いつつ、アヤトは魔力を操る修行に入った。
ルーヤファーレスが歩いていると、仲間が集まって来る。
「アヤトって言いましたっけ、勧誘はどうでした?。」
「断られたよ。」
苦笑しながら答える。
話題は先日話しに出た新人のことだ。
ルーヤファーレスさんの誘いを断るなんて。と、仲間は憤慨しているが、
「いいんだ。
焦ってないし、そもそも他の魔術ギルドに所属している以上、魔導協会に入るのは難しいだろ。」
無理やり入れたところで、ギルドの為になるとは思えない。
あくまで声を掛け、将来の選択肢として考えてくれたらいい。と、思っている。
「でも、あいつには、実はリッチだという噂もあるんです。
ドラグ家も動いているって噂だし、アークラ家の娘も動いてる。
何よりあいつがバックにいるんですよ。
あのアヤトって奴には、何かあるに決まってます!。」
「リッチ?・・・まさか。」
あの青年にアンデッドの気配は感じなかった。
アンデッドには『生命』の反転の負の力、『穢れ』の気配があるはずだ。
まあ、使い魔のものと思われる魔力は感じたが、本人から負の力は感じなかった。
「見たって奴がいるんですよ!。
確かにアンデッドだったって。
それにあいつが出張っている時点で怪しいですよ。」
そうだそうだと、周りの者の声が大きくなる。
協会のほとんどの者が嫌っているようだが、ルーヤ自身は別に嫌いなわけではない。
注意はしてるし、油断のならない存在だと思っているが、それだけだ。
ルーヤとしては集会と争う気はない。
大きな魔術ギルド同士、協力していく必要もある。
「彼のことは無理強いは出来ないからね。
気長にやるさ。」
もう一度口にして、釘を刺す。
そんなのんきなことを言っているルーヤファーレスに、リックは、
「そうですね。」
と、相槌を打ちつつ、心の中で溜息をつく。
(やはり駄目か。
これは・・こちらが動くしかない。)
ルーヤファーレスから離れた彼は、他の取り巻きとも別れて、足早に歩き出した。
「よお、ここに顔を出すのも久しぶりじゃないか。」
軽く挨拶をする。
久しぶりに会ったが、気心の知れた相手だ。
「お前の顔を見に来たんだよ。」
そう返す口は、珍しく世辞じゃない。
「ん?。」
「ズゾメトスト、あの白い悪魔を討伐したそうじゃないか。」
「ああ、その話しか。」
男は顔を下に向け、一気に酒を仰ぐ。
ぷはぁ~~。
「いい飲みっぷりだな。」
「ああ。
あいつのせいで何人の冒険者が引退したか。」
「いや~ぁ、めでたい。一杯奢れよ。」
バンバンと相手の背中を叩く。
「バカッ!、逆だろ。
・・・まあ、そうだな。そのことで俺から一つ。
俺も今回の件で引退することにしたよ。
例によって肺をやられてな。」
「そうか・・・」
お互い杯を近づける。
乾杯の木の当たる音と周りの喧騒、二人の間だけ会話が止まる。
少し余韻を楽しんだ後、口を開く。
「今回、素材が高く売れてな。
パーティーの皆や、協力してくれた仲間と分けても、それなりの金額だ。
引退するにはいい潮時だ。
結婚して所帯でも持つさ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
突然の発言にとっさに言葉が出ない。
( 結婚?・・・ああ、あの村の娘か。
まだ続いていたのか。
冒険者なんかしていたら、一人の女と長く続かない。
すぐに愛想をつかされてしまう。
・・・こいつ、けっこうまめだったんだな。)
昔の馴染みの意外な一面に感心する。
ワイバーンは竜種の中では下に見られるが、空を飛ぶことも出来る立派な竜の一員だ。
魔物と違い、全身の素材もちゃんと残る。
しかも今回は【ネームド】のワイバーン、かなりの高値がついたはずだ。
「・・で、いくらだったんだ。」
無粋な話しではあるが、好奇心を押さえられない。
「聞いて驚けよ。
金貨2千枚だ。」
「くぅ~~~~、羨ましい。
この!、少しはこっちにも寄こしやがれ。」
「お前もこんな家業、早く引退しろよ。」
こいつ、自分が引退したら、急に年寄り臭くなりやがって、余計なお世話だ。
「それにしても、お前んとこも解散か・・・。」
酒のせいもあって、つい、しみじみとしてしまう。
一昔前、この男と自分の所属していたパーティーは、どっちがこの町で一番のパーティーか、よくケンカしていたものだ。
そして酒を飲んだ。
「嫁さんにかんぱ~~い!。」
煽って、肩を組んでくる酔っぱらいを、うっとおしそうにはねのけて、何度か目になる酒を仰ぐ。
それから1刻ほど後、2人はベロベロに酔った状態で、懐かしの酒場を後にした。
手に持たされたものを見て途方に暮れる。
別にあそことはそこまで深い関係はないが、向こうはこっちを下っ端か何かと勘違いしているようだ。
これだから偉い人というのは始末に負えない。
今の状況が分かっていないのだろうか。
それに、この前バカがやらかしたばかりなのに、また同じようなことをやって成功すると思っているのだろうか。
さて・・・どうするか。
いっそのこと、シンプルに同じことをした方が成功するか?。
少し悩んで、顔を上げる。
笑みが浮かぶ。
いい考えだ。
これなら怪しまれても、言い逃れは出来るだろう。




