**うわさ怖い(後)
アヤトが,、はじめて白い鎧を着ていると、途中からシャロが教室に入って来て、鎧を装着している様子を見ていた。
かなり奇異な姿だったが、シャロは特に何も言わなかった。
アヤトも、人の鎧に興味がないのかな。と、気にも留めなかった。
「今日の活動はこれで終わりにしましょう。
しばらくはこれを着て普通に生活して、この鎧に慣れてください。」
と、言われて、セネカに送り出される。
( それはそうだな。)
と、アヤトは教室から出て、部屋に革鎧を置きに行く。
デュークとイシュカは、外に走りに行っている。
毎日の日課で、走り終わったら、次はセネカによる修業がまっている。
アヤトが出て行き、姿が完全に見えなくなると、シャロは口を開く。
「あの鎧、なんか変だよな。」
「分かりますか。」
「で、何なんだ?。」
「秘密です。
直に分かりますから。」
セネカの道楽には呆れる。
まあ、面白いから嫌いではないfが・・・。
「あれもけっこうな物なんだろう。」
「いいんですよ。
あの鎧によって、アヤトさんがどう変化するか興味もありますから・・・実験代と思えば安いものです。」
実験代が実験台に聞こえる。
「それにしても、あいつ、ずいぶん強くなったな。」
アンバランスな強さだとは思うが、この前のゴキブリ、あれは攻撃力こそ高くないが、倒すのはベテラン冒険者でも難しい相手だ。
低く地面を這い、硬く、耐久値が高い。
一番厄介なのが、それでいて速いところだ。
このパーティーのメンバーなら問題がないが、あれを1人で倒せるなら、冒険者として十分やっていけるレベルだ。
「この前のゴキブリの話しですか。
アヤトさんには秘密にしていますが、思考加速を5倍、筋力強化を6倍まで強化していますから、あれくらい出来ますよ。」
セネカは軽く口にするが、言っている内容は軽くない。
シャロは呆れる。
「本人にはちゃんと言ってるのか。」
「ちゃんと、・倍に引き上げている。と、伝えていますよ。」
ますます呆れる。
「教えてやれよ。」
「世間一般の規定を超えていますし、アヤトさんは隠し事が下手なので、伝えない方が本人の為です。
それに、アヤトさんは地力が弱いというか・・・向こうの世界の人間は、こっちの世界の人間より弱いようなので、2倍程度の強化では、あのクラスの魔物を倒せません。」
「まあ、それはそうだろうけど・・・・。」
なら戦わせるなよ。とは、言わないでおく。
「それに、自分の力の上限を決められても困ります。
下手に線引きしてしまうと、今後の伸びが悪くなります。
その為に、アヤトさんに気付かれないよう、力の底上げをしているんですから。」
「でも大丈夫なのか。
体への負担がきついだろう。」
自分の気や魔力で、自分を【強化】するのと違い、外から魔法の力で強化、いわば強制的に思考を加速したり筋力を強化するのは、勝手が違うものになる。
シャロも、以前、興味本位でセネカに【5倍】の思考加速を掛けてもらったことがあったが、その時は、その後1週間くらい頭が痛くなった。
「アヤトさんなら大丈夫ですよ。
脳も筋肉もほとんど壊れていますから。
少しくらい強い負荷を掛けても、今さらです。」
「そんなにひどいのか。」
「ええ、本人は普通のつもりでも、身体の方はほとんどアンデッドです。
この前のゴキブリ退治の時に、鳥料理を食べたことを覚えていますか。」
「うん?、・・ああ。」
何を言い出すんだ?。
「あの味付け、アヤトさんの分だけ、塩を多めに足していたんですよ。」
食べれらないくらいに塩を入れた。
「ああ?。」
「おいしいと食べていました。」
「そうなのか?。」
「ええ。
更に、骨まで柔らかく煮込んだ。と、言ったら、骨ごと食べていました。
よく煮込んだところで、鶏の足の骨が柔らかくなるはずがないのに、です。」
「重症だな。」
「ええ、大分味覚の方も狂ってきてます。
強く魔力を集中し、意識して食べれば別のようですが・・・。
どうやら、おいしそうと思った物を、おいしいと感じるようです。
言葉にも影響されるようで、「おいしいですよ。」と、事前に情報を与えると、大抵「おいしい。」と、返ってきます。
ここまでくると、筋力強化の魔法を10倍にしても、壊れる筋肉がありません。
使いこなせるかは別ですが・・・。
思考加速の方も10倍にしたって大丈夫。
問題なのは、アヤトさんの精神の負担だけです。」
「いや、それが一番大切なことだと思うぞ、アヤト的に。」
大丈夫な話しが一つもなかったな。
「それに最近は、私の魔法の効きが悪くなってきているんです。
今は修行よりも、もう少し魔法が効かなくなるまでは、このままで様子をみたいと思います。」
「修行はいつからにするんだ。」
シャロが聞く。
「本格的に修行をするのは、アヤトさんが完全にアンデッドになってからですね。
あの鎧には思考加速や身体強化の魔法などが付与されていますので、今はそれを使いこなす方が先です。」
ちょうどそこへ、デュークとイシュカがこっちに向かう気配がする。
「私は2人の修行をみにいきますね。」
セネカが立ち上がる。
デュークさんに聞かれたら、自分と同じ目に合うアヤトさんを同情しそうで面倒だ。
「そうか・・・・。」
それはかわいそうに。
シャロはアヤトの冥福を祈る。
今度アヤトに優しくしてやろう。
人の噂も七十五日、という言葉がある。
それは真実のことであってほしいと思う。
レイチェルがアヤトの右手を磨いている。
また勝手にアヤトの手袋を外し、服の裾を少し上げ、前腕も磨いている。
キュッキュッ。
と、熱心な様子で、真剣な顔だが・・・誤魔化されない。
「おい!。」
「いつでも、うちの家に来てくれていい。」
グイグイ迫るレイチェルを、フレドが止めに入ってくれた。
「何を言っているんですか。
アヤトさんが迷惑しているでしょう。
それにアークラ家に行くくらいなら、アヤトさんはドラグ家に来てくれます。」
( ん?。止めてくれているんだよな?。)
話しが変な方に行こうとしている。
いつの間にか二人が、アヤトがドラグ家に行くかアークラ家に行くか、の話しをしている。
ついでに、どちらの家の方がアヤトにとって住み心地が良いのか、の話しに白熱している。
「いや、どっちの家にも行かないから。」
きっぱり言うと、2人の動きが止まる。
いや、そんな残念そうな顔をされても・・・。
「そうだ、アヤトさん、今度、部屋に遊びに行ってもいいですか。
一人部屋って言ってましたよね。」
気を取り直したフレドが言う。
「なら、私も行く。・・いい機会。」
「さすがにそれは無理でしょう。」
フレドとテルセルが即答する。
「いい方法がある。」
レイチェルがぶつぶつ言っている。
「僕は行きます。」
と、テルセルが言う。
アヤトが一番力を入れている授業がこの死霊魔術の講義だ。
自分で選択したことではないが、色々あって、最も力が入っている。
その講座で、こいつらしか友達がいないのが、俺の一番の問題なんじゃ・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アヤトは強引に話しを打ち切り、噂の残る教室から退散することにした。




