**うわさ怖い(前)
席に着くなり女の子が寄って来る。
もし自分が慕われているなら、良い光景だと思う。
だがそうではないと知っている。
骨やゾンビが好きと言ってくる変わり者の女の子だ。
美少女なのにもったいない。
「アヤトさん。」
挨拶し、左側の席に来た男の子はフレドだ。
とある事件を起こした張本人であるが、今は後輩のような感じだ。
実は、学園に入学したのはフレド達3人は2月で、10月に入学したアヤトの方が後輩である。
アヤトは、少女を無視してフレドに話し掛ける。
無視した理由は、右隣りの少女の目が輝いているからだ。
左に向かって話し掛けていると、右からぐっと寄って来て、
「包帯取ったんだね。」
アヤトが無視しているのを無視して、可愛らしく言う。
アヤトの右手の白い手袋を見てくる。
手袋の下はマネキンのようになっている。
骨の手よりましであるが、マネキンも充分に変なので、あまり見られたくない。
昨日セネカと話し合って、この白い手は義手である。で、通すことにしている。
「ああ、右手は治らなかったから、義手にしたんだ。」
このクラスの生徒には、アヤトの右手は悪霊の呪いでスケルトンになったと思われているが、俺はあくまで普通の人間、義手で通す。
アヤトがリッチであることは、パーティメンバーとフレドの家族以外にはバレていない。
しかし、この右隣りの少女、レイチェルには、薄々であるが、リッチではないかと怪しまれている気がする。
「リッチって知ってる?。」 「私リッチって憧れてるんだ。」とか時々話しを振ってくる。
今も椅子の上に立って、アヤトの着ている襟の深いデザインの服の隙間から、アヤトの胸元を覗くという奇行に走っている。
要注意だ。絶対にぼろは出さないよう気を付けよう。
逆だと犯罪になるのに理不尽だ。
とも思う。
「アヤトどうしたの、これ。右手見ていいよね。」
自然な口調でレイチェルがそう言ったので、自然にアヤトも断る。
「駄目」
「えー~~~~。」
不服そうなレイチェルに、隙を見せないよう笑顔を作る。
「アヤトさんに失礼だぞ。」
フレドがアヤトを擁護する。
ただ、こいつも要注意だ。
悪霊事件、アヤトの右手を骨にしたあの事件、フレドは自分のしたことを悪いと思っているようだが、その割には言葉の端端にリッチになれて羨ましい。
そのようなニュアンスが垣間見える気がする。
心の底から反省しているのか、怪しいところがある。
そっと回りを見回すも、視線が合わない。
周りのクラスメイトの視線は感じるのだが、こっちに関わり合いになろうとはしてない。
しっかりと聞き耳を立てているだけだ。
フレドは死霊魔術師として有名な貴族の出で、レイチェルもアークラ家という有名な死霊魔術師を輩出してきた名家の出らしい。
アヤトの方も、バックにいると噂されているセネカが問題人物らしく、アヤトがクラスメイトにセネカのことを聞いても、顔を逸らしてまともに答えてくれない。
この体の事はあまり突っ込まれたくない。
どうやって乗り切るか。
考え込んでいると、さっ、と右の手袋が引っ張られる。
「手が変、どうなってるの?。」
小首を曲げながら、中の骨が見えないのが残念そうに聞く。
「・・・・・・・。」
残念なのはお前だ!。
「義手って言ったよね。
それより、何で手袋を取ってるの。」
けっこう真剣に怒ったが、返ってきた答えは、
「これって何の素材で出来ているの?。」
だった。
「知らん。」
怒りながら答えたが、レイチェルはそれを気にした風もなく、アヤトの言葉に呆れている。
少し傷ついてフレドを見ると、目を逸らされた。
これ俺が悪いのか?。
確かに知らないのも変な話しだが、勝手に他人の手袋を取る方が、絶対に変だ。
そりゃ、俺も知りたかったよ。
でも、答えてくれないセネカから聞き出すのは、面倒臭くて嫌だったんだよ。
「みせてもらってもいい。」
と、レイチェルが言う。
もちろん調べられても困るので、はっきり断る。
するとレイチェルは、アヤトの右手を両手で掴み、じっと見る。
じっと見てペロッと舐める。
「なっ、なっ・・・・・」
アヤトはすぐに手を引く。
教室がざわつく、それはそうだろう。
日本じゃなくて良かった。
元の世界の日本なら、社会的に死んでたぞ。
通報案件、ロリコンは犯罪です。だ。
クラスメイトが何かうわさしているが、お願い、それ今すぐ止めて!。
慌てるアヤトを余所に、すっと宙を見るレイチェル。
しばらく悩んだ(味わった?)後、
「これは練り物だね。」
と、口に出す。
( 練り物?。)
アヤトは心の中で悩む。
カマボコではないよな?。
さすがに、俺の鎧がカマボコで出来ていたら、泣く。
まだ動揺は残るが、話している方が落ち着きそうなので、とりあえず聞いてみる。
「へ~え、で、何それ。」
まだ声が上擦っているのは仕方がない。
自慢じゃないが、女性と喋った経験は少ない(涙)。
「練り粉、粉を粘着性をもつ液体で溶いて、練り込んで固めた物。
これは骨を砕いた粉に、トレントの樹液を混ぜて固めた物を、錬金術で形成したものだと思う。
・・・・素材は槍背負いカタツムリの殻・ドラゴンの骨・他にも色々な骨を使っているようだけど・・他の骨は分からない。」
上気しながらも、悔しそうなレイチェルの言葉に、教室がざわめく。
「「ドラゴン?。」」
それはそうだろう。
アヤトも、まさかと思う。
まあ、竜といっても、走竜のような下竜もいるので、この世界では竜は珍しくないようだが、こっちの世界の常識では、走竜をドラゴンとは呼ばないらしい。
「そう、上位竜の骨だと思う。」
あっさり肯定された。
そう、上位竜かそれに近いくらいの竜でないと、ドラゴンとは言えないらしい。
出会うことは、それすなわち死。
最強生物、こっちの世界でもドラゴンは、憧れの生物らしい。
この時点まで遠巻きだったクラスメイトが、アヤトの右手を見ようと近くに集まって来る。
ドラゴンの素材で出来た武具は有名だが、実物を手に入れられる人は少ない。
見たり触ったりしただけでも、自慢が出来る代物だ。
何より【ドラゴン】という名前のインパクトはすごい。
ドラゴンよりいい武具の素材はある。
だが、何の魔物か分からないが強い魔物の素材の剣と、ドラゴンの素材の剣、どっちを取るかというと、ドラゴン、と、答えるのが世間一般の心情だ。
それに、ドラゴン素材の武具は、かなりのお値段になるので、庶民には高嶺の花で、貴族でもなかなか手に入れられる物では無い。
ましてや学生には無理だ。
「本当にドラゴンなのか。」
と、クラスメイトは聞いてくるが、アヤトには答えられないし、レイチェルはうっとりとして応えてくれない・・・。
・・・と、思ったら、
「家で舐めたことがある。
間違いない。」
とのブルジョワ発言。
「おお。」
となる、クラスメイトの感嘆の声。
「へ~え。」
戸惑うアヤト。
急にドラゴンの鎧とか言われても・・・。
まあ、対外的にはドラゴン素材製の義手なんだが。
何故かレイチェルは得意そうにしている。
舐めてそこまで素材が解かるなんて、そっちの方にも戸惑ったよ。
アヤトは若干・・・・・じゃなくて大分引いてしまった。
フレドやクラスメイトも、このクラスに居る以上、大なり小なり死霊魔術に縁のある人物だ。
死体や幽霊のようなものに慣れているし、忌避感も少ないと思うが、さすがにレイチェルの奇行には引くらしい。
レイチェルのことを、・・・・・・・・という目で見ている。
良かった。俺の感情は正常だ。
そんな騒ぎの中、タイミング良く(悪く?)ディレークト先生が教室に入って来てくれたおかげで、この話しは終わりとなった。
ただ、それは授業の間だけで、授業が終わるとアヤトは、逃げるように教室を出る羽目になった。
もちろん、その後すぐ、このことは噂とともに広まった。




