*お茶怖い (前)
エフェットの街の冒険者ギルドに入ると視線が集まる。
冒険者にとって情報は大事なので、新顔が入るとよくある光景だ。
セネカは周りの視線を気にせず、カウンターに向かう。
「依頼の達成の報告と素材の買取りをお願いしたいのですが。」
受付嬢は笑顔で、「どのご依頼でしょうか。」と、問うたが、
セネカがその依頼の内容を告げると、
ピキィ、受付嬢の笑顔に亀裂が入る。
笑顔のまま視線を彷徨わせている。
きっと代わってもらえる誰かを探しているのだろう。
同僚は目を逸らす。
ゴキブリはやっぱりこの世界でも不人気らしい。
セネカが大袋から、例の魔石の入った小袋や魔炭の入った筒が出す。
それが、目の前にドンと置かれる。
受付嬢は笑顔を崩さず、でも、そんなものは触りたくない。という表情をみせた。
器用なことをするな。と、アヤトは感心する。
ただ、続けてセネカが女王種の魔石と片翅の素材を見せると、受付嬢の顔は真剣なものとなる。
「森の方で異変を感じたので、それと合わせて上に報告をあげて頂きたいのですが。」
そう言ったセネカの視線が、後ろから歩いて来たシャロやデュークの持つ大カマキリの素材の元にいくと、
「すぐ上の者を呼んでまいりますので、少々お待ちください。」
と、受付嬢は慌ただしく席を立つ。
後方では冒険者達がちょっとした騒ぎだ。
騒ぎが起こるのは当然だ。
Gの女王の素材はともかく、カマキリの鎌は目立つ。
結局あの後、シャロは大きなカマキリを狩って、2本目の鎌を持って帰って来た。
シャロは一人で出掛けて行ったはずなのだが、持って来た鎌は、アヤト達が倒した蟷螂の鎌より大きかった。
10メートルのカマキリより大きかったということだ。
他にも、大袋には荷物がたくさん入っているので、このパーティーが大分稼いだことが、一目で分かる。
ちなみにこのパーティーで、アヤトだけが荷物を持っていない。
女の子〔イシュカ〕も持っているのにだ。
アヤトも「持つ。」と、言ったが、断わられた。
「盗まれたり、からまれたりすると困りますから。」 とのことだ。
俺の信用がすごく低い。何でだろう?。アヤトは悩む。
受付嬢が戻って来るのを待っている間にも、冒険者の視線は増えている。
見ているのは明らかに大蟷螂のカマ。
それはそうだろう。
セネカが言うには、この2本だけで金貨50枚は堅いという話しだ。
こっちの世界の金の価値は、地球の金より価値が高いようだ。
1枚あれば普通の家族が優に1か月は暮らせ、金貨1枚は日本円で大体30~50万円くらいの値段になる。
金額の幅が広いのは、物価の基準を何におくかで変わるからだ。
食料品類は安い傾向で、道具類は高い傾向がある。金属自体も高い。
金貨50枚は1500万円~2500万円の価値があるということになる。
冒険者にはこの鎌が札束に見えているだろう。
それを新顔のパーティーが持って来たら騒ぎにもなる。
そんな雰囲気の中を、慌てた様子のおじさんがやってきて、
「おお、ありがとうございます。大ゴキブリの女王種を討伐してくださったとか。」
差し出す手、セネカと挨拶をする表情はニコニコしている。
あの女王の魔石を触るのも嫌がる様子もみせず、喜色満面だ。
その理由は受付嬢の上司と思われるおじさんの口から出る。
「実は長いこと依頼を出しているんですが、なかなか受けてくれる人がいなくて、近くの村では被害も出るし、領主からは早く討伐しろと言われるし、そのくせ騎士団は出してくれないしで・・・・・・。」
と、どんどん愚痴になっていく。よっぽど困っていたようだ。
今は嬉しそうに大ゴキブリから出た魔石の数をかぞえている。
「素晴らしい。数は621、と、女王種の物、そのうえ女王種の素材まで、これだけ討伐していただければ、しばらく森から出て来ないでしょう。
報酬の方もしっかり勉強させてもらいますよ。さて・・・、」
急におじさんの笑顔が引っ込み、
「・・・さて、お話しでは、他にも素材と報告があるとか。」
セネカが、ドン、と、テーブルに鎌とその他の物を載せると、
「これも素晴らしい。出来るだけ高く買わせていただきますので、ぜひ、うちで買い取らせてください。」
と、興奮している。
アヤトがこそっと、「素材ってその町で売ることになっているんじゃ。」
と、質問する。
「基本はそうです。
ですが、この鎌とかは人気があるので、
高く買い取ってくれる所に持っていったり、
自分の武器の材料として取って置いたり、
他の冒険者に直接売ったりすることもあるんです。
この鎌は剣の材料として重宝されています。
軽くて丈夫、体が軽い人や非力な魔法使いでも扱いやすく、刀身も緑で綺麗です。
翠風の剣や緑の風といった、緑をチームカラーにしている冒険者パーティーにとって、パーティーを象徴する武具として、このような素材で作った物は、ぜひ持っておきたいものなのです。
冒険者っていわゆる中二病の人が多いんですよ。
上級冒険者は力があるし、お金も稼げるので、その価値観でも生きていけます。
冒険者として成功し、かっこいい武器を持っていると、他の冒険者に自慢できるし、自尊心も満たされます。
町の人にも分かりやすい方が目立って、受けもいい。
これらの素材は非常に人気があります。
周りを見ても、お金の問題ではなく、欲しそうに見ている人がいるでしょう。」
確かに熱っぽく見ている人がいる。
ますますザワつく場内に、上司のおじさんが気を利かせ、
「これは失礼しました。このような所で、話しの続きは中でしましょう。そろそろギルドマスターも来ていることでしょうし、さっさ、2階へ。」
と、セネカ達をギルドの2階へ案内し、来客用と思われる部屋に入る。
中には髭を生やした厳ついおじさんが居て、ギルドマスターのハバルと名乗った。
セネカはさっそくゴキブリの女王種を討伐したこと、森の入り口で10メートル級の竜喰い蟷螂に遭遇したこと、森のさほど奥でない所にも、もう1匹いたことを説明し、2本の鎌を見せる。
それらのことから、森の奥にもっと強い魔物がいる可能性と、今後も森の奥から魔物が出てくる可能性があることを訴える。
ギルドマスターは両太ももを、両手でバンと叩くと、
「分かった。素晴らしい観察眼だ。情報提供感謝する。
最近、あの森に行く冒険者が減っていてな。
街から距離があるから、行くのに金が掛かる。
行っても森の奥まで入らず、手前で狩りをすませる冒険者が増えている。
それでも被害が増えていて、寄って来る大ゴキブリどもは厄介、さらに、あの森での狩りを控えるという悪循環だ。
この街は大きいので冒険者にならなくても仕事はあるし、あの森以外にも近くに狩場があるので、そっちに行ってしまう。
どうだね。君達、うちの街で活動しては?。便宜は図るぞ。」
「いえ、私達は学生の身ですので。」
「そういえば君達、カノヴァの学園の学生なんだってね。すごいものだ。
正直、この鎌の持ち主なら、この街の上級冒険者パーティーでも倒すのに苦労するだろう。」
「いえ、顔に薬液を掛けて、皆で協力して何とか倒せました。
女王種の方も、半月かけてようやく巣を見つけ、討伐に成功しました。
運が良かったんですよ。」
いや、あの森に居たのは3泊4日だし、カマキリもすぐ倒したし、なんなら1匹は1人で倒してたし、ゴキブリも初日で倒した。
セネカの舌がペラペラ動いている。
「いや~、それでもすごい。」
と、学生達を褒めるギルドマスターの目が、急に鋭くなる。
すかさず、隣りの上司のおじさん(ギルドマスターの部下)が、セネカに紙を差し出す。
「今回の討伐報酬、素材の買取りと合わせて、全部で金貨250枚でどうでしょう。」
紙には、ゴキブリの女王種討伐の報奨金として金貨30枚、片羽の素材が5枚、カマキリ討伐と森の異変の情報提供で10枚。
意外にも高かったというか、安かったというか、なのが、( G )の魔石621個で金貨63枚だ。高めに設定しているというのは本当なのだろう。
やっぱりというか、鎌は高かった。2本で金貨70枚。
意外にも魔石はそこまで高くない。大きい魔石3つで金貨35枚。
ただし、こっちの世界では魔石はエネルギーとして使われるそうなので、それが原料のエネルギーってどれだけ高い燃料なんだと思う。
3つの魔石だけで、日本円で少なくとも1000万円を超える計算になる。
そう考えると妥当なのだろうか。
諸々合わせて金貨250枚。
1億円前後くらいの価値があるのだが、セネカは、
「まずまずですね。分かりました。これでお願いします。」
と、平然と答えている。そのあと、言いよどむ上司のおじさんに、
「品物の正式な鑑定もあるでしょうから、今日は仮契約で、本契約は2日後、午前中にこちらから伺わせていただきますので、その時に行うというのはどうでしょう。
お金の方は、後日、冒険者ギルドの銀行口座、木漏れ日の木、の口座の方に振り込んでいただければけっこうです。」
「いや、話しが早くて助かる。
冒険者と言えば、すぐ払えとうるさいのが常なのに。
特に君達みたいな若者の集まるパーティーだと。」
「私達は学生なので、今は勉学の方が大切です。
お金もすぐに使うことはないので、将来の為にとっておきたいと思います。」
若者の謙虚な言葉にギルドマスターは感激し、セネカとがっしりと両手で握手して別れる。
下に降りると、この街の冒険者が集まっていたが、ギルド会館の出口まで送ってくれた上司のおじさんの鋭い目と、ニコニコと話しを断り、先へと進んで行くセネカの手際のおかげで、何事もなく外に出れた。
何故か、イシュカとアヤトを中心に、前にセネカ、左右少し後ろにデュークとシャロという、守りの陣形。
( あれ?、俺、扱いが女の子と一緒なんだが・・・、)という点が引っ掛かったが、何か起こるよりは良い。
外に出てもセネカは、「さっさと行きますよ。」と、色々な所に向かって歩いていく。
何で?。っていうのが、顔に出ていたのだろう。
「お金を持っている若造と思われているので、何人か付いて来てます。
おこぼれを狙う者、お金を狙う者、情報が欲しい者、有力な冒険者と睨んで顔を売ろうとしている者、といったところでしょうか。
面倒なので此処で巻きます。
認識阻害のローブを着ているので、ここで巻いてしまえば、もう追って来ることはないでしょう。」
そう言って、皆を先導して路地裏に入ると、セネカは歩きながら呪文を唱えている。
それからもしばらく、グルグルと歩き、ようやく一軒の宿に入る。
今日の宿は、いつも泊まっているような宿より、安い宿に見える。
聞いてみると、ギルドに入る前に竜車を別の所に預けてあるので、そこそこ良い宿に泊まる必要はない。
お金があると思われているので、これくらいの宿の方が注目されにくい、とのこと。
まあ、金貨250枚手に入れた冒険者は安宿には泊まらないか。
荷物を置いて、宿の食堂の席に着くと、早速今日の買取りの内容について質問する。
「はい、アヤトさんの言う通りかなりいい金額ですよ。
今回、あの魔物にかなり困っているとの情報があったので受けましたが、
あの魔物以外は、経験を積む為に1メートル前後の大きさの小物を、幅広く相手にするだけのつもりでしたので、せいぜい50枚も稼げればいいと考えていました。
大物が2匹狩れましたし、あれの数が思ってたより多かったです。
この街、冒険者が減っているとは聞いていましたが、本当だったんですね。」
セネカの声のトーンが少し低い。
懸念しているのは、この街は交易路にあって、護衛の仕事も多い、
豊かで、街の中に仕事も多いから、危なくて収入が不安定な冒険者にはならず安全な街の中で働く。
狩る人がいない。狩らないから増える。増えるから危なくなる。
この状態が続くと魔物が溢れて、街まで押し寄せてくる可能性があるそうだ。スタンピードというやつである。
特に危険なのが、数が増え過ぎて魔境で魔素が不足すると、魔物が暴走状態になることがあるそうだ。
魔素崩壊と言われる、もっと危険なのもあるそうだが。
セネカいわく、おそらく大規模な討伐が行われるでしょう。とのこと。
他の街に冒険者の募集を掛け、人を集めたり、
他所から、お金を払って一時的に腕のいい冒険者を呼んだり、
街の金で、あの森まで往復する馬車の定期便を出したり、
買取りの報酬をアップしたり、
それでも駄目なら騎士団が動くこともあるそうだ。
「へ~~え。」
冒険者にも色々あるようだ。
まあ、そんな話しばかりしていてもしょうがない。遅めの昼食にする。
食べながら、この街にはあと2日居るので、その間にやることを決めていく。
端的に言うと観光だ。もちろん意味はある。セネカからは、「もっとこの世界に慣れてください。」と、きつく言われている。
特に行きたくはないが、この街には死霊魔術に使われる呪物・呪具を取り扱う店が集まる通りがあるらしい。
「興味ありますよね。」 とのセネカの圧い笑みに、
「あります。」と、応えてしまうと、
「あの、こちらにアヤト様ご一行が居ると伺ったのですが・・・。」
他所から声が掛かる。
少し気弱そうだが、きっちりとした髭の執事が背筋を伸ばして立っている。
某ジャガイモを使った菓子の紙の筒に描かれたような髭が特徴だ。
「はい、私達がアヤトです。」と、真顔で答えるセネカ。
( いや、お前達は私じゃないよ。) アヤトは心中つっこむ。
微妙な顔になったアヤトに、動揺した様子もない執事が、
「わたくしはドラグ家に仕える執事でグラウスと申します。
実はフレド様と兄君のセテルフェルト様が、ぜひ、アヤトさんに会いしたいとおっしゃていて、会っていただけないでしょうか。」
かなりいいとこの執事は、安宿の食堂では浮く。
まだ駆け出しにしか見えない冒険者の青年に、深く腰を折っている。
かなり目立っているので止めてほしい。
「頭を上げてください。」と、慌てながら、セネカをこそっと見たら、
ぼそっと、「自分で決めてください。」と、言われた。
それが苦手だから見たのに。
頭の上がらない執事に、「少しでしたら。」と、アヤトが返事すると、
パッ、と、頭を上げ、「ありがとうございます。お時間は、いつならよろしいでしょうか。」と、再び、深々と頭を下げてきたので、再びアヤトは、セネカを見る。
「今日中なら、いつでもかまいませんよ。」
「では夕前に改めてお迎えに上がりますので、夕食を御一緒しながら歓談するというのはどうでしょう。」
と、言われたのでアヤトは、
「それでお願いします。」
ーーー何とかそれだけは言えた。
高そうな宿で、高そうな御食事を食べる。
相手は本物の貴族だし、ファミレスにいるのじゃない本物のウエイターみたいのが給仕もしている。
地球のフレンチのマナーも知らないのに、異世界の料理のマナーが分かるはずもない。
とりあえず、相手の食べ方を見ながら、音を立てないよう注意して食べる。
フレドもおとなしくしている。もっと喋ってくれると楽なんだけど。
兄の前だからか学校と違う。この食事の前の挨拶の時も、
「アヤト君、この前の一件は本当にすまなかった。今回のことはドラグ家の失態だ。」
兄のセテルフェルトは開口一番、頭を深く下げ、
フレドも、しろと言えば土下座でもしそうな勢いで頭を下げていた。
主従・兄弟そろって、そんなに頭を下げられても正直困る。
謝られても、右腕のことは許す。とは言えない。
セネカに、「今回のことがなくても絶対骨になっていたので大丈夫(何が?)です。」と、言われてなければ、絶対許してなかっただろう。
金髪で青い瞳、甘いマスクの貴公子だ。
態度も物腰柔らかで、非の打ち所がない美形の青年貴族。
フレドも、いかにも貴族の子弟といった感じだが、格が違う。
頭を下げる仕草も優美で華があるが、死霊魔術士っぽくないな。と、いうのがアヤトの感想だ。
それから口数少なく食事が始まったが、次第にフレドの学園での様子など和やかに話しがすすみだす。
緊張し過ぎて料理の味の方はさっぱりだったが、無事に夕食も終わり、デザートを待つ間、フレドの昔の話しや、アヤトの学園での授業の様子などの話しをする。
そんな当たり障りのない会話の後さりげなく、
「実は、あの件のお詫びも兼ねて、ぜひ、君を我が家に招きたい。」
と、本題であろう話しを切り出される。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
アヤトが黙っていると、
「我が家は代々死霊魔術師の家系だ。
土地に宿る力も強く、何より初代様が居る。君と同じリッチだ。
君と一度話してみたいとおっしゃっているんだ。
君にとっても決して悪い話しではないと思う。
一度、初代様と話をしてみるというのはどうだろうか。
それで、その時でいいので、出来れば私にも君の腕を診せてほしい。
これでも、リッチに関してはそれなりの知識があると自負している。
協力できることがあるかもしれない。」
食後で良かった。食事中なら咽を通らなかっただろうから。
貴族様に頭を下げられてお願いされると、返事に詰まる。
ドラグ家ってどこだよ。行ってもいいの?、セネカ怒らない?。
勝手に決めていいのか分からない。
アヤトが決められないのは決断力がないのもあるが、
この世界での自分の立ち位置が分からないから、決められないのだ。
日本だったら自分のレベルに合わせて大学や就職先を決められる。
戸籍もあった。ここ(異世界)ではアヤトはあやしい人物だ。
困っていると、
「考えておいてほしい。返事はすぐでなくていい。
すぐに決められることじゃない。
君の予定もあるだろうし、仲間とも話さなければならないだろうから。
明日の朝、宿に使いを送るので、その時に返事を聞かせてもらえないだろうか。」
アヤト的にも渡りに船だったので、「分かりました。」と、答える。
合図でウエイターが運んできたデザートを食べ、セテルフェルトの昔の話しを聞いたりした後、執事に送られてアヤトは宿に戻った。
宿に着いたらさっそくセネカに、「どうすればいい。」と、聞いた。
何故か未来から来たネコ型タヌキを思い出す。
「いや、それは自分で決めましょう。」 若干、呆れ気味に言うセネカ。
さすがにアヤトもそう思うが、「ドラグ家って言われても分からないし・・・。」と、言い訳する。
「ドラグ家は良識がある方の魔術師の家ですよ。
死霊魔術師としては珍しく明るい性格の人間が多いですね。
それにアヤトさんは学園に所属してますし、集会にも所属しているので、人体実験されたり、使い魔にされたり、とかの危険は少ないですよ。」
集会とは、セネカが所属している魔術師ギルドの名前で、アヤトもそこに所属しているらしい。
身に覚えはないが、多分、読めない契約書にサインした時のやつだ。
冒険者ギルドと違って統一組織ではないが、集会はそれなりに大きな組織らしい。
パーティーメンバーはシャロ以外、全員集会に所属しているとのこと。
アヤトとしては、死霊魔術士の時点で良識などとは無縁のものに思えるのだが、確かに、セテルフェルトは良識がありそうだった。
普通の貴族にしか見えなかった。
しかし、人間、どんな裏の顔があってもおかしくない。
世の中、人を洞窟に捕らえるような魔術士とかがいるのだ!。
それに、知らない人の家、それも貴族の家に行くなんて、考えるだけでも疲れてしまう。
敬語とか話せんぞ。作法も知らん。
貴族って、無礼を働いたら死刑、とかないよね?。
グダグダ悩んでいると、
「アヤトさんはどうしたいんですか。」
そう聞かれると、う~ん、面倒くさい。
ただ、行きたくないわけではない。
セカンドオピニオンというやつだ。
この腕、やっぱりセネカ以外の専門家の意見も聞きたい。
セネカも死霊魔術士は専門外だと言っていた。
もしかしたらもあるし、それにリッチがどんな暮らしをしているか、興味がないわけではない。
自分の右腕に目をやり、言う。
「少し行ってみたいかも。」
煮え切らないアヤトに、セネカの温度が低くなる。
「それで決断は?。」 笑顔に押される。
「行きたいです。」 今度ははっきり答える。
「分かりました。行くのはフレドさんが休みの11月になるでしょう。
学園の許可は私が取っておきます。」
11月、もうそんなになるのか。
11月ということは、あと2か月ほど、早いものだ。
アヤトがこの学園に入学したのは10月。
その前の日々を数えると、もう、この世界に来てから1年を超えていた。
お祝いする気はないので、どうでもいいが、一部記憶に蓋をする。
アヤトが物思いにふけっていると、
「行く時は学生証とネックレスを付けていくのも忘れないように。
何か決定的なことがあったらそのコインを相手に見えるようにしてください。ただし、普段はそのコインは見られないように、さりげなく、常に身に付けておいてください。」
セネカはなかなか難しいことを言ってくる。
とにかく、何かあっけなくドラグ家行きが決まってしまった。
セネカなら、行くのをやめるよう、言ってくるかも、と、思っていたのに。
それどころか、
「フレドさんと一緒なら行き帰りの道中は問題ないでしょう。
ようやくアヤトさんも一人で旅が出来るように・・・。」
なんかセネカが失礼なことを言っている。
ただ、話しを聞くと、フレドは貴族だし、家からの迎えや馬車なども用意されているので、旅のトラブルの心配は、ほとんどないそうだ。
一抹の不安は感じるものの、考えててもしょうがないので、アヤトは話しを切り上げ、寮に戻ってさっさと寝ることにした。
馬車の旅は快適だった。
執事とメイドみたいの(本物)がいるので気を使うが、手続きとかは全部やってくれるし、フレドも気を使ってあれやこれや手を焼いてくれるので、居心地は悪くない。
それにしてもフレド、本当に貴族なんだな。と、アヤトは失礼なことを思う。
はじめの頃の偉そうなところと、最近の弟分な姿しか見ていなかったので、すっかり忘れていた。
馬車での旅は、巨大な石の門の境界のゲートをくぐったりして8日も掛かった。
貴族の馬車は乗り心地はいいが、スピードをそれほど出さないので、かなり遠くへ来たように感じる。
異世界に来てからの問題点が一つ、世界が果てしなく広いうえ、魔物が多く、盗賊などもいる。
車や列車がない。飛行機もないので、移動に物凄く手間と時間が掛かるのだ。
特に、国どころか領地一つ越える度に馬車を止められる所もあった。
「あれです。」
やっと家に着いたのか。と、フレドが指さす先にあった【あれ】は、城だった。
崖のような場所に白亜の城が建っている。
堅牢な城だ。アヤトは早々に攻め落とすのを諦めた。心の中で。
しろの色が黒かったら、アヤトは「魔王の城。」とか言ってたかもしれない。
立派な西洋風の城だ。本当にお金持ちなんだなと、俗なことを考える。
「何であんな所に立ってんだ?。」 って聞いたら、
「龍脈の上に建てられているんです。」 って言われた。
魔法的な理由らしい。
城は中も仰々しかったが、外見はともかく(他意はない)人柄は温かいセテルフェルトから心尽くしの歓迎を受けたので、堅苦しくはなかった。
こっちの世界の平民なら恐縮してしまっていただろうが、
日本人として、ヨーロッパの城に観光旅行に来たと思えばいい。泊まれる城とかあるらしいし。
庶民なので、この絨毯踏んでもいいの?。と、ビビる程度だ。
その日の夕食の席では、当主というフレドの父親から歓迎の言葉を掛けられた。
何かあまり歓迎されていない雰囲気を感じたが、まぁ、害意は感じなかったので良しとしよう。
自分は招待されただけだ。招待したセテルフェルトとフレドが歓待してくれているので、まあ、いいだろう。
城の中を案内されたり、領地の名所をフレドに案内してもらったりして過ごしたが、ここに来て3日後の午前、セテルフェルトから、
「一度君の右腕を見ておきたいのだが、今、いいだろうか。」
ついにきたか。アヤトは、その言葉に頷く。
先導に従って移動したのは広い石造りの部屋、ここで鍛冶場でも出来そうなしっかりとした造りの部屋だ。
魔法とか使っても大丈夫な部屋なのだろう。
部屋に居るのはセテルフェルトとフレドの兄弟とアヤト、包帯を外して腕を診せると、セテルフェルトは唸る。
「動かしてもらってもいいかい。」と、言ったり、木槌で叩いて、痛みを聞いてきたりしていたが、それが溜め息に変わる頃、
「すまない。これは私の力でどうにかなるものではない。
悪霊の件もある。何とか力になりたかったんだが・・・・・・。」
と、セテルフェルトは申し訳なさそうに口を開く、同時に感心もしている。
「それにしても、むしろ、よくこれでアンデッド化が進行していないな。
君についている魔術師はよほど腕がいいんだろうね。
私では手が出せないよ。
あとは、・・・やはり初代様に視てもらうしかないか。
あの方なら何とか出来るかもしれない。
ただ、こちらが呼んでおいて失礼な話しだが・・・・・・・・、」
申し訳なさそうな表情のままセテルフェルトは、初代様は最近部屋に籠もりがちであることを説明し、「もう少し待ってほしい。」と、頭を下げる。
別に頭を下げられるほどのことではない。
それから5日間、フレド坊ちゃんの御学友として、貴族の子弟の扱いで屋敷に滞在した。
やる事といったら観光やお茶、食事、寝る事だし、夜の瞑想やら修行を除けば、遊んでいるだけなので苦ではない。
地球の学生の時の生活に一番近いのが、今かもしれない。
たまには、こういう生活もいいもんだと、ここでの休暇を楽しむことにした。




