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異世界怖い  作者: 名まず
10/60

*魔物怖い (中)

 「業火の炎、導きの火、我が声に応えて、その力を示せ。」


頭に浮かべるのは、この世界の象形文字のような文様。


しばらく集中していると、頭の中に図形や文字っぽいものが浮かんでくるが、気にせず集中を続ける。


やっぱりこの杖、授業で使う杖より発動がスムーズな気がする。


前方から、ガヤガヤと騒がしい音がするが、それも気にしない。


出来上がりつつある魔法にのみ意識を集中する。


手の延長線上、前方に、勢いよく炎が湧く。


「ファイアーボール。」


アヤトの魔力に釣られ、巣穴から出てきた10匹ほどのゴブリンに向かって、ゆっくりと火球が飛ぶ。


2匹が炎に巻かれ地面に転がる。


直撃はせず、倒せはしなかったようだが、炎を恐れ、ばらけたゴブリンをシャロが狩っていく。


さらにゴブリンが巣穴から出て来たが、セネカは無視して巣穴の中に入っていく。


事前に決めていたことで、

「ファイアーボールで攪乱後、アヤトさんは上位種に注意しつつゴブリンを迎え討ってください。

シャロさんは森へ逃げようとするゴブリンを中心に狩っていってください。

私は巣穴の中のゴブリンを叩きます。」


と、言われていたので、慌てず対処する。


アヤトの前にやって来たゴブリンを、真っ直ぐ槍で突く。


軽い感触で、案外あっけなく消えていくゴブリンの体。


( こんなものか。)と、辺りに気を配るが、アヤトが1匹殺している間に、すでに周りのゴブリンはシャロに殺られて消えている。


アクロバットなシャロの動きに感心していると、洞窟から、


「すみません。2匹逃がしてしまいました。

シャロさんはハイゴブリンを牽制しつつ、ゴブリンが森に逃げないように抑えていてください。」


巣穴の暗がりから姿を現したのは、剣を持ったゴブリンと身長がシャロほどもあるムキムキのゴブリンだった。


慌てているようだが、その巨体でこっちに走ってくる様は、「でかい。」の一言で、圧がただのゴブリンと段違いだ。


「私は洞窟にいる残りを始末しますので、そっちはアヤトさんに任せました。」


ハイゴブリンにはシャロが攻撃を仕掛けたので、アヤトが鉢合わせることになったのは、ソードマンと呼ばれるタイプのゴブリンだ。


剣を向け、前のアヤトと相対しているが、気にしているのは後ろのようだ。


だが、アヤトがゴブリンに向け槍をしっかりと構えると、合わせてゴブリンソードマンも剣を合わせる。


すぐ、剣を振りかぶり襲って来たので、アヤトは槍で剣を払う。


槍は鉈より距離をとれるので、こういう時は心に余裕が出来て助かる。


近くではシャロがハイゴブリンの棍棒を避けているが、でかい棍棒を少しの仕草でさけており、その姿には余裕が窺える。


ただこちらは、シャロばかりを見ていられない。


ゴブリンソードマンの背は自分の首より低いが、普通のゴブリンより倍近くあり、剣の扱いもうまい。


アヤトは、あっちに行け。と、ばかりに槍で払い続けるが、ソードマンの方も、この人間死ね。と、ばかりに剣を繰り出し続ける。


最初は慌てたが、しばらく相手の剣に合わせていると思う。

「強い。」と。

ただそれは、他のゴブリンと比べたらの話しだ。


距離をとり、剣に当たらないことだけを意識して槍で払う。


アヤトはタイミングを狙う。


( 今。)


焦れたソードマンが、剣を勢いよく槍の穂先に叩きつけてきたのに合わせ、槍を引き、外す。


体勢を崩したゴブリンソードマンの隙に向かって、踏み込んで槍を通す。


ソードマンの胸の辺りにきれいに槍が入り、ゴブリンソードマンの体が崩れていく。


前方で何か落ちたようだが、意識をそっちに向けないように意識して、


「アヤト、そっち行ったぞ。」と、言う、シャロの声の方に体を向ける。


プロレスラーのようなゴブリンの体が、こっちに向かって突進してくる。


「うおっ。」 


必死にさける。槍で防げるものではない。


横を通り抜けたハイゴブリンの体に軽く槍を当てたが、刺さるどころか、傷も付かない。


止まった巨体の背中に槍を叩きつけても、ゴムの塊を殴った感触がする。


ただ、「グァ、グウッ、グァッ、グギュァ。」


冷静さを失わせることには成功したようだ。

単に、怒らせただけとも言うが。


ズズズ、と、迫力のある顔をこっちに向け、次いで、体もこっちに向ける。


やっぱりでかい。

倍ほどある横幅のせいで、シャロと同じくらいの身長でも、ずっとでかく見える。

今までのゴブリンが子供にしか思えない。


手に持つ棍棒もでかい。槍で受けたら吹っ飛ばされそうだ。


見た目通り凶暴なようで、さっそく振り下ろされる棍棒。


避ける。シャロと違って大きく避ける。


槍は牽制のため構えただけ、避けることだけ考えて避ける。


一発受けたら死ぬ。


事前にセネカが掛けてくれた補助魔法のおかげで、見えているし、避けれているが、アヤトの身体能力の都合で、いつまでも避けてはいられない。


時々、槍で刺しているが、効いている感じはしない。


吠えながら棍棒を振り回すゴブリンは怖い。


刃物が通らないなんて皮膚ではない。

この巨体で速いし、あの大きな棍棒を片手で振り回せる筋力もヤバイ。


( いや、これ、俺じゃ勝てないだろ。)

って、つっこみながら槍をふるっていたら、


「アヤトさん、腰が引けていますよ。諦めるのが早いです。

ゴブリンの弱点は人間と同じ、目や関節の内側は柔らかいので槍の刃は通ります。

筋力の強化を意識して、体に魔力を巡らせてください。」


いつの間にか洞窟から出て、近くで見ているセネカが声援を送る。


「グォオォォー、グゥグゥググルグルルゥゥ~。」


ハイゴブリンが苛立つように声を鳴らす。当たらない攻撃とセネカの登場に、気が立っているようだ。


ひしひしと伝わる殺意の感情。


ハイゴブリンは焦っていた。あいつが来た。

( 逃げていつかこいつらを殺す。仲間はみんなこいつらに殺された。仇とる。こいつが一番弱い。こいつ殺して逃げる。いつか人間殺す。皆殺しにしてやる。)


「グォ~、グウゥ、グウッ。」


上段から一気に棍棒が降り下ろされる。

瞬間、殺すという感情に交じって、ハイゴブリンの棍棒の軌道が線となって頭によぎる。


相対するハイゴブリンは右利き、自分から見て右の方に流れる棍棒の動きを、アヤトは左足に重心を入れることでかわし、そのままの動きで槍を深く突き出す。


右腕に力が籠り、自分とハイゴブリンの間に一直線に道が出来る。


すっと、ハイゴブリンの右目に槍が入る。


「ギュグゥォルァァァ~~。」


顔をしかめたくなるような叫び声を残しつつ、ハイゴブリンの大きな体が消えていく。


「・・・・・・・・・・・・。」


なんか思ったよりあっけなく終わってしまった。


ボトッ、ッ、と、地面に何か落ちる音を聞き、少し気が抜ける。


今のは、何か良かった。と、振り返る。


「おっ、運がいいですね。ゴブリンの牙です。

2人共魔石と素材を拾ってください。魔炭は私が回収します。」


セネカは浄化の魔法を掛けつつ言う。


シャロは辺りに散らばる魔石を拾い、アヤトは魔石と牙も拾った。


セネカはゴブリンを倒した跡に残る炭の屑のような物を拾い、金属の筒に入れている。


魔物は生きている間、瘴気という毒のような物を発している。


が、以外にも、瘴気の方が魔素に比べて毒性は低いらしい。


魔素型の魔物は、死ぬと瘴気と呼ばれる黒い霧のようになり、崩れて消える。その瘴気が魔素になる際、より強い毒性を発揮するそうだ。


他に魔物が死んだ跡に残るのが魔石と、この魔炭とよばれる炭の屑のような物だ。


この魔炭、錬金術や魔法の材料として使われるらしく、冒険者ギルドが買い取ってくれる。


けっこういい金になるらしい。


まあ、ゴブリン程度の物ではたかが知れてるが、さすがにハイゴブリンの魔炭は、サイズも少し大きく、形もしっかりしている。


セネカも普通のゴブリンの物とは分けて保管している。


魔物は強かったり、長く生きた個体の中に、倒すと魔石や魔炭とは別に、素材を残す場合がある。


たいてい、爪や牙といった一部のみだが、たまに、全身残る奴もいるらしい。


以前3メートル近いハイゴブリンの全身皮が出た時は、革鎧の材料として金貨1000枚の値が付いたこともあるとか。


アヤトが試しに牙を見せて、


「これいくらになるの。」と、聞いたら、セネカは、


「それはそこまで高くありませんよ。それでも金貨1枚くらいにはなります。

初めての戦利品なのですから、ネックレスにでもしたらどうですか。」


聞くと、狩猟民族や冒険者の間ではそういう風習があるらしい。


冒険者に限っては、金に困って売ったり飲み代に消えたりと、手元に残り続ける例は少ないとのことだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・。」


少し悩むアヤトに、セネカが提案する。


「死霊魔術の媒介としても使えますし、何なら私がネックレスにしましょうか。」


「ちょっといいかもしれない。」


と、思ってお願いする。インディアン風のネックレスって、ちょっと欲しかったんだよ。似合わないし高いから買ったことはなかったが。


「それにしてもさっきのは良かったです。少し成長しましたね。

右腕ばかりに力がいっていたのは残念ですが、その分、槍の初動が速く、ハイゴブリンには槍が長く伸びたように見えたことでしょう。」


「あまり意識してなかったんだが、思ったより力が出たんだよな。」


思い出しながら口にする。


「まあ、悪い感じはしなかったので大丈夫ですよ。

ただ、右手以外も意識して力を出せるよう修業を頑張ってくださいね。」


「いやぁ、頑張ってはいるんだ。」


アヤトは、誤魔化すわけではないが、手の中の魔石を見る。


もう浄化魔法が掛けた後だから触っても平気だ。


浄化してない場合は、革の手袋をして触り、袋に入れてギルドに持っていくが、浄化の費用の分、買い取り金額は安くなる。


取り扱いや保管が面倒でもあるので、浄化が使える術者や聖石は非常に重宝される。


魔石は魔道具を作ったり、動かしたりと、色々な用途がある。


金になる。人の役にも立つ。


傭兵や護衛は、人を殺したり、交渉したりと、人と関わるのは面倒だ。

騙したり、騙されたりと、駆け引きも大変になる。

冒険者の中には、魔物を専門に討伐する人やパーティーもあるくらいだ。


魔炭や魔物の素材は高く売れ、魔物を倒すと必ず魔石が取れる。


魔物には、( 核 )という力の中心がある。


死んだり核が壊れると、エネルギーが結晶化して魔石になる。


魔石は、強い魔物ほど、大きく綺麗な物になる傾向がある。


魔炭は、魔物の体の一部が消えずに残った物で、よりしっかりとした形で残ったものが素材だ。


ほとんどがその一部しか残らないのは、魔物の体が現界に形を成すには、強い魔素や長い時間が必要とされるからだそうだ。


残念ながら、ハイゴブリンでも魔石は、大きめのビー玉くらいの大きさだ。


ただ、他のゴブリンの物より大きいし、形も良い。


これは色も緑で、透明感もあって、某飲料メーカーのビー玉を思い出す。


ラムネが飲みたい。と、望郷の念を抱き、ビー玉魔石を森の木漏れ日に透かして眺めていると、3つの緑の光が浮かぶ。


3つ?。左の1つはハイゴブリンの魔石だが・・・・・・、


にゅっ、と、森の木の隙間から2つの緑の光が出てくる。


2つの丸い輝きがこっちを見ている。


目だ。緑の瞳、縦に長い瞳孔、白い体、蛇だ。


ただし、かなりでかい。遠近感がおかしいのか、蛇の巻きついている木が細く見える。


じっと見ている眼がやけに丸く感じられる。


「・・セネカ・・」 アヤトの声が上ずる。


「分かってます。蛇の魔物ですね。」


言葉と同じに、思考加速と筋力強化の魔法が掛かったことを自覚する。


( よしっ。) と、いう気はすぐしぼむ。


「私とシャロさんはあれを倒す為の準備をします。

それまでアヤトさんはあの蛇の気を引き付けておいてください。」


「へっ。」 しおしおのパーになる。


白蛇の魔物は太い木の幹をぐるぐる回りながら降りてくる。


ゆっくり動いているように見えるが、かなり速い動きだ。


離れているからそんなに大きく感じてないが、胴回りは木の幹の半分くらいありそうだ。長さは15メートルくらいあるだろうか。


「シュア~、シャァァ~。」


口をいっぱいに開けて威嚇してくる。あれ多分、俺が口に入れる。


周囲から白蛇の魔物に向かって魔素が集まっているのを感じる。


さっき倒したゴブリン達から出た魔素だろう。


先ほどセネカが使った浄化魔法は、浄化は浄化でも退魔浄化、周囲から魔素を追い出しただけだ。

魔素自体が消えたわけではないから、残った餌(魔素)にありつく為にやって来たというところか。


「アヤトさん、絶対に捕まらないでください。蛇は捕まるとまず死にます。

あと、さっきと同じで目を狙ってください。」


セネカは気軽に言い、シャロは見てくる。


いきなり俺に振るなよ。アヤトは思ったが、言ったら、では一人で頑張ってください、とか言われそうだったので、何とか「分かった。」と、口にして、槍を構える。


白蛇は鎌首をもたげて、アヤトを見下ろしている。


頭の位置は槍の届きにくい高さにある。


とりあえず体に傷を付けて、頭を下げさせるしかないか。


そう思って槍を突き出すが、さっと避けられた。


もっと近づかなくては当たらないし、思った以上に速い。


睨み合っていると、急にアヤトの視界にシャロが入ってきて、白蛇の体に傷が付き、血が飛び散る。


白蛇の魔物は大きく身をよじらせ、シャロを見た。


アヤトはここぞとばかりに力を籠めて白蛇を刺す。


カン。 


変な硬い音で槍は跳ね返された。


何だこれ、こんなのをシャロは傷付けたのか?。思いっきりやっても傷一つ付かないのに、ナイフ一本でどうやって。


それでも少しは痛かったのか、白蛇はアヤトの方にも意識を向ける。


すると、再度シャロのナイフに体を切られ、痛みに暴れる白蛇。


頭はとっくに下がっている。意識もシャロから外せないでいる。


セネカの声、「今です。」に、アヤトは走り、白蛇の目に向かって思いっきり槍をぶっ刺す。


キィィ~ン。


 高い金属音とともに槍の刃が欠ける。


「へっ。」 アヤトが動きを止める。シャロが前に出る。


白蛇の魔物はとぐろを巻き、ギュッと縮こまり襲い掛かる仕草をした次の瞬間、その場で体を真っ直ぐに伸ばす。


ストン、 浮き上がってその場の地面に着く。


動きの止まった白蛇、そこへ、セネカの魔法の水球から伸びた、水の槍が白蛇の頭を貫く。


一撃で死んだのが見てとれた。体も消え始める。それはいいが・・・、


「おい、セネカ、目を狙ったのに、全然効かないぞ。」と、文句を言う。


「当たり前でしょう。蛇は瞼を閉じないないでしょう。

透明なウロコが目を守っていて、瞼は無いんです。

蛇の魔物の鱗の中で、目の鱗は最も硬いウロコの一つと言われているんですよ。

体のウロコも傷付けられないアヤトさんの腕で、貫けるはずもありません。」


「なら、やらせるな。」


「いえ、蛇の魔物の討伐で、新人冒険者がやらかす失敗、その一番多いものは、目を狙って返り討ちにあうというものです。

アヤトさんがそんな事にならないよう、自分の身で体験してもらおうと思いまして。」


(口で言え、口で!。) 心中つっこむ、声に出したのは疑問、


「ところで、さっきの白蛇の最後の動き変だったよな。何が起こったんだ?。」


「簡単なことです。魔物といえど蛇は蛇、移動するのに腹板というお腹のウロコの1枚1枚で地面や障害物を押して前に進んでいるんです。

なので地面をつるつるにすると、滑って前に進めなくなるんです。」


「ん?。つまりはどういうこと。」


「シャロさんは魔法は使えませんが、一つというか、特殊な能力があります。一瞬ですが、摩擦係数を増減出来るんです。

さっきのは、蛇が力を溜めて飛び掛かる一瞬に合わせて摩擦を限りなく減らした。

なので、飛び掛かろうと力を入れた蛇の動きが空回って、あのような動きになった。

・・・つまり、地面だと思って足に強い力を入れたのに、下は氷の床だったみたいな感じです。

私は、蛇の動きが止まるのが分かっていたので、魔法を叩きこみました。」


セネカは、まだ解かってなさそうなアヤトに説明を足しつつ、言う。


「摩擦を増やしたり減らしたりって、すごくない?。

一瞬って、どれぐらいなんだ。」


「アヤトさん的に言うと0.1秒未満、範囲は自分の体か、自分が触れている近い範囲ですね。」


「それって使えるのか?。」


「普通はタイミングを合わせるのが難しく、使えませんね。」


「へ~え。」 それくらいしか言葉が出ない。


「アヤトさんも、蛇の鱗くらい切れるよう頑張ってくださいね。」


セネカがシャロに視線をやり、言う。アヤトもシャロを見た。


俺も?あんな風になるの?。無理だね。と、思ったけど、口にすると、もう一匹いっときましょうか。とか言われそうだったので、言えない。


すでに白蛇の魔物の体は消え掛け、拳ほどの大きさの白っぽい石と魔炭、A4サイズ2~3枚分くらいの大きさの皮が残されている。


「今回は本当に運がいいですね。魔物の素材が2つも手に入るなんて。

これも鎧や貴族の装飾品の材料として高く売れるんですよ。」


この世界にはたくさんの魔物がいるが、殺しても体のほとんどが消えてしまう為、魔物の素材は希少価値が高いらしい。

それで作った武具は、騎士や軍人・上級冒険者にとって憧れの的らしい。


とりあえず、浄化してもらい回収、拠点に戻る準備をする。


「今夜は焚き火を解禁するので、薪を拾うのを忘れないように。」


セネカのその号令が、今回の魔物退治の終わりの合図となった。






 教室で先ほど渡されたネックレスを見る。


白い革紐に通されているのは、

ハイゴブリンの牙に穴をあけた物と、

500円玉サイズのくすんだ銀色の硬貨のような物、これは真ん中より上部に穴が開けられている。

そして白い硬貨のような物が3枚、軽く、真ん中にパチンコ玉くらいの大きさの穴が開いている。これは蛇の鱗を加工して作った物らしい。


牙も鱗の円盤も、細かい文様が彫られ、黒い染料で色付けされている。


かなりいい出来だ。それは嬉しいが、


「アヤトさん、どうしたんですか。浮かない顔して。」


「ああ、フレドか。この前、魔石が出てくる魔物と戦ったんだ。」


わざわざ魔石が出てくる魔物と言ったのは、こっちの世界では魔石の出てこない害獣タイプのゴブリンも、魔物として認識されているからだ。


「なるほど。・・・・・・・・ところで、それは?。」


フレドは戸惑っている。なぜ魔物と戦うと浮かない顔になるのか分からないからだ。それよりアヤトの持っている物に興味を示す。


「その時の戦利品をネックレスにしてもらったんだ。」


ネックレスをフレドに渡す。


「へ~え、牙ですね。」


フレドはコインを弄びながら聞く。


「ああ、ゴブリンの牙だ。」


「いえ、ゴブリンの牙なんてネックレスの飾りになりませんよ。」


「いや、ここにあるだろ。」


「そうじゃなくて、ゴブリンは嫌われ者だし、あまり強くないというか、そんなものを、わざわざネックレスにしないというか。」 遠慮がちに言う。


「強かったぞ。」


「本当にゴブリンだったんですか。ゴブリンが牙を落とすなんてあまり聞きませんよ。よっぽど長く生きたゴブリンとかじゃないと。」


「ハイゴブリンだしな。まあ、セネカが死霊魔術の媒介になるから持っとけって言うから。」


「ハイゴブリンですか。でも、あれかなり強いですよ。」


「う~ん、自分で倒したっていうより他のメンバーが強過ぎて、こいつもお膳立てされてやっと、っていう感じだったし。」


「でも、さすがアヤトさんです。ハイゴブリンは冒険者の中でも新人殺しと恐れられているんですよ。

でもそれにしては、何か・・嬉しくなさそうですね。」


「そうなんだよ。

前、行ったばかりなのに、次寄るエフェットの街の先にある森で、また魔物退治するって。

今度は虫の魔物だって。虫は嫌いじゃないけど、でかいって話しだし・・・・。」


見るだけならいいのだ。図鑑とか。ただ、自分で倒さなきゃってなると・・・・・。

もちろんその森にもゴブリンは居るらしい。どこにでも居るな、ゴブリン。


返してもらったネックレスを弄びながら物思いにふける。憂鬱だ。


「エフェットの街ですか。街にも寄るんですか?。」


「寄るんじゃないかな。」


まあ、セネカに聞かないと分からんが。適当に答える。


「ところで、そのネックレス、なんか魔力が宿っていません?。」


「ああ、魔物の素材だしな。え~、たしか、竜牙兵とか何とか。」


「え~と、それ魔道具ですよ。アンデッドの兵士が出て来て守ってくれたり、戦ってくれたり、けっこう役に立つんですよ。」


「そうなのか。ただのネックレスだと思ってた。」


使い方も分からんしな。アヤトがぼんやりとネックレスを眺めていると、フレドが、


「エフェットの街には僕も行く予定なので、向こうで会えたらよろしくお願いします。」と、言う。


「ああ。」と、応えるが、そもそも行きたくない。


準備は進んでいる。先日、アヤトはセネカに砥石を渡された。

白蛇の魔物に攻撃して欠けた槍の穂先を研ぐ為だ。

次の魔物退治の時までには研いでおくように言われている。


「え~~~。」と、答えたら、


「次、討伐目標としている虫系の魔物は、体が硬いのが多いので、死なないようにしっかり研いでおいてくださいね。」と、軽く念を押された。


全然、研ぎが進まないので、今、少しずつ研いでいるところだ。ああ、憂鬱だ。


次の授業で使う骨を磨きつつ、ぼーーとそれを見ていた。




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