02 魔法演習
アシュレイ侯爵家のご長男とその相手ヒュルシー伯爵家のご令嬢との婚約破棄談はそれはもう盛り上がった。間男である……なんだっけ忘れた。Bクラスの人だった。Bクラスの人は家に帰されて勘当されるかどうかの瀬戸際だとか。ヒュルシー嬢はアシュレイさんに追いすがっているが、あっちは完全にシャットアウト。
「氷結の貴公子にアホなことしたもんだよ」
「そんな冷え性みたいな呼ばれ方してるのアシュレイさん」
「おまえ絶対冷え性なんですか? とか聞くなよ」
「多分その異名すぐ忘れるから大丈夫だよたぶん」
「おまえのたぶんは本当に信用ならんからな」
「おまえら喋りながら避けるんじゃねー!! この化け物共!!」
クラスメートからツッコミが入る。その瞬間に飛んできた火の玉は水魔法で相殺した。
私と雑談していたのはルルーシュ辺境伯家のシモン。友達である。まあクラスメートはみんな友達なのだけど。そして今は実践魔術の演習授業中だ。魔法のくじで適当に振り分けられた相手とタッグを組んで敵チームの肩の腕章にダメージを与えられたら勝利と言う単純なものだ。ダメージを食らったら赤くなる細工がしてあるからわかりやすい。
「おまえら28対2で狙って来てんだからそろそろ当てろよな」
シモンは呆れたようにして剣で飛んできた魔法を斬った。
「うるせー!」
「当たる気がないのに何を言ってるんですの!」
「そもそもくじがおかしいです! 何で剣術トップと魔法トップが組んでいるのですか! 先生! あと魔法トップがこの国トップレベルの魔術師なんですけど!?」
「いや~完全に運だから。たまにはいいんじゃね? 理不尽を味わっとけ」
「それが名門王立学校の教師の台詞か!?」
「大人はズルい生き物なんです」
そう言って手持ちのティーカップで紅茶を飲む実践魔術の先生、ロイド教諭。「人でなしー!」とクラスメート達は悲鳴を上げている。
「うちのクラスは元気があってよろしいよろしい」
「何目線だよ」
「そんな敬愛なるクラスメート達に新魔法をお見せしましょう」
私の言葉にクラスメート達の動きは止まり、バッ! と背中を向けて走り出した。「退避ー! ニーナがなんかやるぞー!」と。
「痛いよ痛いよこむらくん」
手を上にかざし、空中に出てきた魔法陣からは弧を描いた光がひゅんひゅん飛び交って行き、クラスメート達のふくらはぎに命中した。クラスメート達はその場に倒れて足を押さえている。
「痛い痛い痛い!!」
「なにコレ!? 急に足がつった!」
「きゃー!」
悲鳴が飛び交う中、倒れたクラスメート達の腕章を腰に差してた杖でポンポン叩いて赤色に染めていく。シモンも剣で叩いていた。
「ニーナ、これ何魔法?」
「強制こむら返り魔法。その名も痛いよ痛いよこむらくん」
「また変な魔法作ったなぁおまえ……」
しかも地味に嫌な魔法だ、とシモンは続ける。ロイド先生は爆笑してた。
「ニーナ! おまえはやっぱりいいなァ!」
「どうも?」
「おまえの将来が楽しみだ! 絶対ろくでもない面白おかしい魔術師になるぞ!!」
「俺が言うのもなんだがアンタよく王立学校の教師になれたな」
ギャッハッハッハッ! とどこぞの魔王のように笑うロイド先生にシモンは引いていた。あの御仁も元気だなぁ。そう思いつつ全員の腕章を染めたので「解除」と言って魔法を解く。クラスメート達は足を庇いながらも「ニーナぁ!」と私の元にやってきた。
「ニーナの作った変な魔法使うのなし!」
「えー」
「えーじゃない! これは一般的な模擬演習なんだから貴方の変な魔法相手じゃ演習にならないでしょう!」
「……たしかに?」
「せめて普通の魔法使ってくれよ」
「普通って一番難しいのよ。男っていつもそう。普通普通ってそれがいいって言うの。自分は特別を求めるくせにね」
「今そんな話してないだろう!!」
「何目線?」
新魔法はものすごく不評だった。あと組んでいたシモンからも「俺の出番とるな」とグーでポンと頭を叩かれた。そして止まらぬ私のオリジナル魔法批判。なんならこむらくんは使用禁止とされた。禁術扱いだと。
「えー……だったら普通の魔法の基準教えてよ」
「学校教材の魔導書に乗ってるレベル」
「あれか……面白くなくない?」
「面白さいらないの!!」
一斉にハモった言葉にぐぬぬ……となってたらロイド先生が口を開いた。
「ニーナが使うなら初等部レベルの教材じゃないとおまえ達は相手にならないよ」
「初等部レベルって……ファイヤーボールとかそんなレベルですよ?」
「ニーナの全力ファイヤーボールは王都潰せるからなァ」
「……………」
シーンとなった演習場。あとから「ニーナ、変な魔法使っていいから国家反逆とかしちゃ駄目よ?」とみんなから言い聞かせられた。凶悪犯みたいな扱いされてる。無実です。