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第二十一章 同伴登校とつながるスマホ その三

「はーい。皆さん、時間です」とマチ子先生が皆に声をかける。皆が姿勢を整えるのを待って「それでは、始めましょう」と言った。


「誰から始めるか、一番にやりたい人いますか?」とマチ子先生が声をかけるが誰もいない。


「それでは、言い出しっぺのわたしからやりますね」とマチ子先生が言うと、生徒からおおっと声が上がる。

「ルールを守ってくださいね。批判なしにまずは受け入れてください」


「わたしは、八福神(はちふくじん)が大好きです!」そういうと、マチコ先生はポケットから八福神のキーホルダーを取り出してみせた。

「わたしも〜」と柏木後輩がトナカイのキーホルダーを掲げてみせた。


「それ、トナカイっしょ?八福神と関係なくない?そもそも七福神だし」とマリアが言う。「ああ〜」と残念そうな声が2,3の生徒の口から漏れる。


「あっ、浜崎さん知らない?」とマチ子先生。そしてマクガイアに向かって「マクガイアさんも八福神のこと知らないですよね?」と聞く。頷くマクガイア。

「他にも知らない人います?」と尋ねると、浜崎マリア以外にも二人の生徒がおずおずと手を上げた。


「よし!では、みなさんに、八福神とはなにか、八福神の魅力について語りましょう!」と俄然、張り切るマチ子先生。


「先程のマクガイアさんの話にも共通するんですけど、八福神は八人の神様なんですが・・」

「八柱じゃないの?」と浜崎マリアが混ぜ返す。


「あははは、そうでした。みなさんは七福神は知ってますよね?神セブン。では、全部言える人いますか?」とマチ子先生。


「エビスさん」と手を上げる浜崎マリア。

 続けて生徒たちから「布袋(ほてい)さん」「毘沙門天(びしゃもんてん)」「大黒(だいこく)さん」「弁財天(べんざいてん)」「福禄寿(ふくろくじゅ)」と声が上がって、急に失速する。


「あと一人、あと一人」と手を叩きながらマチコ先生が声援を送る。

「だめかぁ、覚えておいてくださいね。寿老人(じゅろうじん)です」とマチ子先生が答えを教える。


「ああ〜寿老人って、あれですよね、頭の長いお爺さん」とユリア。

「そうですそうです。では、七福神の中で、唯一の日本人はだれでしょうか?」

「えっ全員でしょ?日本の神様なんだし」と浜崎マリア。ユリアは笑って見ている。


「エビスさんですよね」と柏木後輩が言う。

「そ〜で〜す。柏木さん正解。関西ではえべっさんでお馴染みの商売繁盛の神様です」とマチ子先生。

「他の神様がどこから来たのか知ってますか?」


「昔の話だからぁ、中国は妥当だよねぇ」と浜崎マリアが言う。

「浜崎さん正解!」とマチコ先生。浜崎マリアがうっしと言ってガッツポーズで辺りを見回す。


「あとひとつあります」とマチ子先生。

「韓国!」とマクガイアが(たま)らず声を上げる。

「マクガイアさん・・・不正解!残念」とマチ子先生。

「オオウっ」とおでこに手を当て悔しがるマクガイア。保健室に温かい笑いが満ちる。


「でも、韓国入ってたら良かったですよねぇ。K‐POP人気ですし。でも、韓国じゃないんですよね。昔の日本人が憧れた国です。ヒント、西方浄土(せいほうじょうど)と呼ばれていました」とマチ子先生。


「ピンポン!」と早押しでボタンを押すように腕を振りユリアが答えようとする。

 答えようと手を上げていたマクガイアが引き()った顔でユリアを睨む。


「ユリアさん!」と答えを促すようにマチコ先生がユリアの方に手を掲げる。

「インド!」とユリアが答える。マクガイアが再び手をおでこに当てて悔しがる。


「ユリアさん!正解です」とマチコ先生。う〜っしとユリアがガッツポーズでマクガイアに勝ち誇ったような視線を向ける。そのドヤ顔を受けてマクガイアが胸を掻きむしる。


「ビバ、多様性!」とマチ子先生が言う。


「その七福神の中に、とうとうヨーロッパの神が加わったのが八福神。ヨーロッパの神で日本で一番親しまれているサンタ・クロースが七福神と一緒になったのが八福神です」と胸を張るマチ子先生に「サンタ・クロースは神ではありません!聖人ですね」と、とても厳しい顔でマクガイアが割って入る。


「あははは」と笑うマチコ先生の顔が少し引き()っている。

 抑えて抑えてとユリアがマクガイアにジェスチャーで伝える。

「で、トナカイなんだ」と浜崎マリアが言う。


「そうなんです。柏木さんが持っていたトナカイはトナカイジョニーと呼ばれていて、すごいやんちゃしてたんですけど、調子に乗りすぎて、こっぴどく()らしめられます。


 その時、殴られて鼻が赤く()れてそのままになっちゃうんですけど、落ち込んでいるトナカイジョニーに声をかけてくれたのがサンタさんでした。


 で、サンタさんと一緒にクリスマスプレゼントを配ることになるんですが、日本に来た時にサンタさんの乗った(そり)が電線に引っかかって動けなくなるんですね。


 そこに現れたのが七福神が乗った宝船。で、宝船にサンタさんは乗せてもらって、トナカイジョニーが宝船を引っ張って無事にプレゼントを配り終えるんです。


 ビバ、多様性!そういう素敵なお話が八福神なんです」と一気に語ってマチコ先生は皆を見渡す。楽しそうに聞いてくれている生徒の後ろで、腕を組み頭を振っっているマクガイアが気になって仕方がないが無視することにする。


「マチ子先生の推しは誰なんですか?」と柏木後輩が尋ねる。

「え〜基本箱推しなんですが・・・強いて、強いて言えば弁財天です。

7人のおじいちゃん達の中で紅一点、決して若いとは言えないんですけど、シャキシャキと7人のおじいちゃん達を指揮して降りかかる難題を解決していくんです。

しかも、時折、地上に降りてきて人間の男性と恋に落ちたりもします。とにかく魅力的な女神なんです」と話すマチ子先生はとても楽しそうだった。


「さて、八福神の魅力はわかってもらえましたか?Youtubeにショートアニメもあるので、ぜひ視てみてくださいね」とマチ子先生が言う。

「最後は布教ですかぁ〜マチ子先生?マクガイアには宗教の話は駄目って言ってたのに」とユリアが言うと保健室に笑いが起こった。


「では、次。私が指名します。浜崎マリアさん」とマチ子先生が指名した。


「KEEP ON ROCK!」と浜崎マリアはエアギターをやって見せて「私が好きなのはロッケンロールです!」ギャルでロッカーそれが浜崎マリアの正体らしい。

 浜崎マリアを皮切りに、生徒たちが各々好きなものを語ってゆく。


 授業が終わった後の教室に漂う親密な空気は間違いなくマチ子先生の授業がもたらしたものだった。マクガイアはマチ子先生の手腕に感心した。

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