第十三章 田中最高導師 その一
天の階教会の白い大聖堂が、夕日を受けてオレンジ色に輝いている。
大聖堂は、以前マクガイアが訪れた本部建物と中庭を囲うような形で北側と南側2本の回廊で繋がっている。
本部側から回廊を進んでいくと突き当りは間口が20メートルほどある高く険しい階段になっている。
階段を登り切ると奥行き15メートルほどの控えの間があり、正面中央に高さ4メートルほどの両開きの扉がある。扉は常時、開かれており、その先が聖堂となっている。
雲上と呼ばれる出家した信者達が、北側の回廊を夕日に輝く教会に向かって進んで行く。
「互いに慈しみ、互いに支え合い、貧しさに耐え、祈ります。最後の裁きが訪れるその日まで希望を失うことなく祈ります。どうか、悪しきカルマから逃れることができますように」
信者達は静かに祈りながら聖堂へと向かう。
聖堂に続く大階段の北側半分を登る者たちが使い、南側半分を降りる者たちが使う。
階段は険しく信者たちは体を預け膝をつき、腕を使ってよじ登るように上がっていく。または、ずれ落ちるようにして階段を降りていく。
登り切ったところで一旦膝をついて祈り、控えの間を突っ切って、巨大な扉をくぐり聖堂の中へ入る。
聖堂の内部はゴシック風に仕立てられ埋め込まれたステンドグラスから漏れる極彩色の光で満ちている。
天井を支えるアーチ状のリブには泡立つような素材が用いられ、一筋の溝が穿たれている。その素材とデザインはステンドグラスから入る光に複雑な陰影を加えている。
聖堂を支える20本の柱にはそれぞれ巨大な天使の彫刻が施されている。
そして聖堂正面にあるのは、またしても階段である。
その階段はどこにも繋がっていない。天井に吸い込まれるように仕立てられている。
その階段の中腹に演台が設けられており、最高導師が不定期で説教を行う。
正面の階段の中央は床がくり抜かれており一階の修行の間に繋がっている。
修行の間はマット敷きで、信者たちはここで霊操と呼ばれるヨガに似た体操と瞑想を行う。
修行の間につながる階段の向かいの壁には、また別の階段があり、その階段の中央部は同様に床がくり抜かれ半地下の奈落の間へ繋がっている。
奈落の間は、霊性のレベルを上げたい信者の修行や、教理に違反した信者の更生の為に使用されおり、とても狭い個室が数十並んでいる。
ちなみに奈落の間へは、一階からも、二階の聖堂からも行くことができる。
主に教理に反したものを突き落とす穴があり、チューブのような滑り台で繋がていた。
信者達はチューブに落とされぬよう日々修行に励むのである。
聖堂正面まで来た信者は膝を付いて祈りを捧げる。
「互いに慈しみ、互いに支え合い、貧しさに耐え、祈ります。最後の裁きが訪れるその日まで希望を失うことなく祈ります。どうか、悪しきカルマから逃れることができますように」
そして、聖堂を後にして、大階段をずり落ちるようにして一階に降り、南側の回廊を通って本部建物に向かう。
本部建物のバルコニーに上がり、外から聖堂へ祈りを捧げ、そして再び北回廊を進み聖堂へと向かって行く。
これを九度繰り返すのが夕のお勤めであった。
信者が夕のお勤めに精を出す聖堂正面の階段の裏側にに最高導師の部屋がある。
その部屋で、田中最高導師は、発売されたばかりの週刊リークを手に固まっていた。
記事を読み終え、自分が記事にされたことにひどく動揺していた。




