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第六章 東京デート その五

 浅草に着くと、雷門で写真を撮った。何が気に入らないのかマクガイアに何度も取り直しをさせられた。


 門前の土産物屋をあれこれと物色しながら進んでいく。土産物屋で木刀を手にして、レジに向かおうとするマクガイアを「中学生かっ!」とユリアは押し留めた。


 マクガイアはイエズス会の神父でありながら、他の宗教に対し、寛容であるようで、浅草寺を詣でることを拒むことはなかった。


香炉の前にマクガイアを連れて行って、ユリアは言った「良くなりたい所に、この煙をかけるの。そうすると、良くなるって言われてるのね。足が悪い人は足に、首が痛い人は首に、この煙をかけるんだよ」

 ユリアの言う通り、多くの人が煙を手ですくっては体に擦り付けている。


「なぜ、煙をかけると、良くなるんですか?」と、マクガイアが問う。

「知らんしぃ」とユリア。


「わかんないけど、良くなるかもしれないじゃん、だったらやっとこう的な。私なんか頭悪いから、頭にいっぱいかけちゃうもんね」と言って、ユリアが煙を頭にかける。


「ほら、マクガイアも」とユリアはマクガイアに促す。

「わらしは、どこも悪くありません。悪い所があっても、異教の神にすがりはしません」と答える。そこは、一線を引いて、当たり前かとユリアは思う。


「そっかぁ、そうだよね。ゴメンネ。じゃ、お参りを済ませよっか」と向き直り歩みだそうとするところで、ユリアが右手で煙をすくい胸に当てるのをマクガイアは見ていた。


 修道服に身を包んだ大柄な外国人が寺を詣でる姿の珍しさ、しかも連れが若い女性である珍奇さに、インバウンドの観光客にちらほら混じる日本人からスマートフォンを向けられる。その幾つかがSNSにアップされる。ユリアもせっせと上げていく。


 寺院の正面を指さしてユリアが言う「ここで、お賽銭をいれてお祈りするの。マクガイアはここに居て。わたし、お祈りしてくるから」と小走りで駆けていく。


 賽銭箱に小銭を投げ込んで祈るユリアの姿に、多くの人が祈っている姿に、日本人は無宗教であるという定説についてマクガイアは疑問を感じずにはいられなかった。


 二人で人力車に乗った。マクガイアは車夫が女性であることに驚いた。軽快に走る人力車の乗り心地は悪くなかった。スカイツリーの写真を撮ったが、それは異様に巨大で現実感が欠けていた。


 マクガイアにはイメージにある、まだ見ぬ東京タワーの方が気品があるように感じた。


 秋葉原は平日のため残念ながら歩行者天国ではなかった。

 マクガイアは別にオタクではないが、日本といえばアニメとマンガが有名であることぐらいは知っている。


「キリスト教をテーマにした、アニメやマンガはありますか?」とユリアに尋ねた。

 あいにくユリアもアニメやマンガに(うと)く、知らないと言う。それでもユリアは、アニメやマンガを扱っている店を知っていて、そこへマクガイアを連れて行った。建物すべてがアニメ・マンガで埋まっている。


 マクガイアは店員に尋ねた。

「キリスト教をテーマにしたアニメやマンガはありますか?」


「お客さん、半端ないっすねぇ、コスプレっすか?ガンギマリじゃないですか」とチャラい店員が答える。彼がマクガイアの前に「聖☆おにいさん」「HELLSING」「まりあ†ほりっく」のBDを並べた。


 マクガイアは値札を確認するがすべてを買うには手持ちが足らない。

 う〜んと唸っていると、店員が言った。「HELLSINGなら中古のDVDがありますよ。もちOVAの方で四千円っす」と言われ、それを購入することにする。


 店員が商品を包装していると眼鏡をかけた女性店員が声をかけてきた。

「す、すみません。あのぉ本職の方ですか?」


「ほんしょく?」

「す、すみません。本物の神父様ですか?」

「ええ、イエズス会のニコラス・マクガイアです」


「こちらですね、HELLSING・ブルーレイディスク・ボックスセットで四千円になります」とチャラい店員が品物を差し出す。HELLSINGという言葉を聞いて、女性店員の顔が引き攣る。


 マクガイアが料金を支払い、商品を受け取る。

「駄目です!」と眼鏡の女性店員が品物を奪おうとする。驚くマクガイアに女性店員は言う。


「すみません!悪気はないんです!でも、ただのアニメなんです、エンタメなんです。だから、そっとしておいて下さい!わたしたちから楽しみを奪わないで!」女性店員は必死である。


「大丈夫です。ただのアニメです。問題ありません」とマクガイアは品物を奪われまいと一層強く掴んで言う。


「本当に?」と女性店員。

「本当です」とマクガイア。


「教皇に告げ口しりしませんか?」と不安そうに女性店員が真面目に言うのを聞いて、マクガイアは笑いそうになる。


「しません、しません、たかがアニメじゃないですか」マクガイアは本音でそう言った。

「信じていいですか?」とまだ不安そうに女性店員が言う。


「もちろんです。信じて下さい」と何を言っているのだと思いながらも、誠実に答える。

 そこまで言って、やっと女性店員は品物をマクガイに渡した。マクガイアには全く意味がわからない。


 とんでもない禁書でも買ってしまったのだろうかと疑問に思う。


「マクガイアぁ」とユリアが呼ぶ声がして、そちらを向くと来て来てとユリアが手を振っている。

 そこには北斗の拳のフィギアがずらっと並んでいた。


「すごいっしょ」とユリアが言う。凄い、凄すぎる全て欲しいとマクガイアは思う。

 しかし、値札を見て崩れ落ちる。どうあがいても手に入れることはできない。


 オーマイゴッドと口から漏れた。

「オーマイゴッドいただきましたぁ」とユリアが楽しげに笑う。


 時間が押してしまった。皇居はスキップして、月島に行ってもんじゃを食べる。

「ユリア、これは食べ物では・・・」マクガイアは、食べ物ではないのではないかと言いそうになって言葉を飲み込んだ。


「マクガイアの言いたいことはわかる。でもね食べてみて、おいしいんだから」とユリア。

 小さなヘラでユリアが食べ方を教えてくれた。


 食べてみた。美味しかった。びっくりした。焦げ目が付いた方がわたしの好みだとユリアが言う。

 なるほど焦げ目が付いたほうが美味しいとマクガイアも思った。


 赤羽で東京タワーに登った。西の方に夕日をバックに富士山が見えた。初めての富士山は、とても小さなとんがりといった印象だった。


 マクガイアは一日あれば東京すべてを見て回れると思っていたのだが、甘かったようだ。

 今日はここまでと東京タワーの下で二人はベンチに腰を掛けた。

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