第五章 ミセシメ その四
再びサイレンを鳴らして、救急車が去るのを見送ると、どっと肩の力が抜ける。
両手に何も持っていないことに気付いて、顔を上げてあたりを見渡した。
通りの真ん中に放り出された土産袋が落ちている。
最悪とつぶやいて、土産の袋を拾う。土産袋がビニールでよかった、中は濡れていない。
ユリアは最悪じゃなかったとつぶやいて、自宅へと歩みだす。
履いているスニーカーはぐっしょりと雨を吸い込んで、歩く度にグシュグシュと音を立てた。気持ち悪いこと甚だしい、それでも、鬱屈した気分は、もうどこかへいっていた。
古ぼけたアパートの2階、201号室、部屋に明かりはない。
ポケットから鍵を取り出しドアを開け、外より暗い部屋に入る。
できるだけ明るい声で「ただいま」と声を出す。
「おかえり」の声はない。靴を脱いで、濡れた靴下を脱いで部屋に上がった。
爪先立ちで、二部屋を突っ切って狭いベランダの洗濯機に靴下を入れた。
再び爪先立ちで二部屋を突っ切って脱衣所に向かう。
爪先立ちで部屋を往復している自分の姿が滑稽で、笑顔が漏れた。
シャワーを浴びて、十分に体が温まる頃には、鼻歌まで出ていた。
ユリアは歌っている自分に気付いて、そろそろ新しい動画を上げなきゃなと思う。
タオルを髪に巻き付けて雨に濡れた袋から土産物を出し、ティッシュで表面を拭った。
ふと思い立ち、マクガイアに無事に着けたかとLINEする。
メッセージを打ち終わって、土産の一つを奥の部屋の父親の位牌に備えて手を合わせた。
「お父さん、修学旅行は最後の最後に散々だったけど、それまでは楽しかったよ。
で、人助けもしました。あの人が無事であるように、お父さんも見守ってね」と声を出さずに語りかける。
そして、LINEを確認する。
マクガイアからの返信はない。
いらついたユリアはメッセージを重ねて打った。
それから、玄関と直結したダイニングキッチンのテーブルにもう一つのお土産を置く。「お土産です」とメモを添えて、奥の部屋に戻り布団を敷いてその中に潜り込んだ。
しばらくして、マクガイアからメールが届いた。
ちゃんと教会に辿り着けたようだ。
堪らず、電話を掛け、二言三言やり取りすると、何かやり終えたと不思議な充実感に満たされて、安心して眠ることができた。
翌朝、目が覚めて、遅刻だと慌てて飛び起きた。ハンガーに掛けた制服が、まだ濡れている。どうしようと思いあぐねていると、思い出した。
今日は修学旅行後に特別に設けられた休日だった。




