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第四十八章 魔性と霊性 その四

 破壊した幹部用通路を覗くマクガイア。

 この通路を行けば聖堂の奥に出られるであろうとことは推測できた。

 狭く逃げ場のない通路で待ち伏せでもされればお終いだ。


 マクガイアは聖堂の入口に続く、大階段を登る道を選ぶ。

 マクガイア、パウロ、紫紋が自動小銃を構え直す。その姿を見て、仁も手の中のハンドガンを握り直してみた。ベレッタM92F——まだ一発も撃っていない。手汗がじっとりとグリップを濡らす。嫌な感じしかしない。


 大階段の下までくると、聖堂から吐き出されてくる異様な邪気に息が詰まる。

 何をしているのか、轟々と音が響いてくる。

 大階段の角度が急なため、下から聖堂の入口を確認することはできなかった。


 ただ仄かな明かりが漏れており、そこが目指すべき場所であることを告げていた。

 四人は周囲に目を配った、囲まれたら一環の終わりだ、その時――

 ブ―ブ―ブ―


 紫紋のスマートフォンが着信を告げる。

 仁はドキッと身を震わせ、着信音であることを知って、ふっと気を緩める。

 紫紋はスマートフォンを取り出して「アキラです」と声を潜めて告げる。

 マクガイアとパウロは周囲に銃を向け、警戒を解くことなく紫紋に出るよう促した。


「紫紋パイセン・・・」とアキラも声を潜めている。

「聖堂の回りは大丈夫ですよ」全員がスマートフォンの音声に耳を傾ける。

「聖堂の回りの監視カメラに映る人の姿はありません」とアキラ。

「ただ・・・」と言葉を切った。

「中の様子がおかしいんです・・・」

「ユリアの姿がありません」


 四人はハッと険しい顔になって、互いを見た。

 アキラは続ける。

「あと・・・田中最高導師なんですけど・・・」

「いるんでしょうけど・・・」

「カメラにちゃんと姿が映らないんですよ」

(もや)がかかったみたいになってます」

 四人は互いに首を傾げる。


「OK、アキラ」とマクガイアが声を落として語りかける。

「我々は今から聖堂に攻撃を仕掛ける」

「君も攻撃を仕掛けろ」そう言って紫紋に通話を切るように指示する。


「えっ」というアキラの声を最後に通話は切られた。


 三人に待つように言い、まず、マクガイアは一人で登る。

 右手に小銃を抱え、急勾配の階段を左肘と両足で匍匐前進するように登っていく。

 階下ではパウロが周囲に目を走らせる。


 一段二段と登るごとに邪気が強くなる。

 マクガイアの瞳に紅い光が灯る。

 大階段を登り切るとまるで聖堂そのものが呼吸しているかのような轟轟という音が振動となって体を震わせる。


 マクガイアは今すぐ聖堂に飛び込んで、そのモノを屠りたい欲求に駆られるが、なんとか抑え込む。

 あたりを伺う。アキラが言ったように人の姿はない。

 3人に上がって来るように伝える。


 パウロと仁が上がり始める。

 紫紋は登らず階下で少し様子を伺う。

 残党が後ろから攻撃を仕掛けてくるとも限らない・・・


 二人が十分登り切るのを見届け、紫紋も小銃を抱えて大階段を登り始めた。


 紫紋が大階段の最上段に顔を出した時には三人は聖堂の中へと向かっていた。

「引き上げてくれてもええやんか」と紫紋は独り言ちた、その時――

 聖堂の大扉の影から武装した信者の一団が飛び出した。


「嘘やろ⁉」と不安定な足元で銃を撃つ、その反動で体勢を崩す。

 異変に気付いたパウロが敵を撃ち倒しているのが見えた。


 紫紋に向かってくる二人の信者。

「勘弁して」

 紫紋は階段を踏み外し、銃を手放してしまった。

 ――ウッ!

 肩や腰を打ち付けながら転げ落ち、大階段左手の穴に落ちた。

 落ちた瞬間、咄嗟に腕を伸ばし、目についたものを掴んだ。


 掴んだものは床らしい・・・・

 紫紋の顔はその床の下のフロアーの天井にあった。

 ――ヒェッ!なんやねんこれ 

 紫紋はそこから見える光景に絶句する。


 紫紋が見ているのは、奈落の間の惨状だった。

 ルシファーの狂気、教団の暴走によって殺された信者たちがステージから突き落とされて、折り重なっているのだった。

 突き落とされたスロープが血塗られているのを目にする紫紋。


 ――あかん!

 必死で掴んだ床へと(にじ)り上がる。

 そこへ銃撃が襲う。銃弾の一発が紫紋の脹脛(ふくらはぎ)を掠めた。

 ――ツッ!

 痛みに歯を食いしばり部屋の奥へと転がり顔を上げる。

 正面の壁に先程見たのと同じような血の筋があった。

 紫紋は最後の爆弾を部屋の中央に置くと一か八かの賭けに出る。





 六本木ヒルズのタワーマンションでアキラは通話の切れたスマートフォンを見つめていた。

 ”君も攻撃を仕掛けろ”とマクガイアは言った。

 自分にできることはサイバー攻撃、ハッキング・・・・

 ――よし!

 アキラはキーボードを叩き始める。





 大扉の影から飛び出してきた敵は6人だった。

 紫紋の銃撃で一人倒れ、二人に傷を負わせた。

 紫紋の攻撃がなかったら危なかった。


 パウロは仁を庇いながら、左肩を抉られた。

「仁!」

 仁が落ちた紫紋の方へと走り出していた。


 ――クッ!

 パウロは立ち上がり仁を追う。

「紫紋先輩!」階段の縁で仁が叫ぶ。

 パウロが仁の横に立つ。

「紫紋先輩がいません・・・」


「逃げたんだろ・・・」

「大丈夫だ、紫紋先輩は・・・」と言ってパウロは仁を聖堂の方へと引き戻す。


 聖堂からの轟轟という音が、一段とひどくなり仁は思わず耳を覆った。

 その時、紫紋の爆弾が爆発する。

 爆発音は仁の耳には届かない、ただ、足元からビリビリと嫌な振動を感じたのだった。


 聖堂の入口を見る。

 小銃を片手にぶら下げて、仁王立ちしているマクガイアの姿があった。

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