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第四十七章 激突 その五

 ミンミンとブブゼラが残した残響が耳に残る中で、ユリアは「倉棚ユリアを解放して下さい」という声を聞いた。


 ――えっ!

 ユリアは顔を上げる。


 男が二人の潜入者がいると言った。

 ユリアは男を知っていた、あいつだ、テレビに出ては天の階教会が如何に素晴らしい教団であるかを語り、疑義を呈する記者たちを(はな)からバカにした態度を取っていたあいつだ。


「ねぇ、ちょっと・・」とユリアは男に声をかけ、男の方に一歩踏み出した。

 ――ングッ!

 つながれた首輪がそれを許さない。


 引き倒されるよな形になって、ユリアは田中最高導師を睨みつける。

「おい!筋肉ゴリラ!離しなさいよ!」


 ――ブワッハハハハ!ヒィ〜ッ!

 ルシファーが愉快そうに笑って言う「なぁ、オメェほんとにチンポついてねぇのか?」


 ユリアはキッとルシファーを睨む。

「あんた、ちょっと黙ってて」


「おっ怖え〜」

 ルシファーがニヤニヤと笑う。

 田中最高導師は、つまらなそうに席を立ち、演台へと向かう。


 ユリアをつないでいる鎖が緩む。

 ユリアは先島に駆け寄ると食い気味に言った。

「二人の男って?誰よ!」


 さっきまで拉致されてきた者らしく、項垂れていた少女が、瞳を輝かせて詰め寄ってくる。

 先島は、この少女が自分の命運を握っていると思うとやるせない気持ちになった。

「メ、メガネの神父と関西弁の男・・・」と先島が答える。

 チッ!

 それを聞いてユリアは舌打ちをする。

 ――なんでマクガイアがいないのよ!と理由のわからない怒りが沸き起こる。

 先島は明らかに不機嫌な表情のユリアを見て、なんなんだと顔をしかめる。


 それよりも、だ。先島は自分の脇を通り過ぎようとする田中最高導師にすがるように言う。


「さ、最高導師!助けて下さい・・・」



 演台の前に立った田中最高導師が、先島の訴えを完全に無視して言う。

「先島・・・カメラを回せ・・・」

 ――はぁぁぁ?????

 先島の眉が情けないほど見事に八の字になる。





 聖堂脇の廊下で、ジロウがケンの肩を叩く。

 ブブゼラの音を長時間浴びて可怪しくなった耳に、口元を寄せてジロウが呟く。

「俺達、どうなるんだろうな・・・」

「わかんねぇよ」とケンがジロウの耳に口を寄せて言う。


「あいつ・・・可怪しくなってるぜ」とジロウ。

「そりゃ、な・・・」ケンは悲しげな微笑みを浮かべて続けた。

「ハニーが逝っちまったからな・・・」


「付き合うのか?」

「ジロウ・・・何が言いてぇんだ?」

 ジロウは、ふっと肩をすくめる。


「バックレてもいいんじゃね?」

「・・・・ダチだぞ・・・」

 ジロウは、それを聞いてしばらく黙っていた。


 そして、ゆっくりと目を細め、囁く。

「・・・だな・・・」


 二人はつまらなそうに聖堂の壁に背を預けていた。





 アキラは天の階教会のセキュリティーカメラの映像を、複数の画面でモニタリングしていた。

 奈落の間・・・瞑想室と呼ばれる小部屋が並ぶフロアー。

 その中の一室が発光している。

 ――んっ?

 その光はどんどん大きくなり、やがて画面は真っ白になった。アキラは眉根を寄せて画面に見入る。


 やがて画面は外側から像を結び始めた・・・画面中央に人影が映る。いや、人影ではない、それは光っている。画面に顔を寄せる。


 ――エッ!

 アキラは自分の目を疑った。それは、聖母マリアのように見える。

 ――落ち着けっ、と自分に言い聞かせて、大きく深呼吸して再度、画面を見るアキラ。


 光る女性を改めて見る・・・ユリア?

 光る女性はどことなくユリアの面影を思わせた・・・

 彼女は両手を胸の高さで掲げる。

 ――エッ!


 光る女性の体は浮き上がり、そのまま上昇して画面の外へと消えていく・・・

 アキラはその様子を、口をあんぐりと開けて見送った。


 一体、自分は何を見たのか・・・マリア!?・・・ユリア!?・・・


 ――あっ!

 アキラは、一つの画面を見すぎたことに気付き、他のモニターに急いで目を走らせる。

 ――ヤバい!

 回廊にいた武装信者の一人がパウロと紫紋のいる部屋に向かっていた。


「パウロさん左の入口に一人銃を持った男が向かっています!」言い終わる前に、銃声が響いた。

 パウロと紫紋は床に伏せる。


「テラスへ!」とパウロが声を掛ける。二人はテラスへ転がり出る。


 紫紋は一つ爆弾を部屋に残して、起爆装置のボタンを押した。爆風がテラスを洗う。


 パウロは、まだ埃が収まらない部屋の中に素早く戻ると、倒れた信者からライフルを奪った。

「大丈夫ですか!」とアキラの声。


「大丈夫や!心配ない・・・」と言う紫紋の声に、アキラは胸を撫で下ろす。


「せやけど、もうちょっと(はよ)う知らせてくれんと、命がいくつあってもたらんで・・」と紫紋先輩。「それから、アッキー、相手の居所は左右やなく、東西南北で言うてくれ」


「す、すいません!続いて、悪い知らせです。今の爆発で、二人の居場所がバレました」


 テラスから回廊をこちらに向かってくる信者達が見えた。

 パウロが行く手に銃弾を撃ち込む。

 直ぐに応射があり、テラスの石材を銃弾がパシパシ抉る。

 パウロと紫紋は身を縮めて耐えた。


 回廊の信者達も柱に身を潜めてこちらを窺っている。




 二発目の爆発を信者たちは聞いた。

 ひっと声を上げる者がいる。


 そして爆弾を抱えた男が、なぜか隣でカメラを回し始めている。

 最前列に居並ぶ幹部たちは、どうにかしてここから離れたいと思った。

 後列に居並ぶ信者たちは助けてほしいと祈った。

 

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