第五章 ミセシメ その一
地下鉄がクゥーンとモーター音を上げて発進する。
ユリアは、ホームに残るマクガイアに手を振った。
マクガイアが不器用に微笑み返し、手を上げた。
出会って半日も経っていないのに、ユリアはマクガイアに親密な感情を抱いていた。
車両がホームを過ぎ、トンネルに入ると、窓に映る佐藤先生と目があった。
ユリアは振り返って「先生、座りません?」と声をかけ、空いてる席に二人並んで腰をかけた。
「佐藤先生、今日は本当にご迷惑をおかけしました。空港まで迎えに来ていただきありがとうございます」と感謝を込めて言った。
「いえいえ、私のことは気にしなくていいんですよ。無事で良かったですね」と佐藤先生も本当に良かったと頷きながら返した。
「でも、先生は、今日、休みだったんでしょ?わたし、台無しにしちゃいましたよね?」と、すまなそうにユリヤが言うと、佐藤先生は「休みではありません、なにか遭った時のために待機ということになっていましたから」と笑顔で答える。
「でも・・・」
「いや、本当に気にしなくていいんです。生徒の面倒をみるのが教師の役目ですから」
「ありがと、優しいね!佐藤先生」と言ってユリアは微笑んだ。
「ははは」と照れ笑いで返す佐藤先生。
「倉棚さん、今日はなんだか別人のようですね。マクガイアさんと一緒にいる倉棚さんはいつもと違って見えました」佐藤先生の言葉にユリアは眉根を寄せて、顔を伏せる。
「だよねぇ」とユリアは呟いて、短くふ〜っと息を吐く。
「わたし、学校では浮いちゃってるんだよね。先生も知ってるでしょ?何だろ、どうにもならなくなっちゃってるんだよね」
「浮いちゃいましたか?」と心配そうな声で聞き直す佐藤先生。
「あっ、先生、忘れて、忘れて」とそれ以上の詮索を阻止するようにユリアは言った。
電車が蒲田の駅に着き、改札を出ると、ユリヤは佐藤先生に尋ねた。
「先生はこれから、学校に戻るんですか?」
「うん、まあ・・・」
「本当にごめんなさい。めんどくさいことに巻き込んじゃって」とユリアが再度謝って、京急蒲田駅に向かおうとすると「いや、今から学校に戻らないと行けないんです。倉棚さんも一緒に・・・」と佐藤先生が言う。
「皆が、他の生徒と先生方が待ってらっしゃるので、一緒に学校に戻りましょう」と佐藤先生が残念そうにユリアを見つめた。
「えっ・・・」とユリアの喉から声が漏れる。次の言葉が出てこない。
皆が待っているので、学校に戻ると佐藤先生は言った。
修学旅行のしおりでは、学校に戻って解散となっていたはずで、解散時間は午後2時と記憶している。
今はもう午後3時を回っている、今から向かえば学校に4時には着くだろう。
皆が2時間、私を待っている、待たされている。
空腹の胃がぎゅっと締められる。口に酸っぱいものが込み上げた。
左目の下瞼が痙攣する。お土産の袋を持った手をギュッと握る。ボストンバックの重さが増したように感じた。「なんで・・」と漏れ出た声が、駅の雑踏に踏みしだかれていく。
それから、学校まで、佐藤先生と一言の会話もなかった。
佐藤先生は遅れがちなユリアを振り向いて待ち、急かすこともせず、引率してくれた。
校門をくぐり、校舎の裏にある体育館までやって来た。
佐藤先生が体育館の扉を開け、先に中に入った。
開いた扉の隙間から、中にいる150人の生徒が振り向くのがわかった。
佐藤先生がユリアに中に入るように促す。
地下鉄がクゥーンとモーター音を上げて発進する。
ユリアは、ホームに残るマクガイアに手を振った。
マクガイアが不器用な微笑み返し、手を上げた。
出会って半日も経っていないのに、ユリアはマクガイアに親密な感情を抱いていた。
車両がホームを過ぎ、トンネルの暗がりに入ると、窓に映る佐藤先生と目があった。
ユリアは振り返って「先生、座りません?」と声をかけ、空いてる席に二人並んで腰をかけた。
「佐藤先生、今日は本当にご迷惑をおかけしました。空港まで迎えに来ていただきありがとうございます」と感謝を込めて言った。
「いえいえ、私のことは気にしなくていいんですよ。無事で良かったですね」とこちらも本当に良かったと頷きながら返した。
「でも、先生は、今日お休みだったんじゃないですか?私、台無しにしちゃいましたよね?」と、すまなそうにユリヤが言うと、佐藤先生は「休みではありません、なにか遭った時のために待機ということになっていましたから」と笑顔で答える。
「でも・・・」
「いや、本当に気にしなくていいんです。生徒の面倒をみるのが教師の役目ですから」
「ありがと、優しいね佐藤先生」と言ってユリアは微笑んだ。
「ははは」と照れ笑いで返す佐藤先生。
「倉棚さん、今日はなんだか別人のようですね。マクガイアさんと一緒にいる倉棚さんはいつもと違って見えました」佐藤先生の言葉にユリアは眉根を寄せて、顔を伏せる。
「だよねぇ」とユリアは呟いて、短くふ〜っと息を吐く。
「わたし、学校では浮いちゃってるんだよね。先生も知ってるでしょ?何だろ、どうにもならなくなっちゃってるんだよね」
「浮いちゃいましたか?」と心配そうな声で聞き直す佐藤先生。
「あっ、先生、忘れて忘れて」とそれ以上の詮索を阻止するようにユリアは言った。
電車が蒲田の駅に着き、改札を出ると、ユリヤは佐藤先生に尋ねた。
「先生はこれから、学校に戻るんですか?」
「うん、まあ・・・」
「本当にごめんなさい。めんどくさいことに巻き込んじゃって」とユリアが再度謝って、京急蒲田駅に向かおうとすると「いや、今から学校に戻らないと行けないんです。倉棚さんも一緒に・・・」と佐藤先生が言う。
「皆が、他の生徒と先生方が待ってらっしゃるので、一緒に学校に戻りましょう」と佐藤先生が残念そうにユリアを見つめた。
「えっ・・・」とユリアの喉から声が漏れる。次の言葉が出てこない。
皆が待っているので、学校に戻ると佐藤先生は言った。
修学旅行のしおりでは、学校に戻って解散となっていたはずで、解散時間は午後2時と記憶している。今はもう午後3時を回っている、今から向かえば学校に4時には着くだろう。
皆が2時間、私を待っている、待たされている。
空腹の胃がぎゅっと締められる。口に酸っぱいものが込み上げた。
左目の下瞼が痙攣する。お土産の袋を持った手をギュッと握る。
ボストンバックの重さが増したように感じた。「なんで・・」と漏れ出た声が、駅の雑踏に踏みしだかれていく。
それから、学校まで、佐藤先生と一言の会話もなかった。
佐藤先生は遅れがちなユリアを振り向いて待ち、急かすこともせず、引率してくれた。
校門をくぐり、校舎の裏にある体育館までやって来た。
佐藤先生が体育館の扉を開け、先に中に入った。
開いた扉の隙間から、中にいる150人の生徒が振り向くのがわかった。
佐藤先生がユリアに中に入るように促す。
ユリアの心臓はもう限界まで高鳴っている。耳は真っ赤に染まっていた。息を一つ大きく吐いて、靴を脱いで体育館に一歩踏み入れた。
佐藤先生が、土足用のビニール袋を手渡してくれた。そこに脱いだ靴を入れる。
淀んだ空気の中、150人の生徒が体育館の冷たい床に座らされていた。
それぞれのクラスの前に担任教師が立っており、中央に学年主任の原田がいた。
原田は最前列からねっとりとした視線を向け、「チンタラすんな、倉棚!早く前に来い!」と声を荒らげた。




