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第四十一章 再起 その二

 保健室に女子高生といるというのは落ち着かないものだなと仁は思った。


 保健室学級に来るのは2度めなのだが馴れたとは思えない。


 アキラはと言うと保健室にある調度品を見て回ったりしている。

 校門を潜って、ここに来るまでの間、アキラは見るもの全てが珍しいらしく、いちいち足を止めて、仁にこれは何かと訪ねてきた。


 本当にアキラは学校に通ったことがないのだと仁は思った。


 さらに驚いたのはマクガイアの馴染みようだった。


 生徒からマック先生と呼ばれ、英語の質問に受け答えしたりしている。

 そんなマクガイアの姿を感心して見ていると、仁のスマートフォンが鳴った。


 画面を見ると紫紋先輩からだった。通話ボタンをタップする。

「紫紋先輩、早く来てくださいよ。みんな揃ってますからね」と仁が言う。


「すまん、仁。行かれへんようになってもうたんや」と紫紋先輩。


「ダメでしょ紫紋先輩、言い出しっぺが来ないなんてありえないでしょ」と仁。


「ほんまにすまん、堪忍して・・・なっ」と紫紋先輩。


「貸しですよ、三倍返しですからね」と仁が言う。


「わかった、わかった、三倍返しや」と紫紋先輩。


「ったく、理由は後で聞きますよ、それじゃ」と言ってスマートフォンを耳から離し通話を切る瞬間「ありがとうな・・・」と言う紫紋先輩の声が聞こえた。


 その声に、引っかかるものを感じ、何かあったのかと問いかけようと思ったが、既に通話は切れている。

 

 仁は気持ちを入れ替えて、場を仕切りにかかった。


「え〜、みなさん、それでは倉棚ユリアさんを生徒会長にする戦略会議を始めま〜す」と皆に声をかける。


「紫紋先輩は?」とユリア。


「来れないらしい」と仁。


「あいつ!ぶっ飛ばす」とユリア。散々、ユリアを煽って、この状況を作っておきながらドタキャンとかありえないとユリアはプンスカ怒って見せる。


 みんなが輪になって座る。


「え〜と、今日は緊急会議として、倉棚ユリアさんを生徒会長にするための会議を開きたいと思います」と仁が切り出すと、生徒からパチパチと拍手が起こった。


「この会議を言い出した紫紋先輩が急遽、来れなくなくなったので・・・あっ紫紋先輩、覚えてます?この間、顔を出した関西弁の・・・」


「忘れるわけねぇし」と浜崎マリア。皆が笑う。


「そこでわたしが今日の会議の進行役をやらせてもらいます」と仁が言う。


 はいと手を挙げる浜崎マリア。仁が発言を促す「その子・・・誰?」とアキラを指さして言った。


「あ、はい、みんなに紹介します。こちら作戦参謀のアキラ君です」と仁が紹介する。


「参謀?中坊の間違いじゃね?参謀できんの?ガキンチョじゃん」と浜崎マリア。


「あなたも言うほど大人には見えませんけどね」とアキラが返す。


「おっ?やる気か、生意気言ってんじゃんよ」と浜崎マリアが絡む。


「マリア、そこまで」とユリアが割って入る。


「なぁに本気にしてんだよ、可愛かったからちょっとイジってみたくなっただけだよ」と浜崎マリアが笑う。可愛かったと言われてアキラの顔が赤くなる。


 それを見た女子生徒達から一斉に「かわいい〜」という声が上がり、アキラはもう耳まで真っ赤になっているが、平然を装う。


「はいはい、みなさんいいですか、アキラくんは実はデジタル関係のスペシャリストで、ユリアさんを生徒会長にするための秘策を考えてもらおうと思っています」と仁が言うとおおっという声が上がる。


「では、まず倉棚ユリアさんから生徒会長立候補にあたっての決意表明をお願いしたいと思います」


「はい」と返事してユリアは立ち上がった。


「このあいだ、みんなから生徒会長に立候補するように言われた時は、ほんとに勝手になに言ってんだと思いました。だって、そうでしょみんなが生徒会長に立候補するように言われたらどう?やるって言える?」


 生徒たちが首を横に振る。


「みんなは保健室でのわたしを見て、いけるって思ったかも知れないけど、クラスでのわたしはとても生徒会長っていうキャラじゃなくて・・・なんて言うかな・・・」


「浮いてる」と浜崎マリア。


「あんたに言われてくないよ」とユリアが突っ込むと笑いが起こった。


「とにかく、クラスのみんなに柄にもないと思われる、それだけじゃないだろうな、嫌がらせとかもあるかもしれないと思うと怖くてさ・・・」


「で、気付いたんだよね・・・保健室学級に来る前と、今では違うんだってことに。わたしには仲間がいるし、相談できる先生もできた」それを聞いて生徒たちが大きく頷いた。マチ子先生が大きく息を吸う、ユリアからの信頼が嬉しかったのだ。


「わたしたちは学校で楽しく過ごしたい。このことは主張していいんだって、当たり前のことなんだって思うんだよ。スクールカーストがどうだろうと、生徒も教師も関係なくみんな思ってるはずのことなんだよ。ただ、どうしたってわたしたち、保健室学級にいるようなわたしたちの声は小さいからさ・・・聞いてもらえなかったよね、だから生徒会選挙に出るってことは、全校生徒、先生たちにわたしたちの声を聞いてもらういいチャンスなんじゃないかって思ったんだ。当選する、しないよりもそっちのほうが大事なんじゃないかって思いました・・・」


 それを聞いて、マクガイアが盛大に拍手した。みなも釣られて拍手する。


「なので、正しい学園生活を送るための校則から、楽しい学園生活を送るための校則へ校則を作り変えることを公約として掲げて、選挙に出ようと思います!」とユリアが宣言すると再び拍手が起こった。


「ただ、やっぱり出るからには勝ちたいよね、負けるにしても惨めな結果は避けたい・・・ここにいるみんなはやっぱりクラスに友達少ないじゃん・・・票を集められないでしょ・・・」とユリが言うと、皆が俯く。一気に場の雰囲気が暗くなる。


「そこで登場するのが、先程、紹介したアキラくんです」と仁が割って入った。


「ユリアさん座って、リアルな学園生活で勝負すると勝ち目はなさそうだ、そこでインターネットを使って状況を逆転させようと考えています。アキラくんよろしく」と仁。


「選挙についてですが2月2日から立候補者の受付が始まって、選挙活動は9日から2週間、2月24日に立会演説会及び投票となって27日に結果が発表されます」


「立候補するまでに時間があってよかった。この間に学校、生徒の状況を把握しつつ方針を決めます。一方、ユリアさんの知名度向上を図ります」


「現在の生徒会に全生徒に向けたアンケートをお願いしてください。これ重要です。学校の裏サイトがあることは分かっているので、こちらは僕の方で分析します」


「倉棚ユリアさんの知名度向上ですが・・・歌い手アイリーを使います」

 えっと訝しい表情を浮かべる生徒たちの中、柏木後輩だけが両手を上げて目を輝かせている。

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