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第三十八章 それぞれの絵図 その三

 「よくやってくれた、降穂君」と上司が降穂の労をねぎらった。


「ありがとうございます・・・で、この後ですが・・・」と降穂は尋ねた。


 降穂が、天の階教会の田中最高導師から、武器調達の依頼があったことを報告したところだった。


「ここからは公安との連携になる。うちには実行部隊はないからね・・・」と上司が言う。降穂は、まあ、そうなるだろうとは思っていた。


「お手柄だ、降穂君・・・これで、バチカンの報告を待たずに、公安は天の階教会を潰しに行けるわけだからね。我々にとってもバチカンに貸しを作ることを防げたわけだから・・・何より日本にとって最高の結果となったわけだ」と上司は降穂の仕事に満足といった様子で目元が緩む。


「まあ君には、引き続き武器調達にあたってもらって、君がその武器を納品したところで公安が乗り込むという手はずになるだろうと思うが、君はどう思う?」と上司。


「わたしもそうなるだろうと思います」と降穂が答える。


「では、任務に戻ってくれ・・・公安との段取りはわたしの方でやっておく」と上司が言うと、降穂は席を立ち、頭を下げて部屋を出た。


 降穂は廊下を歩きながら、調達すべき武器について考える。

「Mini UZIを2丁、25発マガジンを20、それとAT4・・・」と言ったマクガイアの言葉を思い出し、降穂は笑みを浮かべる。


 サブマシンガンにロケットランチャーを中心に見繕うことに決める。




 外務省からもたらされた天の階教会の武器買付の話は、直ぐに国家公安委員会委員長の久世(くぜ)(たくみ)のもとに上がってきた。


「気に入らんな」と報告を聞いて久世が言う。


「はっ」と報告に来た部下が頭を下げる。

 外務省に先を越されるなど、公安として失態以外の何物でもない。


「降穂といったか?できるやつみたいだな・・・」


「はっ」と部下が頭を下げたまま答える。


「まあいい」と久世は言い「すぐに天の階協会への強制捜査の準備に入れ」と部下に指示を出した。


 部下が部屋を出ていくと、久世は受話器をとって宇津奈議員に電話を掛けた。


 スリーコールを待たずに宇津奈議員が電話に出た。


「何かありましたか?」


「ええ、天の階教会の件で、直接、お話したいことがあるのですが・・・」


「わかりました。15分後、わたしの事務室で」と言って電話は切られた。


 久世は直ぐに席を立ち、ハイヤーに乗って衆議院第一議員会館へと向かった。




 衆議院第一議員会館の525号室では宇津奈議員が待っていた。

 いつもなら陳情に訪れた支援者やら、各省の役人の姿があるのだが、今日は見当たらない。


 部屋には宇津奈議員と第一秘書の岡野だけだった。

 宇津奈議員の息子で第三秘書の太郎がいないことに久世は安堵した。


 久世は応接セットに宇津奈議員と向き合って座ると切り出した。


「天の階教会が武器の買付に動いたと外務省から知らせがあり、現在、公安の方で強制捜査の準備に入りました。これからの段取りとしまして・・・」と言う久世を遮って、宇津奈議員が言う。


「外務省から知らせがあった?」


「はい。外務省は中国の諜報機関と天の階協会との接触を疑っておりまして、独自に動いておりました」


「なるほど・・・先を越されたというわけですね」と宇津奈議員が言う。


「そうなります」と久世は素直に認める。


「それで」と宇津奈議員。


「今後の筋書きですが、外務省の職員が身分を偽って天の階協会と接触しており、この者が武器の購入を請け負っております。この者が、武器を天の階教会に運び込んだところを抑える計画です」


「なるほど・・・」と宇津奈議員。


「外務省からの要望ですが・・・」と久世が切り出す。


「外務省からの要望?」と宇津奈議員。


「ええ、外務省からの要望です・・・宇津奈議員のバチカンへの要請をキャンセルしてもらいたいとのことです」


「こっちのメンツを何だと思ってるんだ」と第一秘書の岡野が苦々しげに言う。


「まあ、いいじゃないか岡野。第一目標であるカルト教団を潰すことは達成できる」と宇津奈議員が言う。


「問題は、そう、わたしのケツの拭き方だね」と宇津奈議員が久世に微笑みかける。


 久世は笑わない、そして「もう一つ報告しておかなければならないことがあります」と言った。


「悪い話じゃないでしょうね」と第一秘書の岡野。


 久世は岡野の言葉を無視して話し始める。


「週間リークで天の階教会の記事を連載していた記者が事故で亡くなりました」と久世。そのことは宇津奈議員も知っている。


「天の階教会の人間がやったって話でしょ」と岡野。


「事故現場にあった遺留品は全て引き上げているのですが・・・」と久世。


「なんだね」と宇津奈議員。


「防犯カメラに写った映像を解析した結果、ある人物がSDカードらしきものを持ち去っていることがわかりました」と久世。


「それはいけないね。久世さん」と宇津奈議員は真顔になって言った。


 記者の鳴門が、執拗に自分の身辺を嗅ぎ回っていたことを宇津奈議員は知っていた。天の階教会との関係、バカ息子の悪行などかなり掴んでいるはずなのだ。


「久世さん・・・どんなことをしても取り戻さなければいけない。頼みますよ」と冷たい目で宇津奈議員が言う。


「ええ」と久世が短く返事をする。


「持ち去った人物は分かっているのですか?」と宇津奈議員が尋ねる。


「ええ、バチカン大使館員のアルフォンソ・ロドリゴという男です」


「なっ」と宇津奈議員と岡野が息を呑んだ。

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