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第三十五章 君たちはどう祈るか その三

 Chatolから注意を受けて、大杉リーダーと言われた学生代表がいやいやちょっと待ってと続ける。


「OK、Chatol。こうしよう・・・我々にはキリスト教に関する断片的な知識がある。その知識についてマクガイアさんに正しいか、正しくないか問いかけ、正しい場合は議題として採用される。どうですか?」と大杉リーダーがマクガイアに賛同するよう促す。


「かまいません」とマクガイアが言うと「それでは、お互いに相手の聖典を知らないものとしつつ、相手に確認がとれたことに関しては議題として可とします」とChatol。


 ふーと息を吐く大杉リーダーの顔に安堵の色が浮かぶ。

 何か用意している台本があったのだろう。


 パウロは、聖書の非科学的記述を突いて、シン聖書の優位性を印象付けようとしてくるだろうと予想していた。そして、マクガイアと対応を練って来ていた。


 大杉リーダーが問いかける「あなたがたの聖書には天地創造の話がありますよね。神が7日間で世界を作ったという話が?」


「ありますね」とマクガイアが応える。


「確認がとれた。では、あなたはその荒唐無稽な天地創造を信じているのですか?」


「信じています」


「日本人も信じると思っているのですか?」


「もちろんです」


「ありえない!つまり科学はデタラメだと」


 マクガイアはローマ・カトリックの見解を述べる。

 天地創造の話は神の偉大さと神によって世界が作られたことの象徴的な逸話であり、科学的事実として捉えているわけではない。


 宇宙は神によって創造されたという信仰と、いかに創造されれたかを科学的に探求しようという態度は何ら矛盾しない。


 矛盾しないどころか神の創造された宇宙のあり方を求め、多くのカトリック教徒が科学の進歩に貢献してきた歴史があるとマクガイアは説明した。


 ハルの側から問われることは全てこのようであった。


 聖書では奴隷を認めている、聖書では男尊女卑の記述がある、ローマ・カトリックではLGBTQを認めていない等々、そしてマクガイアがそれについてローマ・カトリックの公式の見解を述べる。


 とても退屈な時間が教室を覆い始める。LIVE視聴者数がみるみるうちに下がる。


 マクガイアの数少ないターンで「あなたがたは幸福をどのように捉えていますか?」という問いかけが場を引き締めた。


 壇上の学生の中で唯一の女性が答える「幸福とは生理的欲求、安全欲求、親和欲求、承認欲求、そして自己実現の欲求が満たされた状態のことです」マズローの5段階欲求そのままであるとパウロは思う。


 そして天の階教会が自己啓発セミナーで信徒を増やしていることに思い至る。


「では、飢えの中にあって人は幸福でありえないと・・・命の危険にさらされている時に人は幸福であり得ないと・・・誰かに愛されない状況では人は幸福であり得ないと・・・人に承認されない限り幸福であり得ないと・・・自分が思う自己を確立できない限り人は幸福であり得ないとあなた方は信じているのですね」


「そうです。幸福でありえるはずがありません。だって、どう見ても不幸な状態じゃないですか」と女子学生が言う。


「わたしはそう考えません・・・我々は慈愛と信仰と希望が揃った状態を幸福と考えます。この3つがあれば、たとえ飢えの中にあっても、命の危機に晒されようとも、誰からも愛されなくとも、人から認められなくとも、こう在りたいと思った自分でなくともキリスト教徒であるわたしは幸福であることができるのです」教室がざわめいた。


 壇上のマクガイアと学生代表とのやり取りを眺めながら、パウロはシン聖書の事を考えていた。


   どこかの大学の現代視覚文化研究会のメンバーが集まって、生成AIを使って新世紀エヴァンゲリオンと聖書と日ユ同祖論を混ぜて、科学とリベラルな思想を以て編集し出来上がったものがシン聖書ということだった。


 内容は、神が暗闇をこねているところから始まる。

 そしてその暗闇をパンやうどんの生地のようにグーッと引き伸ばされた。

 あまりに早く、あまりに大きく引き伸ばされたので、闇はまだらになった。


「ハゼヨ」と言う声があって、暗闇に星星が誕生する。

 人にとっては永遠と思われる時が経ち、星にとっては生まれたばかりと言えるくらいの時が経った時に、雨が降り続ける星が1,346,781,240個あった。


 その雨が降り続ける星星を神は慈しみ、「イデヨ」という声があった。

 その声に応えるように1,346,781,240の星星に幾億千の稲妻が走り、生命の(もと)が生まれる。


 さらに人にとっては永遠と思われる時が経ち、星にとっては生まれたばかりと言えるくらいの時が経った時に、神は自らの霊性を1,346,781,240の星星にお与えになった。


 それは、祝福として、隕石という形で星星に送りつけられる。

 1,346,781,240の星星で同時に大爆発が起こった。


 そして、1,346,781,240分の1の地球では、大爆発で飛び散った神の霊性が結晶し、ホモ・サピエンスが誕生する。


 結晶する具合によってホモ・サピエンスに種族ができた。

 その他の星星でも神の霊性を引き継いだ生命体が生まれる。


 地球では、ホモ・サピエンスの種族のうちの一種族が、他のすべての種族を滅ぼした時、いや最初の種族を滅ぼした時に、地球上唯一のホモ・サピエンスとなった人類は原罪を背負う事となる。


 何故ならば、神の霊性を持つものを討ち滅ぼしたからだ。


 人類はやがて文明を手にし、地球上に都市を築き始める。そして堕落が始まった。都市において、堕落が幾何級数的に加速された。


 他の星星でも同様の事が起こった。


 神は自らの霊性を引き継ぐ者たちの行く末を(ただ)すために律法を天使を通じて星星にお与えになった。


 それは地球時間で紀元前5世紀から紀元後5世紀の間であった。神にしてみれば10世紀は瞬くほどのもの。


 その律法を守るものは誰なのか、神の関心はそこにある。


 神は1,346,781,240の星星を傲慢さの度合いに従い13の等級に分け、最も傲慢が低い1等級を残し、滅ぼされた。103,598,556の星星が残った。


 神は103,598,556の星星を強欲の度合いに従い13の等級に分け、最も強欲が低い1等級を残し、滅ぼされた。7,969,119の星星が残った。


 神は7,969,119の星星を嫉妬の度合いに従って13の等級に分け、最も嫉妬が低い1等級を残し、滅ぼされた。613,009の星星が残った。


 神は613,009の星星を憤怒の度合いに従って13の等級に分け、最も憤怒の低い1等級を残し、滅ぼされた。47,154の星星が残った。


 神は47,154の星星を色欲の度合いに従って13の等級に分け、最も色欲の低い1等級を残し、滅ぼされた。3,627の星星が残った。


 神は3,627の星星を暴食の度合いに従って13の等級に分け、最も暴食の低い1等級を残し、滅ぼされた。279の星星が残った。


 神は279の星星を怠惰の度合いに従って13の等級に分け、最も怠惰の低い1等級を残し、滅ぼされた。21の星星が残った。


 それぞれの星の滅びゆくさまはヨハネの黙示録そのままに描写されている。


 そこで神は休みを取られた。

 神が次にお目覚めになられる時が、最後の審判となる”インパクト”が訪れる。


 神は最後の審判の前に、21の星星に天使を使わされるという。

 そして、その天使の声を聞く預言者が現れる。その声に従えと、マラキ書を引用して終わる。


 ”大いなる恐るべき主の日が来る前に 預言者エリヤをあなたたちに遣わす


 彼は父の心を子に この心を父に向けさせる


 わたしが来て破滅をもって この地を撃つことがないように・・・”

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