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第三十五章 君たちはどう祈るか その一

 東京にある私立大学の900号教室が、マクガイアと天の階教会の下部組織であるハルとの討論の会場である。


 今、パウロとユリア、それにアキラの3人が大学の門を潜り900号教室へと向かっていた。


 マクガイアは主催者側との打ち合わせがあるとかで早めにミカエル荘を出ていた。


 マクガイアが討論会に出ることが決まると、ユリアはマクガイア絡みで知り合ったアキラと京大生の二人にLINEを送った。京大生の二人はそれぞれ用事があるとかで、来れたのはアキラだけだった。


 討論会は3人が考えていたより大掛かりなもので、校門には大きな立て看板があり、ゲバ文字で仰々しく「マクガイア神父登壇!世紀の神学論争!」と書き殴られていた。


「この大学、おしゃれな人多いんですよ」と声を弾ませるユリア。

「賢そうな人はいないよね」とアキラが応じる。


「そんなことないって、偏差値だって高いんだよ」とユリア。

「偏差値?それって、テストの点が平均より高いか低いかの話ですよね。テストって、答えがあって、方法さえ理解すれば答えが得られるわけですよね。賢いってそんなレベルの話じゃないでしょ」とアキラ。


「えっ、それ以外に賢いってある?どゆこと」とユリアが訳が分からず聞き返す。


「えっ、ユリアさん、もうちょっと頭いいと思ってたんですけど・・・」残念そうに言う。


「えっ、ごめん、私馬鹿だよ」とユリアが謝る。


 「本当に賢い人っていうのは、答えが分からないことに対して、正しい問を立て続けることができる人の事を言うんじゃないですか」とぶっきらぼうにアキラが言う。


 それを聞いて「なにそれ、超賢そう!」とユリアが目をキラキラさせる。

 

 ユリアの反応に呆れたように首を振るアキラ。


「ここのようです」と先を歩いていたパウロが二人を振り返る。

 3人の目の前にはひどい人だかりがあった。


 パウロは日本人の中にあって圧倒的である自身の巨体でもって、人混みをかき分けて進んだ。ユリアとアキラはその背にしがみついて進んだ。


 入れろ入れないで揉めている声が聞こえてくる。ハルの内部で揉めているのか、外部と揉めているのかまではわからないが、用意された教室に希望者が入り切らないであろうことは3人にも分かる。


 入口に立つ関係者らしき学生に、パウロは声を掛けた。

 学生はパウロにしばらく待つように言い。どこかへ行った。


 学生は戻ってくると3人を中へと招き入れた。

 900号室の中は、明かりは点けられておらず、西側のカーテンが開け放たれ、窓から入る光が教室を斜めに横切り、薄い陰影をつけていた。光の中で埃が舞っている。


 会場に集まった学生達の話し声や、椅子を引く音、持ち込んでいるPCのキーボードを叩く音などで、ガヤガヤとしている。


 目の前のステージには「シン聖書vs旧聖書 神学大討論会」と書かれた横断幕が掛かっており、始まる前から聴衆を煽っている。


 チラホラと社会人とみえる人間や、老人の姿もあった。

 聴衆は全てハルのメンバーということではないようだ。


 パウロは警戒の度合いを上げた。天の階教会の教団メンバーが紛れているかもしれない。


 3人が揃って座れる席はなく、3人並んで立ち見することにする。 


「すごい熱気じゃん」とユリアが言う。

「不思議と和気あいあいとしてますね」とアキラが答える。


 たしかにアキラの言う通りで、ステージに掲げられた”シン聖書vs旧聖書 神学大討論会”という横断幕が場違いに思えるほど、会場には演者を待つライブハウスのような一体感があった。


 やがて、一団の学生が出てきた。皆、いい身なりをしている。


 左右、正面からスポットライトが当てられた。壇上の学生たちの影が幾重にも壁に落とされる。


 中央のライトブルーのジャケットを着た学生が演壇に置かれたマイクを叩く音が教室内に響いた。


 続けて「えー、テスト、テスト」とマイクチェックのため教室中央に陣取っている音響担当であろう人物に目を向けた。


 その人物が頭の上で丸を作るのを見て、壇上の学生は小さく頷き、話し始めた。


「えー本日はハル関東私学インターカレッジが主催する討論会にお集まりいただきありがとうございます」落ち着いた良い声だ。背も高い。


「イケメン、イケメン」とユリアがアキラの肩を叩く。

「あ〜、ユリアさん、ああいうのが好みですか。なぁ〜んか残念ですよ」

「あれ、アキラちゃん、妬いちゃった?んっんっ」と肘でアキラを突くと、アキラは面倒くさそうに顔を背ける。


「えー、我々が想定してたより、はるかに多くの方々がお越しになっており、立ち見どころか会場の外にも人が溢れている状況です。国公立インカレの皆さんには、案内状を出していないにもかかわらず、ご来場いただきありがとうございます」この嫌味に聴衆から歓声が上がる。


 その嫌味を跳ね返すように壇上に向かって手を振る一団が前列右側にあった。多分、彼らが国公立インカレのメンバーなのだろう。


「このような状況に対応するため、今回の討論会の模様は録画して、ハルのチャンネルを通して明日から配信予定でしたが、急遽、LIVE配信することになりました」と壇上の学生が告げると大きな歓声が上がった。


「本討論会は、壇上の人間だけでなく、聴衆としてお集まりいただいた皆様からの発言も大歓迎ではありますが、LIVEです。編集できませんので発言には重々ご注意いただきますようお願いします」


 と言った途端に「ファックユー」と言う声が上がり、会場に笑いが起こった。

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