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第三十三章 太陽歯車

 マクガイアと鈴が帰ってきた。予定より3日も遅れて。


 しかも帰ってきたのは早朝だった。マクガイアの目の下には濃い(くま)が浮かんでいる。


 鈴が嬉しそうにシスター杉山に土産袋を渡す。


「わ〜鈴ちゃんお土産買って来てくれたのね。ありがとう」と言ってシスター杉山は鈴を抱きしめてから中身を確認した。ユリアとマミが覗き込む。


「あら、赤福?鈴ちゃんお伊勢さんに行ってきたの?」と言うシスター杉山に、鈴が元気よく頷いた。


マミがシスター杉山から赤福を受け取って台所へ向かう。

ユリアが鈴の手を取ってマミの後を追った。


「マクガイア神父、君は伊勢神宮に行ったのか?」とアントン・モーヴェ教区長が尋ねる。


「はい、鈴がどうしてもと言うもんですから・・・」とマクガイアが答えるのをパウロが胡散臭そうに見ている。


「長崎に行くとは聞いていたが・・・」とアントン・モーヴェ教区長はまあいいと言って食堂の椅子に腰掛けた。


 朝から皆で赤福を食べた。

 日本在任歴が長いアントン・モーヴェ教区長とパウロにとって、初めての赤福だった。


 イエズス会に神道の聖地の土産物を持ってくるモノ好きはいないのだ。


 「おいし〜」とユリアが声を上げる。ユリアも赤福は初めてだった。


 赤福を食べた後のお茶が、いつもより美味しいと皆で言い合った。


 鈴はお絵かき帳を取り出して、女性三人に旅の思い出を伝えている。


 一息ついてアントン・モーヴェ教区長が「マクガイア神父」と声をかけてきた。


「すでにバチカンのアルフォンソ神父が来られて、話は聞いているが、君からも報告を聞いておきたい。パウロ神父もいいかな?私の部屋で話を聞こう」と場を移した。


「バチカン特使は宇津奈議員の要請を前向きに検討することとなりました」とマクガイアは結論から言った。


「もっとも、正式の外交ルートを通していないことに対して、特使から疑義が上がりました。宇津奈議員の重みを測る狙いもあって、時間を取ったようです」とマクガイアは報告する。


 一通り報告を聞いて、アントン・モーヴェ教区長が頷いた。


「バチカンは今回の要請を受けるだろうと予想するが、君はどう思う?」とアントン・モーヴェ教区長がパウロに尋ねる。


「わたしも同意見です」とパウロ。


 うんうんとアントン・モーヴェ教区長は頷いて、バチカンの方は見守るとしてと言って席を立ち、机の引き出しから封書を取り出して戻ってきた。


「君はハルという学生の団体を知っているか?」とアントン・モーヴェ教区長がマクガイアに尋ねる。


「いえ、知りません」とマクガイア。


「ハルは大学のイベントサークルで、全国的にネットワークを持つ団体なんだが、裏で天の階教会が関与しているようなんだ」とアントン・モーヴェ教区長がハルについて説明する。


「それで」とマクガイアは、アントン・モーヴェ教区長がハルという学生団体の話を、マクガイアにする意図がわからずに尋ねた。


「そのハルから君宛に封書が届いた。送り主が不穏だったので、悪いが先に読ませてもらった。内容は君に討論会に参加して欲しいというものだ」とアントン・モーヴェ教区長が言って封書をマクガイアに手渡した。


 マクガイアは問題ないと頷いて封書を受け取って中を確認する。


「なぜマクガイアなのですか」とパウロがアントン・モーヴェ教区長に尋ねる。パウロも初耳だったのだろう。


「わたしはインターネットに疎いのでよくわからんのだが、マクガイア神父はインターネット上で有名なようだ。そこで、教義論争をしたいとのことだ」


 マクガイアは依頼文に目を通し終えると、それをパウロに回した。


「受けましょう」と言ったマクガイアの目をアントン・モーヴェ教区長が見つめる。


「わたしは前にも言ったように、天の階教会と同じ土俵に上がるようなことは避けるべきだと考えている。我々が得るものより、彼らが得るものが大きいからだ」とアントン・モーヴェ教区長。


「受けるなとおっしゃるのですか?」とマクガイア。


「わたしは悩んでいるのだよ。マクガイア神父。天の階教会本体を相手にするなら反対だ。しかし、今回相手となるのは学生団体ハルだ。若さゆえに迷える子羊に、道を示すことができるなら我々にも得るものがあるのではと思うのだが・・・」


「同感です。モーヴェ教区長。やらせて下さい」


「よし、パウロ神父。マクガイア神父と準備を進めてもらえるか」


「わかりました」と二人が答える。


目の下に濃い隈を残したマクガイアが「モーヴェ教区長は伊勢神宮に行ったことはありますか?」と尋ねた。


「いや、ない。なぜ?」とアントン・モーヴェ教区長が問い返す。


「伊勢神宮に行って・・・多神教への見方が変わりました」とマクガイア。


「祈りを捧げる場には小屋があるだけで、偶像はありませんでした。祈る人々は神の名を唱えるものもありませんでした・・・伊勢神宮をお参りすることを日本人はお蔭参りと言うらしいです・・・」


「それで?」とアントン・モーヴェ教区長。


「いえ・・・なんでもありません・・・」とマクガイア。


 過去、マクガイアに汎神論的傾向があったことを知るアントン・モーヴェ教区長とパウロの眉が曇る。

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