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第三十二章 遊星歯車 その三

 仁にマクガイアとの出会いを尋ねられたユリアは、相楽(さがら)さんの話は端折ってマクガイアとのシンガポール空港での出会いを語った。


 パンの奇跡は鉄板だった。皆に受けた。

 マミなどは二回目なのに大笑いしている。


「仁君と紫紋(しもん)先輩は、マクガイア神父どう思う?」と笑い終えたマミが聞く。

「おもろい」「好きですね」と二人が答える。


「マクガイア、今、くしゃみしてるよ、きっと」とユリア。


「僕は、初めて出会った時、マクガイア神父より鈴ちゃんに目が行きましたね。修道服を着た少女ですからね。びっくりしました」と仁。


「わたし達が作りましたぁ〜」とユリア。


「えっ、そうなの。鈴ちゃんにピッタリ。お二人共グッジョブです!」と仁が言うとユリアとマミはテーブル越しにハイタッチした。


「その鈴ちゃんが、マクガイア神父の手を握っていて。それが、とても自然で本当の親子のように見えました」と仁が続ける。


「鈴ちゃん、めっちゃ可愛いですよね」と仁が言うと「なんで話されへんのですか?」と紫紋先輩が割って入る。


 皆の視線がマミへと集まる。マミは少し迷っていたが、暫くして意を決したように大きく呼吸して言った。


「鈴ちゃん、幼い頃に虐待されいて、それで・・・」


「クソみたいな話やな・・・」と紫紋先輩が怒りを顕にして吐き捨てる。


 その紫紋先輩の様子にユリアは少し驚いた。ヘラヘラしてるだけと思っていたのだが、違うようだ。


 紫紋先輩の怒りに対して「ホントに」とマミが相槌を打つ。


「それでも、ここに預けられてから、急速に回復しています。肉体的にも、精神的にも、知能的にもです」とマミが力強く言う。


「そうですね。一緒に過ごしてる間、言葉がしゃべれない以外、鈴ちゃんは同い年くらいの幼稚園の子たちと変わらない感じでしたよ」と仁が万博の科学の二柱像で遊んだ時を思い出しながら言う。


「小学校二年生、鈴ちゃんは8歳なんです」とマミが悲しみとも悔しみとも取れる表情で言う。え〜っと声を漏らす仁。


「発見される3歳までまともな食事も与えられなかったんです・・・成長に必要な栄養が足りなくて体がちっちゃくて、発見されたときは・・・ペット用の檻の中で、餓死寸前だったっと聞いています」


「許せんな」と紫紋先輩が低い声で唸るように言う。


「鈴ちゃんの親は罰せられてるんですよね。死刑でもいいですよね!?」とユリアは声を荒げる。


「死刑にはならんな。懲役10年位が妥当やろな」と紫紋先輩、「そのくらいでしょうね」と仁が首を横に振りながら言う。


「10年・・・軽すぎるよ」とユリアは納得がいかない。

「で、親はどうなってるんですか?」と仁が尋ねる。


「発見された時、殺されてたんです。強盗殺人・・・鈴ちゃんのご両親は生活保護を受けていたんですが、福祉事務所の人が訪問した時に異変に気付いて警察に通報したそうです。死後3日経っていたそうです・・・」とマミが説明を終えると、皆に沈黙が広がった。


「なんちゅうこっちゃ・・・」と暫くして紫紋先輩が呟く。

「鈴ちゃんは・・鈴ちゃんは・・・」とユリアは、鈴ちゃんは絶対、幸せにならなければいけないと言おうとして言葉が続かない。


「絶対、幸せになって欲しいですね」と仁が言う。

 ユリアが仁の肩に手を置いて何度も頷く。ユリアに触れられて仁は少し緊張した。


「なんか暗い話ですね」とアキラが言う。


「暗い話しぃぃ」と紫紋先輩はアキラを睨んで「それだけか?アキラちゃん」と言った。


 アキラは紫紋先輩がなにを問いかけているのか分からず、肩を(すく)める。


「アキラちゃん、なかなかのサイコパスやな」と紫紋先輩が脱力して言う。

「アキラちゃんは、鈴ちゃんのこと知らないから・・・」とユリアがフォローするように言う。


「大丈夫!鈴ちゃんは大丈夫ですよ」とマミが言い、鈴を知る3人が頷いた。


 話題を変える時だとその場の誰もが思った。


「アキラくん、さっき生活費ぐらい稼いでるって言ってたけど、何して稼いでるの?」と仁がアキラに話を振った。


「プログラミングとか、サイト管理とかを請け負ってます」とアキラが言う。


「なに、なに、かっこいいじゃん!」とユリアが肘でアキラを(つつ)く。


「ちびっこハッカーやな」と紫紋先輩が言い、皆が笑う。


「なんすかそれ」とアキラ。


「でもね、アキラちゃん。わたしは学校には行ったほうがいいと思うの」とマミが大人(おとな)らしいことを言う。


「みなさんは、どう思います?」とアキラはマミを除く3人に問いかける。


 授業をサボって東京に来ている仁と紫紋先輩、保健室登校を余儀なくされているユリアの3人は複雑な顔をしてうーんと答えに窮した。


 それを見て「あちゃ〜」とおでこに手をあてて嘆くマミ。


 その後も、あれやこれやと語り合い生八ツ橋がなくなる頃に3人は帰っていった。

 丁度、ブリ大根が出来上がり、マミとユリアは副菜の準備に取り掛かった。


 台所でマミが「あれ?」と呟いた。

「どうしたんですか?マミさん」とユリアが声をかける。


「アキラちゃんだけど・・・どうしてミカエル荘を知ってたのかしら?」とユリアを見た。


「ほら、仁君は大藪さんの弟だから知っててもおかしくないけど・・・」とマミ。


「マクガイアから聞いたんじゃないですか?」とユリアがなんでもないことのように言う。


「そうぉ・・・」とマミは腑に落ちない表情で調理に戻った。

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