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終末まで残りX日  作者: 桐ノ奏
第二章
17/17

15.実技試験


 魔塔の魔術師は、約束を破らなければならないみたいな規則があるんだろうか。


 魔術試験の前日、昼過ぎ。

 試験の日程を確認していたアイゼルは、頭を抱えていた。


 目の前には、先ほど読んだばかりの手紙。内容は、急用が入ったので別の人を試験官として送る、というもの。

 どうやらあと数時間で到着するらしい。前回の特別試験官よりは常識的な時間だ。


 日が沈みかける頃。


「害魔対策部 魔物課所属、グレン・エンマという。宜しく頼む」


 やってきたのは、黒髪の背の高い女性だった。あの魔課の所属というのだから、相当腕の立つ魔術師なのだろう。


「宜しくお願いします。僕は魔術試験担当のヴィクトール・アイゼルです」


「アイゼル殿、確認したいのだが、実技試験はどのように行っている?」


「え? えぇと、一人ずつ課題を与えて、その出来栄えを評価しますが」


 ふむ、とグレンは顎に手を当てる。

 なんだか、嫌な予感がした。


「ダメだな、それでは“実技”と呼べない。試験内容は、私に任せてもらえないだろうか」


 魔塔の魔術師は、基本的に魔術学校の教師より立場が上だ。胃が痛んだが、アイゼルは断るわけにいかなかった。

 顔が引き攣りそうになるのを気合で堪えながら、アイゼルは営業スマイルを浮かべる。


「えぇ、ではその通りに……宜しく、お願いします」


 数人の教師たちが、アイゼルに気遣わしげな視線を向けた。



◇◆◇



 筆記試験の翌日。

 クレニアら生徒は、何故か試験教室ではなく、武闘大会が行われた会場に集められた。


「今年から内容変わるのかな?」


「さぁ……事前に連絡なかったよね」


 不安げな囁き声が、あちこちから聞こえる。


「あー、聞こえるかい、諸君」


 魔術で拡声されたアイゼルの声が響く。生徒は一斉に前を向き、そして現れた人影に騒めき立った。


「今年の実技試験だが、例年と変わり、対人戦を行うことにした」


 対人戦。

 しかも、彼女は。

 クレニアは瞠目する。


 グレン・エンマ。

 魔課のトップであるソルテ、その補佐官。きっと相当な実力者だ。武器を振るう様子は見たことがないが、歩き方や姿勢、その立ち振る舞いに、グレンの強さが現れている。


「それじゃあ、詳しい内容は彼女から」


 アイゼルからバトンタッチしたグレンが、口を開く。


「魔塔の害魔対策部 魔物課所属、グレン・エンマだ。君たちの実技試験を担当する。今から行う試験だが、君たちは学年ごとに分かれたあと、五人程度のグループになってもらう」


 もしかして、多対一のつもりだろうか。しかし、魔課の魔術師ともなれば、半人前の魔術師なんて片手間で伸せるんじゃないだろうか。

 続く言葉は、そんなクレニアの疑念を払うものだった。


「対人戦とは言ったが、私は今回、攻撃魔術を用いない」


 周囲がどよめく。かくいうクレニアもその一人だ。


「試験内容は、私の防御結界を破ること。固有魔法も使用が可能だ。存分に、君たちの力を発揮してくれ」


 多分、純粋な障壁ではないだろうな、とクレニアは考える。

 わざわざ試験にするくらいだ、何か種があるだろう。

 基本的に魔力で構築した障壁は、一定以上の魔力を帯びた攻撃を加えれば壊せる。術式に干渉するという手もあるが、干渉する側が障壁を構築した魔術師より魔力が多くないといけない。


 最初は一年生のようだ。

 二、三年生は客席へ移動する。


 結論から言うと、グレンの障壁を壊せたのは一人だけだった。

 コーネリア・レオン。カサンドラの姪だ。

 どうやら、コーネリアの魔力量は相当なものらしい。恐らく、魔力干渉で競り勝ったのだ。


 次は二年生。

 近場にいた人たちと固まると、クレニアは後ろから肩を叩かれた。


「クレニアちゃん!」


「サラ、宜しくね」


 サラと話していると、人影が近寄ってくる。


「グレイシス」


「ネ……アスティーズくん」


「同じチームか。宜しくな」


 ネオは少しだけ口角を上げて微笑む。クレニアは頷きを返した。他のメンバーとも、お互いの得意魔術を教え合い、粗方の戦術を決める。

 他のグループがグレンに挑んでいるのを観察しながら、考察する。


「どう思う」


「そうだね……多分、干渉は厳しそうだ」


「あぁ。障壁の魔力密度が半端じゃない」


「私じゃ押し負けるな。攻撃魔術を一気に叩き込めばいけると思う」


 ネオは顎に手を当てて、低くうなる。


「俺の固有魔法は厳しいかもな。持続時間は長いが、一発一発の魔力が弱い」


 パリン、と乾いた音が響いた。

 見れば、グレンの障壁が割れている。破ったのは誰だ。クレニアは目を凝らす。


 エルファだ。

 黄金の瞳が、クレニアを捉える。挑戦的なその視線に、クレニアは思わず固有魔法を発動させていた。臨戦態勢をとったクレニアをネオが訝しげに見つめる。


「グレイシス?」


「……何でもない。次、私たちだ。行こう」


「あぁ」


 グレンの目の前に立つと、彼女は獲物を見定めるように一対の紅玉を眇めた。


「制限時間は十分。その間に、私の障壁を壊してみせなさい」


 異国の言葉が紡がれる。グレンが手を翳すと、立方体の障壁が彼女を包んだ。


「では……始めッ!」


 サラが宙に両手を広げる。

 彼女が首を横に振るのを見て、ネオが前に出た。


 まず先鋒として、ネオが“火雨イグニスウィア”を放つ。一点に向かって矢を集中させるが、障壁にはヒビ一つ入らなかった。

 だが、黒いシミができた。それを見て、グレンは片眉を上げる。


 続けて、“風弾ヴェンドギス”や“水槍アクアドリス”など、圧縮型の攻撃魔術を放つ。


 あの子は動かないのだろうか。

 一歩引いたところで佇んでいるサラを見て、グレンは考える。

 もしかすると、彼女は。

 ある考えが浮かぶ。そうだとしたら、彼女はかなり“素質”があるだろう。


「サラ!」


 固有魔法の氷剣で障壁に斬りかかるクレニアが、後方のサラへ呼びかける。


「……おっけー、完了!」


 その言葉に、ネオがつけた黒点へ攻撃を加え続けたクレニアたちが後退する。障壁には薄くヒビが入っている。

 サラは滝のような汗もそのままに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、叫んだ。


「“解体レリゲーレ”!」


 その言葉を合図に、障壁に入ったヒビが全体に広がる。そして、グレンの障壁は粉々に砕けた。


「……なるほど、見事だ」


 サラ・イシュアの固有魔法“解体レリゲーレ”。

 仕組みとしては、魔力干渉に近いものだ。

 対象の魔術の構成を解析し、一部を書き換えて全体を崩壊させる。


「私の固有魔法でも、全部を崩すのは難しかった。みんなの魔術でちょっとずつ魔力干渉を起こして、やっと小指くらいの綻びができた」


 サラは目を輝かせて、グレンを見つめる。


「あぁ、なんて緻密な魔術なんだろう!」


 恋焦がれる少女のように目を潤ませるサラに、グレンは若干後退りしたい衝動に駆られたが、まぁ魔法研究部の奴らも似たようなものか、と思い留まった。


 そして二年生の試験が終わり、三年生の試験がいよいよ始まる。


 最初のグループにはナージャがいた。

 流石三年生という感じで、使われる魔術の難度も高い。


「いっくよー!」


 ナージャの声が高らかに響く。


「“宿木イクソス・アンシ”!」


 ナージャの指先から、複数の種がグレンの障壁に向かって飛ぶ。付着した瞬間、種が発芽して、障壁を覆うように根や枝が伸び始めた。


 障壁を這う枝葉に向かって、他の生徒たちが魔術を飛ばす。火属性の魔術が付着した瞬間、炎が枝を伝って舐めるように障壁を燃やしていった。


 遠目でも分かる。

 あれは障壁の魔力を「食べた」。アディリアの固有魔法と通じるものがありそうだ。


 ラマゼルは、そのいくつか後のグループにいた。


 彼はなんと水と風の混合魔術を編み出しており、魔力量もあってか一度の攻撃で障壁を割っていた。やはり、凄まじい才能だ。同じグループの生徒たちに問い詰められ、たじろいでいるのが少し面白かった。


 そして全てのグループが終わった。


「結果は後ほど通知する。試験は以上だ! お疲れ様、ゆっくり休むといい」


 アイゼルの声に、生徒たちの緊張が一気にほぐれていく。


 クレニアも伸びをしていると、後ろからスーリエの声がした。


「あ、クレニアいた。後で食堂行こ」


「うん」


 そこへ、更に声がかかる。


「グレイシス、デーニッツ。俺も同席していいか? 今日の感想を聞きたい」


「あれ、アスティーズ君。いいよ、クレニアもいいよね?」


 スーリエは満面の笑みを浮かべていた。


 クレニアは頷くしかなかった。




◇◆◇




「どうだ、目ぼしい奴はいたか」


 黄昏時。

 影が落ちる執務室にて、ソルテが戻ってきたグレンに問いかける。


「えぇ、二、三人ほど。特に、三年生のラマゼル・シェーベール。彼の魔力量は、恐らく塔主様にも匹敵するでしょう」


 グレンの答えに、ソルテは満足そうに笑む。彼女自身は気づいていないようだが、グレンの口角が微かに上がっている。


 それなりに、楽しかったのだろう。


「……そうだ、俺の弟はどうだった」


「えぇと、ネオ……様、は」


「俺の身内まで様付けはしなくていい。それで?」


 グレンは少し視線を落とす。


「そうですね……彼は今日、主役ではありませんでした。しかし先陣を切る度胸、“火雨イグニスウィア”を一点に集中させる魔力操作は素晴らしいものです」


「そうか」


 弟を褒められてご満悦のソルテが、ニコニコと微笑む。滅多に見ない上司の純粋な笑顔に、グレンは思わず心臓を押さえた。



少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけたら評価等々してくださると嬉しいです。

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Xの方から伺わせていただきました! 一通り読ませていただきました! 作風として、内容自体はネット小説やライトノベル的ではあるものの、第二章の中盤から徐々に物語を盛り上げてゆく気配があり、それまでは設…
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