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終末まで残りX日  作者: 桐ノ奏
Prologue
1/15

最初の最期


 「魔術大国」たるリディオン国の東側、ツェンブルク領でクレニア・グレイシスは生まれ育った。優しい両親に可愛い妹のアディリア、家族関係はもちろん良好だ。


「姉さん、見て! 私もグロースフィアから招待状届いたよ!」


 アディリアは体が弱かったが、その代わり魔力の量が常人離れしていた。齢8歳にして自身の固有魔法を生み出した彼女には、定例通り14歳の誕生日に、グロースフィア魔術学校から入学許可証が送られた。クレニアの母校でもある。


「姉さんと同じ学校に通えるなんて嬉しい」


 そう言ってはにかむアディリアは、贔屓目なしにしても愛らしく、思わず抱き締めてしまった。

 既に卒業試験も終え、首席としてグロースフィアを卒業したクレニアには、教師や研究員として学校に残らないかという誘いや、魔塔からのお声掛けも来ていたが、すべて断った。今はフリーランスの魔術師として、魔物討伐や遺跡探索などの依頼を受けながら各地を放浪している。


「聞いたぞ、また遺跡の秘宝を見つけたって? さすがだな」


 グロースフィア次席卒業生のネオ・アスティーズは、暇なのか度々現れてはいつの間にか消えている。だが、今回の彼は普段と少し違った。


「気をつけた方がいい。最近魔物の活動範囲が広がっているし、凶暴性も増している。特に瘴気が濃いコルディス領じゃあ、住民の強制退去があったって話だ」


 ネオは真剣な面持ちで告げる。


「どうもきな臭い。クレニア、君が強いのは知っているが、気をつけるに越したことはない。俺の勘がよく当たるのは知ってるだろ?」


「あぁ、分かった。君もね」


 あの時ネオと別れてから、次に彼と会ったのは戦場だった。



◇◆◇



「どういうことだ!! 何でこんなに魔物が湧いてる!?」


 街に怒号や悲鳴が飛び交う。今まで人里離れた森林や遺跡にしか現れなかった魔物は、突如統率をもって街に雪崩れ込んだ。

 まさに混沌と言う他ない。その牙は人々の喉を噛みちぎり、鋭利な爪は人を物言わぬ肉塊へと変える。他国への援助要請はもちろん、クレニアら魔術師にも魔塔から協力命令が出た。返り血を被って所々赤黒くなったネオが、クレニアの背中を貫かんとしていた魔物を斬り捨てる。


「クレニア! 奴らはコルディスの方から湧いてきてる。俺たちなら行ける、根本を叩くぞ」


「了解!」


 襲いかかる魔物の群れを屠りながら、彼らはコルディス領へ辿り着いた。

 そこは、かつての面影は既になく、見るも無惨な瓦礫と死体で埋め尽くされていた。


「……ひどいな」


 鼻を覆ったネオが絞り出すように呟いた。


「早く、行こう」


 私たちに出来るのは、この戦いを収めることのみ。より瘴気の濃い方へ歩みを進める。

 グロースフィアと共同で開発した、一時的に瘴気を中和する装置を以てしても尚、息苦しいほどの邪悪な空気。

 瘴気はクレニアらを森の奥へと導いた。魔物の姿はない……否。魔物たちは棘のある蔓に絡め取られ、既に息をしていないだけだった。


「何なんだ、これは……」


 魔物はまるで生気を奪われたかのように乾涸びている。虚ろに開かれた牙の覗く口は、まるで断末魔をあげたかのようだった。

 突如開けた視界。直前まで漂っていた死の気配はどこにもなく、ただ穏やかな光が降り注いでいる。

 だからこそ、彼らは喉元まで迫った死神の鎌をより一層、はっきりと感じた。隣でネオが浅く息を吸う。


「久しぶり、---」


 “それ”は聖女のような笑みで、友人に語りかけるように、極限まで緊張した彼らを宥めるように言った。恐ろしいまでに、一切の戦意がなかった。


「そして……さようなら、---」


 “彼女”は無数の魔法陣を背負い、その剣の鋒で、クレニアの首を撫でた。


「クレニア!!」


 ネオの絶叫が聞こえた。


 喉が、喉が熱い。

 裂かれた頸動脈から、弧を描いて鮮血が舞う。


 致死量の血だ、もう何も間に合わない。


 スローモーションで世界が傾く。否、私が倒れていく。


 “彼女”はクレニアの生に終止符を打たんと、指揮者の如くその剣を掲げた。



 夥しい数の魔法陣を背負った“彼女”は、畏れを抱くほどに美しかった。




「またね、---」




 剣光が閃いた。





 そうして、クレニア・グレイシスは死んだ。



 少しでも続きが気になる、面白い、と思っていただけたら評価等々して下さると幸いです。何卒。

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