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坂の上のりんご  作者: さくら れいな
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やっと・・・

 頭のなかで、いろいろ考えているうちに昼休みになっていた。

「玲奈、他の先生と相談したんだが、本人の意思をきちんと考えたうえでだが、クラス全員とこの件を話し合う方が良いのではないかという結論なんだが、お前が話したくなければ、このままにしておくけど、どうする?」

 大嫌いな担任だったが、初めてこの先生がきちんと問題として向き合ってくれた唯一の大人だった。

 じーんと鼻の奥が痺れるほど熱い涙が零れた。

「大丈夫か?辛いならやめておこう?」

「いや、そうじゃないんだよ。この12年間、大人は見て見ぬふりで、今まで真剣に問題視してくれなくて、初めていじめに正面から一緒にぶつかってくれる大人がいたことが嬉しくてさ。

ありがとう、私から皆に話すよ。犯人捜ししてやろうと思ったけど、、誰が犯人でも悲しい結末になるから諦めた。」

「お前は強いな。」

「え?」

「じゃ、次の授業は俺の授業だから、その時間に皆と話そう。教室戻れるか?」

「うん。」


 教室に戻ると、今朝のことは皆忘れたようにいつもと同じ日常があった。

(朝あんなことがあったのに、誰も気にしないんだ・・・)

自分の席に戻ると、

「お~い、皆聞いてくれ。今日なクラスでいじめがあったんだが・・・」

担任が何度も皆に、そう声をかける。

 だが、一向に静かにならず、皆の話声や笑い声にかき消されてしまう。

(やっぱり、猿は猿だな)

 だんだん腹が立ち、皆のキンキン声に苛立ち、

「先生、もういいよ!!これでよく分かった!!

てめぇらは全員やっぱりクソだってことがな!」

最後には怒鳴っていた。

 所詮、他人事。

 自分に害がなければ、周りがどんなに辛くて苦しんでいても、手を差し伸べようともしない。

 自分に火の粉がかからなければ、払うことさえしない。

 今朝のこともクラス全員が見ていたはずなのに、誰も何もしない。

 私は何を期待して、皆に話そうとしていたのだろうか。

 この期に及んで、皆に期待していた私が一番猿なのかも知れない。

「もういいよ。私帰るわ。」

「いや、待て。きちんと話そう。」

やっとみんなが鎮まり、もう一度担任が話し出した。

「今朝な、クラスでいじめがあったんだ。

玲奈な、このクラスに犯人はいないって信じてたんだ。

頼むから、皆話を聞いてほしい。

玲奈、話せるか?」

 どう話せばいいのか、何も考えがまとまらない。

「何から話せばいいのか・・・

みんな今朝、私の机を見て知ってると思うんだけど。

誰がやったとかではなくて、私は皆が大好きなんだよね。明るくて元気なみんなが本当は大好き。

ただ人見知りで、なかなか打ち解けられなくて、でもみんなとは仲良くなりたいの。ただ、やり方が分からないんだ。

幼稚園みたいに、みんな仲良くしましょうもへんでしょ?」

皆がクスッと笑った。

「実は昔から話し方がキツイとか、近づくと怒られそうとかずっと言われて、12年間いじめられてきた。そんな自分を守るためにそんなオーラ出してしまってた。

でも、自分じゃ分からなくなっちゃって・・・家族以外の人とまともに話すことなんかないから、自分では普通に皆と同じように話してるつもりなんだけど、やっぱりキツイって言われちゃう。

治したくても分からないんだ。」

 ゆっくり時間をかけて自分の想いを伝えた。

「よく頑張ったな。みんなも腹割って話せよ。」

 一人が手を挙げた。

「私、玲奈好きよ。ただ怖かったのはあるかな。でも、今話聞いて玲奈のこと理解できた。」

「私も好きよ。でもやっぱり怖かったよねぇ、笑わないし、どう話しかけていいのか分かんなかったよ。」

「いじめられてるのは知ってたけど、どうしてあげたらいいのか分からなくて放置してごめんね。」

 皆の声が、心の中にある真っ黒く固いものを、少しづつ溶かしてくれた。

「みんな、ありがとう。」


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