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坂の上のりんご  作者: さくら れいな
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透明人間

 少しずつ、子供らしい無邪気で透明な笑顔はなくなり、学校では全く笑わなくなったが代わりに人を睨む鋭い目付きと黙っているだけで怖いと思わせる表情を作ることが出来るようになった。


 この頃から本の世界に没頭するようになった。

 推理小説が大好きで、誰が犯人なのか想像する事で周りの音は全て消え去り透明人間になれた。

 来る日も来る日も本の虫となった。


 そんなある日の出来事

 通学していた学校は担任教師と一緒に、周りの子達と田の字に席をつけてご飯を食べる習慣があった。

 心の中では期待してはいないが、案の定、誰も席を付けることさえしてくれず、ぼっち給食だった。

 担任も1人でご飯を食べる姿を見ているにもかかわらず、見て見ぬふり。

 廊下で誰かとすれ違う時に

「玲奈がきたー!鼻つまめ!」

「おえー!くせー!」

 担任や他の教師がいるにもかかわらず、そんな事をしてくる。

 だが、教師達は聞こえているはずなのに、見て見ぬふり。怒る事さえしない。

 この頃から人間が、大人も子供も大嫌いになった。

 嘘に塗れ、保身のためにしか動かない、薄汚れた大人。

 猿のようにキーキーうるさい馬鹿なクソガキ。

 そんな奴らが集まる学校とは、私にとって動物園でしかなかった。


 小学2年に上がっても、私の立場はいじめられっ子のまま・・・

 いつもの帰宅路を小さな背中を丸め、うつむき歩いていると、公園から子犬の鳴く声が聞こえ、声を頼りに探して歩く。

 20分ほど草むらを探していると、段ボールに入れられた可愛い子犬が寂しそうな目で何かを訴えかけていた。

「あなたも一人なのね・・・一緒に帰ろうか」

 そう声をかけ、一緒に自宅に連れて帰り、両親に

「飼いたいな」とお願いしたが、「ダメダメ!世話できないでしょ」

と言われ、

「ちゃんとお世話するから!!」

と何度も頼み込みやっとお許しが出た。

 一人っ子の私にとって兄弟であり、友達ができたような気持になったのを覚えている。


 拾った子犬なので、病院にも連れて行った。

 そこで先生に

「この子はなんていう種類なの?」

「んー、雑種だけど、ゴールデンレトリバーと柴犬が入ってるね」

「ゴールデン?柴犬?」

「そう、これとこれだね」

 壁に貼ってある色んな犬の写真を指差し教えてくれた。

 写真と見比べると、確かに顔はゴールデンレトリバー、体は柴犬。

 なんともマヌケだが、よく見るとそのマヌケ顔もかわいらしい。

「ふーん、男の子?」

「いや、女の子だよ」

「女の子かぁ」

「大事に飼ってあげてね」

 そう先生と約束した。


 家に帰り、まだ名前を決めかねていたので、女の子なのもわかったので、

どんな名前にしようか考え、柴犬とゴールデンレトリバーの血筋からなのか、体毛はふわふわだったので、その毛並みから「ムク」と名付け、約10年、私にとってかけがえない存在でいてくれた。

 近所のムクを拾った公園に散歩に行き、追いかけっこやかくれんぼをして毎日遊んだ。

 ムクは本当に利口で、追いかけっこをして私が転ぶと「ごめんね」と言わんばかりに、駆け寄り顔中を舐めまわしてくれたり、両親に怒られていると間に入り「やめろ!」と怒ってくれる、そんな優しくも頼もしい子だった。

 ムクがいてくれたから、どんなにいじめられようと寂しくもなく、辛い毎日も乗り越えられた。

 私の良き相談相手であったのは言うまでもない。




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