すみません。私女神様じゃないんですけど・・・
え?自己紹介ですか?
貴族様のお屋敷でメイドしてますアリサです。
このお屋敷がメイドで来た最初の場所なので色々知らないことばかりです。
つつがなーく暮らしていければいいなぁと思ってます。
え?趣味ですか?読書です。ジャンルは秘密です。
ーコンコンー
「旦那さまー、おきてらっしゃいますか~」
・・・反応がありません。
「あけますよ?」
ーガチャー
朝、旦那様に朝食の準備ができたことを伝えるためにドアを開けると、まだ旦那様は夢の世界を旅していらっしゃいました。
部屋に入った段階で起きてないなんて珍しい。
結構気配とか足音だけでどのメイドか判るくらい敏感な方なのに……
遅番メイドの申し送りでは『遅くまで何か難しいことをしていたみたい』と聞いていたのですけれど…
「旦那様、旦那様」
「んー」
ベッド際で声をかけてみますが、起きてくれません。普段寝起きの良い旦那様にしてはホントに珍しいです。
『しょうがないなぁ』
とベッドの上に身を乗り出して旦那様の肩を直接ゆすって起こそうと旦那様に触ったとき、抱きしめられ、そのままベッドに引きずり込まれて重心が崩れてしまいました。
あわてて、旦那様を挟んでの向こう側に手をついたあとに、身動きが取れなくて一瞬フリーズ。
『え?ちょっ』
も、もしかして狙われてた?
「だ、だめです。だ、だんあさま」
「・・・」
「も、もしもし…、旦那さま?」
―すぅすぅ―
こ、これは…寝ぼけてる旦那様に捕まっただけ?
一瞬『ああっ、そんな…』なシチュエーションを想像した私って…
やっぱり『その手の本はほどほどにしよう…』(でも面白いのよねー)と考えながら脱出を試みます。
んー、上半身をきつく抱きしめられて、ちょっと動きが取れない。
旦那様の顔が私の胸にあたっているのはいいとして(ダメだけど…)も、足がまだベッドの外で体重が完全に手にかかってて、手で旦那様の分も体重支えるから体勢が悪すぎて、これ下手したら旦那様、胸で潰しちゃう。
ーコンコンー
『え?!、ちょっと、今はまずいっ』
「旦那さま、申し訳ありませんが、お食事の前にちょっとだけよろしいですか?」
あの声は家令さん。
朝食前に仕事持ってこないで、今取り込んでるんだから。
ーガチャー
「おっと、こ、これは失礼しました」
あー、い、今の状況って遠くから見たら私が寝ている旦那様にキスしてるように見えてるんじゃ…、きっと今頃『やっちゃった』とか思われてそう。
「お食事はあとで召し上がると伝えておきます。ごゆっくりと…」
て、「ちょっと、助けて、そのまま行かないで…」
焦ってる感が溢れる言葉を残して家令さんが去っていきます。
体勢の悪さにジタバタ(でも手が動かせない)してるとやっと目を覚ましたのか、旦那様に
「ん、何やってるんだ?」とすごく冷めた感じで訊かれました。うーーん。
「と、とりあえず放していただけると」
危なかったです。もう少しで旦那様が胸の下敷きに。
旦那様に急に放され、バランス取れず顔面からベッドへと落ちました。
うー、鼻が痛い。でもやっと態勢を整えられました。
「起こしに来たところを旦那様に抱きつかれて、ベッドに引きずり込まれかけたんです!」
「それはすまなかった。なんか寝ぼけてたようだ。
なんか豊満な女神様に『私を抱きしめることが出来たら望みをかなえる』みたいなこと言われてな…」
なぜか旦那様の顔が赤いです。さすがに恥ずかしい?目も合わせようとしないし?
確かにそれはもうがっしりと抱きしめられてました。
でも、申し訳ないですが、その豊満な女神様はきっと私じゃないです。
なので望みが何かは知りませんが、たぶんダメなんじゃ?
・・・よっぽど叶えたい望みなのかしら?
「もう朝食の準備ができてますので、早めにご用意ください」
たぶん照れて赤くなってる顔を見せないように背中を向けて言ってみました。
※※※
「アリサ、ちょっとこっちに」
うーん、家令さんってちょっと苦手なのですが・・・
とはいっても逆らえないので人がいないとこに呼ばれました。
※画像はイメージです。
「アリサ、そういう関係なら言っといてもらわないと困る。
明日から旦那様の世話はアリサの当番で頼む」
「ち、違うんです。誤解なんです。
旦那様が寝ぼけて私をベッドに引きずり込んで…」
「朝から見られて恥ずかしいのは判るが嘘はいかん。
うちでは夜伽の翌日は無条件で1日休みとなっているので、
恥ずかしいとは思うがそういうこともなるべく早めに言うように。
いきなりシフトに穴が開くと大変だから。後で旦那様にも確認しておこう」
えーーー、いや、ほんとに違うんですってば……
まぁ、確認してもらえばわかるかな。
とりあえずお掃除しょ
・
・
・
『後は旦那様の部屋か…、あのあとだし顔合わせ辛いなぁ』
他にもメイドはいるので場所交代してもいいんだけど、そこまでじゃない気も…
ーコンコンー
「旦那さま?入りますよぉー」
・・・
誰もいないっぽい。今のうちに手早く終わらせてしまいましょう。
で、毎日のルーティンの旦那様の部屋の掃除を黙々とこなしていると、
ーガチャー
うわー、帰って来ちゃった
「ん、ごくろー、それが終わって一息ついてからお茶を淹れてくれ
直ぐ家令も来るはずだから2人分頼む」
「わかりました」
「それと問題なければ今夜、伽をたのむ」
「はい。わかり・・・え?」
「聞き取れなかったか?今夜、伽をたのむ」
「あ、え、えっと…」
ーコンコンー
「旦那様、よろしいですか?」
「はいれ」
「じゃあ、少しややこしい話をするので、さっき言ったように、そうだな30分後にお茶を頼むぞ。
で、今朝頼んだことなのだがどうしてもダメか?」
何か家令さんが『ダメです』とか言いながら、こっち睨んでる。
こ、これは早く逃げよう…
「失礼します」
※※※
どうしよう。
と言うかどうしよう…、旦那様的には軽い気持ちで誘ってるのかもだし
断るのは失礼にあたるのかしら?
確かに誘われたとき、事務的に淡々と言ってた気も?
と、とりあえずお茶を2人分淹れて来いって言われてるし、
お茶淹れて持っていこう、可能なら少し話でもしてと、思って持っていったんだけど、まだなんか難しい話をしてる…
お茶だけおいてさっさと退散し、誰か伽を知ってる人に聞いてみましょ
お屋敷で働いてるメイド仲間が何人か休憩室で休んでいたので訊いてみることにします。
・・・って、なんて訊けばいいんだろう。
「すみません。このお屋敷って伽とかあるんですか?」
「旦那様に誘われたの?」
「いえ、家令さんから『伽の翌日は休みだから誘われたら申告しろ』とか言われたので気になって…。
どんななのかなーって」
「んー、そうねぇ、ここのルールって旦那様に誘われて、その気があるんなら受けると次の日休みになるんだっけ?」
「そうそう。
枕だけもってネグリジェで訪問するってのが一般的ねー」
「その後ってどうなっちゃうんですか?」
「その後って?」
「その辺は旦那様しだいじゃない?」
「愛人化することもあるし、そのままもあるかな?」
「普通は伽ってある程度親しいか親しくしたい人にしか言わないよ、
あんまり変なことすると噂になるし、メイド協会から紹介無くなるし」
「そうなんですかー、ちなみに伽って断ったらどうなるんです」
「それも旦那様しだいじゃない?」「そうそう」
「やっぱり顔を合わせると気まずいから、適当に理由つけて解雇されることもあるし、顔合わさないようなとこの担当になったり、だれでも誘うような旦那様は逆に気にしないみたいね」
「それただの挨拶になってない?」
「「「あはははは」」」
「性格悪い旦那様だと辞めるときに渡す次のとこへの紹介状に悪いことたくさん書くらしいって聞いたわ」
「なんか美人さんでどこいっても伽呼ばれて『断ったらお暇申し付けられて』って転々としてるって娘が前のお屋敷でいたわ」
「このお屋敷で伽に呼ばれた人っています?」
「いないねー」「旦那様淡白だから」
「「「あはははは」」」
うーん、やっぱりよく判らない、旦那様何考えて伽言ってきたんだろう。
朝抱きしめて、なにかが目覚めちゃったのかな?
※※※
で、判断できないまま時間は過ぎたんだけど、だって接点少ないし。
このままだとやっぱり職場恋愛小説みたいな18禁展開に……
で、結局、枕を抱いて来てしまった。
――コンコン――
「旦那様?」
・・・
「入っちゃいますよ?」
部屋に入ってベッドを見ると旦那様が爆睡している。
何時に来いとか言われなかったし、一般的に何時に行くべきかなんて知らないから、迷って迷ってすっかりとっぷり深夜(何なら外が明るくなってきてる気も)になってしまったのは私も悪いと思いますが…
というか
『わたしはここからどうすれば……』
すっごく悩んで心臓壊れるかというくらいドキドキしてここまで来たのに…
何もなかったことにして帰ってもいいけど、それはそれで何のために悩んだの?って気も…
とはいえ、旦那様にベッドにお招きされてないのに潜り込むのもなんか私が夜這いに来たみたいだし、軽い女な感じがするって言うか…、うーーー
大体、このまま帰ると拒否ったことになるのよね?せっかくここまで来たのに…
いや、爆睡してる段階で拒否られて、ふて寝してると考えたほうがいい気も……
うーん、どうしよう。潜り込むべきか潜り込まざるべきか
ふと思ったんだけど、もしかして私って結構優柔不断なんじゃ…
ああっ、このままじゃ夜が明けちゃう。
旦那様のベッドに腰掛けて延々悩んでいたけど、ちょっと限界。
『ちょっとだけ、ちょっとだけ横になってもいいよね。すぐ起きるから……』
全年齢でたぶん大丈夫・・・じゃないかなぁ?
ちょっと不安ですが(題名だけでもすでにヤバそう)
絵を一応載せてます。容姿を文章で書いてもいいんですが(想像は広がるのでお得なんですが)見た方が早いので・・・
予定では前後編の2部作です。
ここから一転SFになって長期連載にしたら、それはそれで面白いかもしれない・・・
次話『え?!毎夜、伽にくるんですか?て、ゆっくりできる最後の夜って……』
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