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第66話 暗躍する影

「……っ!」


「ゼクレア、あなたには荷が重すぎるわ。アーベルの代わりになんてなれないわよ。一生ね」


「ふふ……」


 ゼクレア師団長が笑うと、初めてアリシミリアに焦りの表情が見える。


「何? 気持ち悪いわね」


「その通りだ、アリシミリア殿。勇者のアーベルの代わりなど、俺には務まらない。いや、誰にも務まらない。勿論、あなたも例外ではない」


「なんですって?」


「そもそも総帥代理など必要ありません。アーベルは戻ってきます」


「え? 謹慎が解かれたの??」


「そうです。国王陛下の許しをいただきました。たった今」


「なっ!」


「1歩遅かったようですね」


 ゼクレア師団長は口端を吊り上げて、不敵に笑う。


 アリシミリアは国王陛下の方に振り返った。

 唇を噛み、敵国の王でも睨むように眼光を光らせる。

 ゼクレア師団長とは対照的で、どこか焦りを感じた。


 陛下は一瞬鼻白んだように見えたが、髭をさすりながら1つ頷く。


「その通りだ」


「ゼクレア! あなたが国王陛下に嘆願したのかしら?」


「いや……。最初に陛下に願い出たのは、そこに立っている、民間人(ミレニア)だよ」


「あなたが……」


 アリシミリアは私を睨む。

 いつもなら巻き込まないでって思うところだけど、今回ばかりは私も怒っている。

 というか、こういうタイプの人間って生理的に受け付けない。


 人に対して圧力をかけるというか。

 何様って感じ。

 陛下や師団長たちの前でなかったら、舌でも出してやるところだわ。


「こんな小娘が陛下の心を動かすとはね。……それにしてもブサイクな使い魔(ドラゴン)ですこと」


 な! なんですって!!

 ジャノがブサイク? この人、視力大丈夫なのかしら。

 それとも節穴??

 こんなに可愛いのに!


「失礼するわ。戦場から帰ってきたばかりですから疲れていますの」


 挨拶もそこそこにブロンドの髪と、白い司祭服を靡かせながら、颯爽と謁見の間を出て行った。


 扉が閉まると、空気が緩む。

 ホッとした空気が流れた。

 国王陛下もやれやれという感じで、肩に手を置いて首を回している。


 お祝いムードはなくなり、褒賞式は終わった。


「ゼクレア師団長、誰なんですか? あの失礼な人は?」


「なんだ、知らずに喋っていたのか。あれは、ロードレシアの〝聖女〟アリシミリア・ルッツ・ヴァルクフェントだ」


「せ、聖女!!」


 あれが!? 今世の聖女??

 ウソでしょ!

 私が言うのもなんだけど、聖女ってもっと清廉で清貧で、人々を労うような人格者なのよ。なんで、いきなり出てきて人を平伏させるような人間が、聖女なのよ。


(おまけにあんなに頑張ったゼクレア師団長やみんなを罵るような言動を……)


 ギリギリと奥歯を擦る。

 あのうすら笑いを思い出しただけでも、腹が立ってくるわ。


「認めません!」


「あん?」


「あんなのが聖女なんて私、絶対に認めませんから!」


 気が付いた時には、私はそう口走っていた。


 ゼクレア師団長はハッと口を開けて驚く。

 そして私の口元を抑えた。

 急に顔を近づけてくると、囁く。


「あまり滅多なことを口にするな、ミレニア」


「ど、どうしてですか?」


 ぜ、ゼクレア師団長。

 今、かなり顔が近い。

 しかも、口元を抑えているから、なんかこれってキスするみたいな姿勢になってない?


「今にわかる。それにな、ミレニア。お前は女だ。優れた魔術師になれば、お前もまた聖女になれるかもしれないぞ」


 え? それはイヤです。絶対にイヤです。


 あの女の下で働く以上に、聖女認定は絶対ダメ。


 うん。やっぱり逆らうのはやめよう。

 大人しく、私は普通の魔術師として生きることにしよう。



 ◆◇◆◇◆



 話はミレニアが厄災竜(ジャガーノート)を説得した直後に戻る。


 世界の終焉を告げる竜が、光の玉へと変化し、そこに勇者をはじめ多くの魔術師たちが群がっていった。

 そうした光景を、王宮の上から見下ろす者がいる。


 森の中で暗躍していた黒のローブの女である。


 黒煙は晴れ、雲間から月光が差す。

 戦いの気配が薄れつつある中、穏やかな夜気にフードを揺らした女は、蠱惑的に唇を歪めた。


「まさか厄災竜(ジャガーノート)を浄化……いえ、それとも違う。まさか深層心理に触れて、説得してしまうなんて。随分と今世の聖女は面白いわね」


 くすくすと肩を振るわせる。


 すると、その背後から人が現れた。

 一見すると、背に弓を背負った密猟者に見えるが、纏う空気が違う。

 超然としており、人から外れた雰囲気を持っていた。


厄災竜(ジャガーノート)が善神側に落ちた。どうするつもりだ?』


「慌てな~い。慌てない。厄災竜(ジャガーノート)は所詮呼び水でしかありません。言わば、我々の道具、カードの1つでしかありません」


『そのカードを向こうに取られたことを問題視してるのだが……』


「だから、慌てないと……。あの聖女はどういうわけか厄災竜(ジャガーノート)を生かしました。即ち厄災竜という手札はまだ我々側にあるということです。厄介な手札を敵に預けていると思えばいい。いざとなれば、奪い取るだけです」


『……よかろう』


「ところで、一体いつまでその身体を依り代とするおつもりですか?」


「え? ここはどこだ? お前は一体??」


 突然、男は王宮の屋根で慌てふためく。

 先ほどまでの圧倒的な覇気は消え失せていた。

 唐突にパニックになり、王宮の上で騒ぎ出す。


「オレは王都で……そうだ。あんたに酒を――――」


「おいしかったですか?」


「え?」


「美女と飲むお酒の味は……」


 女は男の胸を軽く押した。

 それで十分だった。

 男は体勢を崩し、三角屋根から転がるように落ちていく。

 屋根の縁から飛び出し、あっさりと中空に投げ出された。


「ぎゃああああああああああああああ!!」


 男の悲鳴は闇夜に消える。


 黒ローブの女は男の末期を確認するまでもなく、月を仰ぐ。


「綺麗なお月様……」


 月光を浴びる女の肌は、その月の肌のように青白かった。


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