第6話 癒やせ! 聖女の力で
文体のスペースを詰めてほしいという要望があって、
新しいジャンルということもあって、読みやすさを損なわないレベルで圧縮したのですが、
いかがでしょうか?
『助けて……』
幻聴でも、気のせいでもない。
確かに聞こえた。
ブラックフェニックスの口から「助けて」と――。
「あなた、助けてほしいの?」
魔物の言葉なんてこれっぽっちもわからないけど、神様が『言語が通じる』ようにしたのだから、当然私の言葉も相手に通じるはず。
確証はないけど、今はそれに祈るしかない。
私が語りかけた瞬間、ブラックフェニックスは激しく燃え上がる。
多分私の言葉に反応したと思うんだけど、これはどういうことなのだろうか。
私が差し伸べた手を払っているように見えるし、何か苦しんでいるようにすら見える。
「もっと話して! 私に何か言いたいことがあるなら、言って――――!!」
私が叫んだ瞬間だった。
ブラックフェニックスは一転して私に襲いかかってくる。
完全に虚を衝かれた私は、反応が遅れた。
ライザ姉さんを担いで逃げる時間はなく、私は姉さんを抱いたままブラックフェニックスの炎の中に包まれた。
目を開けた時、私は黒い炎の中にいた。
ふと火刑台を思い出し、半狂乱になりかけたけど、熱くはない。
自分はもう死んだのかと思ったが、死んだのなら私の魂は「神様」の下へと戻るはずである。
「ということは、ここは――――」
周りを見渡したが、ただ炎が見えるだけだ。
いや、違う。薄ぼんやりとだけど、何かが見える。
それはブラックフェニックスとは正対するような真っ白な鳥の姿だった。
白い鳥の周りには、多くの人間が集まっている。
称賛を送ったり、感謝の言葉を言ったり、あるいは涙を流しながら祈っているものもいた。
白い鳥は人間に何かを伝える。すると、人間は様々なものを作り始めた。
火のおこし方から始まり、作物の作り方、絹の織り方、煉瓦の作り方……。
どうやら白い鳥は、人間に知恵を授けているようだ。
そう言えば、聖女だった頃に聞いたことがある。
この世界には、人間に知恵を与えた『神の鳥』と呼ばれた神鳥がいると……。
「これがブラックフェニックスの記憶なのだとしたら……」
神鳥は最初、人間に受け入れられ、崇められていた。
けれど、知恵を持った人間たちはどんどん傲慢になっていく。
神鳥はそれを諫めたが、次第に抑えられなくなっていった。
ついに人間は神鳥に武器を向けた。それはすべて神鳥が人間たちに授けた知恵で作られたものだった。
人間に痛めつけられ、半死半生となった神鳥はある時魔王と出会う。
その甘言にはめられたというより、今まで押さえ付けていた「怒り」が爆発した。
ついに神鳥は知恵を捨て、理性を捨て、『黒い不死鳥』として復活を果たし、魔王の幹部となる。
そして、そんなブラックフェニックスを、私は封印した。
内なる苦しみも知らずに……。臭いものに蓋でもするかのように……。
「ごめん……」
私は泣いていた。
「辛かっただろうね。ごめんね」
今ならわかる。ブラックフェニックスの気持ちが……。
ブラックフェニックスは、私と一緒だ。
人間のために尽くし、人間に裏切られたもの同志……。
いや、一緒なんかじゃない。
私には家族がいた。ライザ姉さんのような優しい家族が……。
多分、仮に今回も同じように私が聖女として生まれたなら、私もブラックフェニックスになっていたかもしれない。
「助けなきゃ……」
私はもう聖女でもなんでもないけど、声を聞いた、言葉を理解した。
今、ブラックフェニックスを救えるのは私しかいない。
この黒い炎で、己の身を焼き尽くす前に、助けられるのは私しかいない。
「一か八かね」
私は手を掲げ集中する。
すると、黒い炎を貫くような白い光が現れた。
炎を消すと言うよりも、癒やすように広がっていく。
これは魔術ではない。
魔法の光。回復の光。
私が聖女だった頃、もっとも得意としていた癒やしの魔法だ。
一気に私は手の先に集中した魔法に力を注ぐ。
1000年前、私はこの世界にいた。
だから、知っている。魔法の力をどうやって使うか。
魔法を使うための魔素量は、減っているけどもゼロになったわけじゃない。
小さくとも、時間をかけて集めれば、魔法を行使することも可能だ。
その技術も私は1000年前に学んだ。特殊な魔鉱石を使えばいいのだ。
1回使えれば、再びもう何年と使えないだろう。
でも、今しかない。
ブラックフェニックスを、ライザ姉さんを助けるためには。
「魔法の力よ、お願い……。かの神鳥を癒やして」
私は回復魔法に力を注ぐ。
やがて世界は白く染まり、炎も、私も消えてしまった。
本日もよろしくお願いします。