第37話 聖女、剣士となる
「ちょ! おま! 大丈夫か、ミレニア?」
さっきまで私に負ぶさられていたマレーラが心配してくれる。
さすが私の心の友だわ。
こんな窮地こそ友情の力が必要なのよ。
私も頑張らないとね……ヒック!
「あれ?」
なんだか頭がボウッとしてきた。
えっと……。今、何をしてるんだっけ?
あ、そうそう。アームレオンと戦ってる真っ最中だったわ。
私は辺りを見渡すと、黄金色の毛並みが揺らすアームレオンを見つけた。
大きな口を開けると、こちらを威嚇する。
6本の足で地面を掻くと、前肢の二本の先に光る爪を舐めた。
『ブオオオオオオオオ!!』
戦車のようにアームレオンは突撃してくる。
背後でマレーラたちの悲鳴が聞こえた。
こうなったら聖女も、魔術師もないわ。
今、ここで友達を助けられるのは、私しかいない。
アームレオンには悪いけど、全力でやらせてもらうわよ。
「エンチャンに座す魔シャよ。悪鬼、人ならヘるものを討ち払ヘ……」
【ブラストへーア】!!
私は魔術を唱える。
だが、手の先から出てきたのは、焚き火程度の小さな炎だった。
「あ~。あったか~い」
「言ってる場合か!! よけろ!!」
マレーラが私を担ぐ。
突進してきたアームレオンの横へと避けた。
すごい。マレーラ、グッジョブだわ。
私を担いで避けるなんて結構力持ちなのね。
しかも、お姫様だっこ。
やばい。マレーラがすっごくカッコいい男子に見えてきた。
「マレーラ、結婚してくれる?」
「な、何を言ってるんだよ。酔っ払い!! しっかりしろ! いい加減酔いを覚ませ」
「大丈夫。酔ってないから」
「酔っ払いはそういうの!!」
「マレーラ、それより後ろよ。避けて」
私はマレーラの背後を指差す。
濃い獣臭が鼻を衝き、すぐ側で鋭い瞳が光っていた。
「キャアアアアアア!! おしまいだ!!」
マレーラは顔を伏せた。
その時だ。大きな影が私たちを包む。
それは件のアームレオンも包むと、背中に落ちてきた。
ドスンッ!
空気が揺れると、アームレオンの身体が折れる。
落ちてきたのは、巨大な岩の塊。肝試しに出会った岩精霊だった。
「ナイス! スーキー!!」
マレーラが讃えると、スーキーはぐっと親指を立てる。
「あの岩精霊って、スーキーの精霊だったのね。 あれ? じゃあ、なんで私の前に??」
「え? いや? 今、しらふになるなよ。それよりもアームレオンをどうするかだろう」
「大丈夫よ、マレーラ」
私はマレーラから降りる。
近くにあった手頃な木の枝を引き抜いた。
ヒュンヒュンと軽く動かす。
魔術が駄目なら、剣で応戦するしかないわね。
「ミレニア、お前剣もできるのか?」
「さあ……。剣はお兄ちゃんにちょっと教えてもらった程度へ」
「はあ? それでアームレオンと戦おうってのか??」
「そうよ。だって、私の後ろには――――」
大事な友達がいるんだから……。
…………。
え? なんでそこでしんと静まり返るの。
私としては「ふっ! 決まった!」とか思ってたんだけど。
まあ、いいや。どうなるかわからないけど、友達のために戦うのは悪くないことだわ。
私ってば、根っからの救世主体質なのよね。
「ほら。来なさいよ。相手してあげるわ」
指先を動かして、アームレオンを挑発する。
それが通じたのかどうかわからないけど、アームレオンは鋭く吠えて、私との距離を急速に縮めた。
太い大樹の幹を思わせるような前肢を振る。
それはほぼ私の目から見て、可視不可能だった。
あ。ヤバい。……これ、本当に死んだかも。
『やれやれ。君は――――』
(え? 誰?)
『その問いに答える前に、ちょっと1歩下がってごらん』
私は素直に声に従う。
1歩後退ると、私の胸スレスレにアームレオンの爪が通り過ぎていった。
(おお! すごい。躱せた)
『喜んでる場合じゃないよ。次は踏みつけだ。大きく右にジャンプして』
(誰だか知らないけど、了解!)
言われるままによたよたと右にジャンプする。
すると、予想通りアームレオンが踏みつけてきた。
1歩遅かったら、私はぺちゃんこになっていただろう。
(次は?)
『尻餅を付いて』
(尻餅??)
私は言われた通りにする。
直後、頭の上を前肢が通り抜けていった。
すごい。すごい。アームレオンの動きを完璧に読んでる。
(あなたって――――)
『感心してないで。君の攻撃だ。持ってる枝をアームレオンの口の中にツッコんで』
え? 何それ? と聞くまでもない。
今、私の前には無防備なアームレオンの口があったからだ。
大きく開けて、喉の奥まで見える。
「ええい!!」
気合い一閃!
木の枝を槍のように扱い、私はアームレオンの口に突き入れた。
枝はあっさりと口内に刺さる。どす黒い魔物の血が噴き出した。
「やった!!」
喜んだのは、私だけじゃない。
見ていたマレーラたちもガッツポーズを取る。
一方、声の主だけが冷静だった。
『喜ぶのは早いよ! 今だ。君が突き立てた枝を避雷針代わりにして……』
(なるほどね)
すべてを理解した私は、後ろを振り返って叫んだ。
「今よ! マレーラ!! 枝にさっきの魔術を!!」
私の言葉に、マレーラは即座に反応する。
「なるほど。そういうことか!!」
すぐに呪文を詠唱すると、刺さった枝にのたうち回るアームレオンに手を掲げた。
【雷戟】!!
雷撃の槍がアームレオンに刺さった枝に伝わる。
雷光は枝を伝って、アームレオンの口内へと向かい、さらに奥の内臓に直接ダメージを与えた。
『ギャアアアアアアアアアアアアア!!』
アームレオンは断末魔の悲鳴が上がる。
すごい! これは本当にAランクの魔物を倒しちゃうかもよ!
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