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前世で処刑された大聖女は、聖女であることを隠したい  作者: 延野正行
第三章

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第36話 魔獣との戦い

 魔物には7つの強さの分類がある。

 Sランクが最強として、A、B、C、D、E、Fと右側へ行くほど弱い。

 アームレオンはSランクの1つ下〝A〟ランクに相当する。


 天災ランクといわれるSランクの1つ下ということは、かなり強いことを意味していた。


 そのアームレオンには、6本の足と2つの手がある。

 6つの足で巨体を支え、前肢とも言うべき巨腕が顔の横から伸びている。

 手には鉤爪のような鋭利な爪が付いていた。


 その爪が暗闇の中で閃く。


「危ない!!」


 私はすぐ前にいたマレーラに覆い被さるように飛びつく。

 直後、爆発音とともに土煙が高く夜空へと上った。

 カーサの「マレーラ! ミレニアさん!!」という悲鳴が響く。


「大丈夫よ、カーサ」


 私はマレーラの状態を見る。

 いきなりのことで顔を青くしていたが、特に怪我はないようだ。


 振り返った。

 先ほどまでマレーラがいたところが陥没している。

 褒めてどうなるわけでもないけど、さすがはアームレオン。

 凄い膂力だわ。気の強いマレーラが表情を青くするのも無理もない。


 それにしても、何故こんな所にアームレオンがいるのよ。

 すぐ近くには王宮だってあるのに。

 ゼクレア師団長やアラン師団長、防衛の専門家がこんなランクの高い魔物の侵入を許すはずがない。


 アームレオンはゆっくりとこちらを向いた。

 若干目を細め、鼻梁に皺を寄せる。

 そして吠えた。


 「よく躱したな」と労ってくれてる? わけはないわね。


「な、なんだよ。こんな化け物、誰が用意したんだよ」


「誰が? 用意??」


 これも肝試しの余興? そんなわけないわよね。

 目の前のアームレオンの殺気は本物だ。

 人が着ぐるみを着ているようにも見えない。

 周りの様子を見ても、いきなり現れたAランクの魔物に気が動転してるようだった。

 無理もないわ。


 すると、こちらを向いたアームレオンを見た時、私はあることに気付く。

 アームレオンの額に何か光ったような気がした。

 よく見ると、宝石のようなものがはめ込まれている。


(あれって確か魔力増幅器ね……)


 アームレオンの魔力増幅?

 その割りには普通だと思う。そのために使っていたら、さっきの一撃で全員吹き飛んでると思うし。

 ともかくアームレオンに人の手が入っていることは確かね。

 そうなると、使役系の魔術か、獣魔契約の強化かかどっちかの可能性があるわね。


 魔物も精霊と同じで、自分の言うことを聞くように使役したり、契約ができたりする。

 けれど、Aランクの魔物となれば使役も契約も難しい。

 魔力増幅器を埋め込んで無理矢理手懐けているのだろう。

 アームレオンからすれば、迷惑な話だ。

 戦いたくもない相手と戦わせているのだろうか。

 少々同情を禁じ得ない。


 などと考えていると、アームレオンが再び突撃してきた。


「立って、マレーラ!」


「そ、それが……」


 マレーラは口端を引きつらせる。見ると、足が全然反応していない。

 どうやら腰が抜けたらしい。


「大丈夫よ。――――力天使よ。我が歌を捧げる。其の大地を掲げる奇跡を与え給え」


剛力(リジッドボディ)


 私はマレーラの手を引き、おぶる。

 突撃してくるアームレオンの側面へと逃げた。

 だが、アームレオンはなかなか俊敏だ。

 6本の足は伊達ではない。強い制動力を持って、巨躯を止める。

 私とマレーラの方に旋回すると、再び前肢を振りかぶった。


「万物の力はすべて知識なり。法則を捉えよ。悪しき者の外界に落とせ!!」


無擦(ゼロ・フリクション)


 瞬間、アームレオンはつるりと滑る。

 地面の摩擦抵抗を限りなくゼロにする魔法だ。

 おかげで、私たちに向けて放たれた爪が空振り、アームレオンは無様に転んだ。


 その隙に逃げると、私は魔法を唱えてくれた本人と合流する。

 早速、頭を撫で回した。


「カーサ、すごい! やるじゃない」


「あ。ありがとうございます。よくチーム戦では補助に回っていたから」


 なるほど。

 私の目から見て、カーサの能力は学校組の中でも低い。

 それは自分も理解しているのだろう。だから、あのピクシーに対して積極的になれないのだと私は分析していた。


 でも、彼女は自分の弱さを知っているから、効率のよい方法で魔物の力を殺ぐ戦い方を手に入れたのね。頭いい!


 だが、攻撃はそれで終わりじゃなかった。


岩爪(ガロー)】!!


 アームレオンの身体を3本の岩の爪が刺さる。

 下級魔術だけど、身動きができず直撃を受けたアームレオンは悲鳴を上げた。


「マレーラの姐貴」


 と現れたのは、スーキーだ。

 ちょっとぽっちゃり体型で大きな身体をした彼女は、手をかざしながらさらにアームレオンに魔術を叩きつける。


 だが、この程度で終わるAランクの魔物じゃない。

 しっかり地面に爪を立てて、立ち上がると私たちの方を威嚇した。


「まずい! 立ち上がるよ」


「任せな!!」


 次に現れたのは、ミルロさんだ。


 【束縛樹(バインド・ツリー)


 アームレオンを囲むように無数の蔓が伸び上がる。

 そのままアームレオンを包み、動きを止めた。


「マレーラ姐貴、今ですよ!!」


「わかってるよ!!」


 マレーラは私に負ぶさったまま手を掲げる。


「神館に住む雷精よ。我の声を聞け。契約の導きの下、悪逆のなるものに怒りの鉄槌を!」


雷戟(サンダースピア)


 青白い光が空気を焼きながら、アームレオンの頭上に落ちる。

 如何にAランクの魔物でも、魔術で身動きが取れない状態ではひたすら攻撃に耐えるしかない。

 けたたましい雷撃の音に、アームレオンの雄叫びが混じる。


「すごい……」


 それにしても良い連係だ。

 多分マレーラ、スーキー、ミルロ、カーサはずっと学校で組んでいたのだろう。

 なかなか洗練されたチームワークだった。


 Aランクの魔物は勇者や聖女クラスじゃないと難しいけど、こうやって連係を取れれば、新人でも対応できるのだ。


「まっ! あたいのチームなら、これぐらいはやれるよな」


「何を言ってるんだい、姐貴」


「姐貴が1番ビビってた」


「姐貴、腰が抜けてるぜ」


「う……うっせぇ! お前らは黙ってろ」


 マレーラは怒鳴り散らすけど、未だに私に負ぶさったままだから全然迫力ない。

 カーサがたまらず笑うと、スーキーやミルロまで笑い出した。


「おんぶ……。あっちが代わろうか」


 スーキーが手を差しだしてくる。


「ありがと。でも、もう大丈夫でしょ、マレーラ」


「あ、ああ。大丈夫だ」


 ようやく力が入るようになったらしく、マレーラは自分の足で立つ。


 一方アームレオンを包んでいた蔓が動く。

 バチバチと蔓を切りながら、6本の足と2本の手がある異形の獅子は立ち上がった。


「げっ! まだ生きてるのかよ」


「そんな!!」


 マレーラやカーサが顔を青くする横で、スーキーたちも驚いていた。


 かなり攻撃を受けたのに、アームレオンの表情には何か余裕を感じる。

 今の多重攻撃が利いていないように見えた。


 さすがはAランクね。ただでは倒せない。

 アームレオンは攻撃こそ単調だけど、対物理、対魔術の防御に長けている。

 1000年前、私が前線で戦っていた時は、【魔法使い殺し】と恐れられていた。

 とにかくタフなのだ。


 あまりに鬱陶しいから、つい逃げたくなるのだが、6本の足は伊達ではない。

 森だろうと、山だろうと関係なく、追跡してくる脚力もまた脅威だ。

 攻撃に癖がないから、こっちの被害が少なくて済むけど、持久戦に持ち込まれればこちらの不利だった。


「ミルロ! 森に配置した生徒はどこへ行った?」


「師団長や先輩を呼びに行ったよ。わっちはマレーラを助けに来た」


「さすがだね。その忠義心に涙が出てくるわ」


 マレーラは涙を拭うような振りをする。

 最初は緊張して動けなかったマレーラだけど、少し雰囲気に慣れてきたらしい。


「師団長や先輩が来るまでの間の時間稼ぎだね」


 多分10分、いや20分といったところか。


「なんとか希望が見えてきたかもしれない。この5人ならなんとかなるよ」


「た、戦うのかよ! お前、正気か?」


「アームレオンはとても動きが速いんだ。逃げるのは難しいんだよ、マレーラちゃん」


「カーサ! 今、その〝ちゃん〟付けはやめてくれ。力が入らなくなる」


「ご、ごめん……」


「ふふふ……。でも、カーサの言う通りよ。今は戦うしかないわ。大丈夫。みんなの力を合わせれば、何とかなると思う」


「くそ! なんて日だ!!」


 マレーラは袖を捲り、戦闘態勢に入る。


 私は手を掲げた。その時だった。



 ひっく……。



「はれ? なんか……身体が…………あたまが……ぼーっとしてきひゃった」


 なんだろう。

 身体に力が入らない。呂律も何かおかしいし。

 それに身体が無闇に熱い。目の前も二重に見えた。


「ミレニアさん?」


「ちょっ! お前、その顔……。もしかして酔ってるのか?」


「そ、そんなわけないじゃない……」


 あ。でも酔ってるかも私。


 え? 今さら? いや、激しく動いたことで酒精が回ったってこと。

 ご飯もおいしかったけど、王宮のワイナリーから出てきた葡萄酒も美味しかったしねぇ。

 結局、1人で1本開けちゃったし。


(――って、私飲み過ぎぃ!!)


 私はアームレオンを見上げる。

 すでに魔物は私たちのすぐ側まで迫っていた。


 やばい。私、こんな状態で戦えるかしら。


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