第33話 嬉し恥ずかし肝試し
肝試しが始まった。
次々とマレーラが集めた学校組が森の中へと消えていく。
すると、森の奥から「ひゃああ!」「ぎゃー!」とか悲鳴が聞こえてきた。
なかなか怖いようだ。
「あれ? ミレニア、顔が真っ青だけど……」
一緒の組になったマレーラが話しかけてくる。
ちなみにもう1人はカーサだ。
2人とともに肝試しを回れるのは嬉しいけど、できればカーサと2人っきりが良かったな。
それならピクシーのことも話せるし。
ちょっと強引にカーサと2人っきりになれるシチュエーションを作ろうかしら。
「もしかしてお化けとか信じる方だったりする?」
マレーラはニヤリと笑う。
「お化け? あはははは……。そんなのいないわよ。ゴーストとか野生動物の見間違いでしょ? 昔偉い人の本に書いてたけど、この世に魔術現象と錯覚で説明できないものはないって書いてあったわよ」
「そ、そう……。へえ、そいつは頼もしいね。ねぇ、カーサ」
「う、うん」
マレーラはカーサの肩の上に手を置く。
私の事よりもカーサの方が心配だ。
どうやら「お化け」というのを信じてるらしい。
そんなやりとりをしていた、私たちの順番がやってきた。
どうやら私たちで最後らしい。
「時間だね。行こうか、ミレニア」
「うん。こういうのめっちゃ楽しみ!」
ワクワクが止まらない感じ。
お化けとかって、多分ゴーストとか野生動物の見間違いだと思うけど、それでも説明できない恐怖って、やっぱ魅力的よね。
それに友達と一緒に連んでるってのも、新鮮だし。
青春してるわぁ……、わたし。
ただ残念だけど、ゴーストも野生動物も現れない。
勿論、お化けもだ。ひたすら森の闇が広がっていた。
「そう言えばさ。ミレニア、精霊を連れてないようだけど……」
「えっ? ああ……。実はまだ決めてないのよね。色々目移りしちゃって」
「へぇ……」
「ん? マレーラ、今笑った?」
「――そいつは好都合だ……」
「へ?」
「今だ! 出てこい!!」
マレーラは突然叫ぶ。
その瞬間、私の背後の闇が一層より色濃く感じた。
「キャアアアアアアア!」
カーサの絹を裂くような悲鳴が響き渡る。
私も立ちはだかった闇の大きさを見て、息を飲む。
しばし呆然と、ゴツゴツとした岩肌を見つめた。
『ブオオオオオオオオオオオ!!』
岩肌を纏った闇が動く。
それは大きな岩石巨人だった。
巨手を振りかぶって、威嚇する。
「あれ? これって厩舎にいたロックドンよね」
岩精霊ロックドン。私の背丈よりも大きいけど、これでもまた小柄だ。
最大のもので、山のように大きくなる精霊もいる。
「もしかして、これがお化けの正体とか? でも、あなた凄いわね。精霊って私を見た瞬間、だいたい逃げ出すのに」
すると、岩石巨人の岩肌にプツプツと汗が付着する。
心なしか灰色の岩肌が青くなって見えるのは、森の中に薄らと差し込む星明かりのせいだろうか。
『ブオオオオオオオオ!!』
突然、岩石巨人は回れ右をすると、私から一目散に逃げてしまった。
あらら……。やっぱりこうなっちゃうか。
それにしても、なんで岩精霊なんて突如現れたのかしら。
基本的に精霊って、人前に出ること何て滅多にないのに。
「ちょ! お前、どこ行くんだよ!!」
マレーラは慌てて制止するが、岩石巨人は森の闇の向こうに消えてしまった。
「どうしたの、マレーラ? もしかして、知り合いか誰かの精霊?」
「お、おい。ふざけんなよ。精霊が裸足で逃げ出すってどういうことだよ?」
「え? なんか言った?」
私がマレーラの顔を覗き込むと、何故かすっごい勢いで慌て出した。
なんだろう。さっきからマレーラの様子がおかしいわ。
ああ。そうか。
マレーラ、怖くて気が動転してるのね。
結構強気な性格に見えて、割と乙女なんだ。
ふふふ……。ちょっと可愛いかも。
「マレーラ……」
「な、なに?」
「いーこ。いーこ」
私はマレーラの頭を撫でる。
「ちょ! ちょ!! な、撫でるなぁ……」
やっぱり怖かったのね。
マレーラの目に涙が光って見えるわ。
「大丈夫。お化けなんていないから。出てきたら、私が追っ払ってあげるわ」
「はあああああ! お前はさっきから何を言って。あたいは――――」
何か言いかけたようだけど、自分で口を塞ぐ。
だいぶ恐怖でおかしくなってるみたい。
一旦帰って、お医者さんに見てもらった方がいいのかもね。
私に聖女の力があれば、診てあげることができるんだけど。
すっかり魔力は空なのよねぇ。
「マレーラ、一旦帰る?」
「ふざけるな! まだやるに決まってるだろ!! 行くぞ!!」
マレーラは歩き出す。
行っちゃった。大丈夫かしら随分無理をしてるみたいだけど、あんなに大股で歩いて。
もしかして、私のためとか。そうか。私に楽しんでもらいたくて、我慢してるのかもしれない。さっきから随分言葉乱暴だけど、照れ隠しなのかもしれないわね。
「じゃあ、こうしましょう」
「お前、何を――――」
「ミレニアさん?」
私はマレーラとカーサの手を取る。
「これなら安心でしょ」
手を繋いだまま、私たちは闇夜の森を歩き続けた。
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