第25話 『炎の魔女』の矜恃(前編)
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拙作『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~』の原作コミカライズが、ニコニコ漫画で最新話更新されました。
もし良かったら、読んで下さいね。
「魔術師第二師団入団の栄誉。誠に申し訳ありませんが、辞退させていただきます」
え? ヴェルちゃん、なんで??
辞退するって、第二師団入団を?
……ん? いや、待てよ。そうか。その方法があったか。
てっきり強制だと勘違いしていたけど、入団を辞退すればいいんだ。
でも、待て待て。落ち着け、私。もし辞退した場合、魔術学校に入学できるのだろうか。試験で満点取っても、今辞退したら魔術学校入学も取り消されたりする?
いや、それなら来年また受験すればいいし。
ただうちは貧乏貴族だから再試験なんて受けさせてくれないだろうし。
いっそ冒険者でもやって、自分で稼ごうかしら。
などと1人考えていると、ゼクレア教官とヴェルちゃんのやり取りは続いた。
「どういうことだ、ヴェルファーナ・ラ・バラジア。お前がバラジア家で『炎の魔女』と喚ばれていることは知っている。よもや古き魔術師の家系であるバラジア家の娘が、軍人になることに臆したなどと言うまいな」
ゼクレア教官の口調は、小さなヴェルちゃんを前にしても変わらない。
容赦なく大人の、そして軍人としての厳しさを突きつけてくる。
対するヴェルちゃんも立派だ。「臆する」素振りすらみせることなく、ゼクレア教官の言葉を受けると、苛烈に燃え上がる緑色の瞳を教官にぶつけた。
「教官。……あたくしはそのバラジア家の娘として、ここに立っているのです。『臆する』ことなど微塵もありません」
「では、どうして『辞退する』などというのだ」
「あたくしがバラジア家の娘だからですわ」
ヴェルちゃんは自分の薄い胸を叩く。
「教官も知っている通り、バラジア家は古の時代より魔術師として国と民に仕えてきました。しかしここ数代、当主においてはそのお役目を果たせるほどの逸材は現れず、ついにあたくしの姉は魔術学校に落ち、そのまま家を出て野に下りました」
「何が言いたい?」
「人は言います。『バラジア家は落ち目だ』と……。あたくしはその名誉を回復させるために魔術学校の試験を受けに来ました。しかし、結果――――」
「第二師団では不服というのか? 第二師団とて、受験生が飛び級で入団することは稀なことなのだぞ。あの馬鹿がおかしいだけだ」
ちょ! 今、馬鹿って言った??
「第二師団に入れることは大変名誉なことだと考えています。それでも……それでも、あたくしは1番にこだわりたい。いえ……。あたくしが今から紡ごうとするバラジア家の歴史に、2番なんてあり得ない。悔しいですが、ミレニア・ル・アスガルドは逸材です。師団にとってもイレギュラーと言えるでしょう。でも、たとえイレギュラーだとしても、それを超えられなければ、あたくしが努力を怠っていただけのことです」
「ヴェルファーナ……。正直に答えろ。お前がそこまで1番にこだわるのは、お前のうちの長女――天才と言われた先代の『炎の魔女』の悪評を払拭するためか」
ヴェルちゃんはぴくりと肩を震わせる。
グッと奥歯を噛んで、何かを堪えているように見えた。
「姉は関係ありません」
その一言を言うのが精一杯という顔をして、ヴェルちゃんは答えを返す。
口の端に宿った感情には怒りよりも、憎しみのようなものを感じる。
あの小さな身体で、ヴェルちゃんはきっと大きなものを背負っているのだろう。
天才といわれたヴェルちゃんのお姉さん。
あれ? でも、さっき魔術学校を落ちたって言ってなかったっけ?
別のお姉さんかしら。
「そうか。だとしても、お前の意見は受け入れられない」
「何故ですか!? 魔術師師団にそんな強制力は……」
「ああ。そんな強制力はない。辞めたいなら辞めるがいい。……ただお前は1番にこだわりたいと言った。仮にお前が来年も受験し、1番になれたとする。だが、ミレニア・ル・アスガルドがいない1番に何の意味があるのだ?」
ヴェルちゃんは大きく目を広げる。問いに対して答えることができず、そのままゼクレア教官は喋り始めてしまった。
「第二師団入団を決めさせたお前の実力と、この場で『辞める』といった矜恃だけは認めてやる。だがな、ヴェルファーナ。そうやって数字を並べたところで、お前がミレニアに負けたことは変わらん」
「それは――――」
声を震わせながら、ヴェルちゃんは何か言おうとしたけど、やはり反論はできなかった。
「1年後、お前がまた入団を許されるかもしれない。その時、お前は新兵。しかし、ミレニアは1年後、どうなってるか俺にもわからん。そんなミレニアを一生追いかけるつもりか? それともミレニアを無視して、自己満足の1位という勲章を掲げ続けるつもりか?」
ヴェルちゃんはずっと張っていた肩を落とす。
その瞳には失望がありありと現れていた。
「教官、あたくし――――――」
「あの~。私も辞退したいんですが……」
私は手を上げた。
ヴェルちゃんと教官のやりとりをずっと眺めていた受験生たちは、1つ息を呑んだ後。
『ええええええええええええええええええええ?????』
大きく声を張りあげた。
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