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第13話 教官の決意

朝投稿の予定でしたが、予約ミスってました。

申し訳ない。


 能力試験が終わり、いよいよ実技試験を残すのみだ。


 すっかり注目を浴びるようになってしまった私は、宿泊先の女将さんに握ってもらったライスボールを口に入れていた。


 一口サイズのライスボールには、野菜やハムで作った飾りが付いていて、これがまた可愛い。ついつい和んでしまう。ピリピリした試験会場にあって、一服の清涼剤だ。

 さらに、中には「頑張れ」と小さな手紙が入っていた。


 おかげでメンタルが回復したけど、能力試験では「やってしまった」感が半端がない。


 前世の時もそうだったけど、ああいう人間を見ると、どうしても一言いいたくなる。

 まあ、その性格が災いして、結果的に政敵を作って、その人たちに毒を盛られたり、火あぶりにされたんだけど……。

 大いに反省しなければならないのは、大柄の男よりも私の方のようだ。


「うっ!」


 まずい。ぼんやりと食べていたら、ライスボールが喉に詰まってしまった。

 み、水……。誰か、水をちょうだい。


「はい。どうぞ」


 唐突に目の前に水筒が現れる。

 随分と古風な竹でできた水筒だった。

 私は迷わず飛びつくと、栓を抜いて水を含む。


「ぷはぁっ! 生き返った!!」


 思わず冷えたワインを飲んだ後みたいな台詞になってしまった。

 本当に急死に一生だったのだから仕方がない。あと、ちょっと遅かったらこのためだけに、秘蔵の回復魔法を使うところだった。


「ありがとう。助かったわ」


 顔を上げると、例の美男子が「よかった」と笑顔を浮かべていた。


(わわ……。なんかまた恥ずかしいところを見られた気がする)


 私は自然と緩んでいた身だしなみを整える。


「あなたには助けられてばかりね。そういえば、自己紹介がまだだったわ、私は――」


「ミレニア・ル・アスカルドさんでしょ?」


「え? どうして、私の名前――――」


 もしかして、私ってもう超有名人になっていたりする?


 待って。私の夢は普通の魔術師なのよ。まだ魔術師にすら認定されていないのに、目立ってるってどういうことよ。


「筆記試験の時、僕も同じ教室にいたんだよ」


「え? そうなの?」


 全然気付かなかった。

 ずっとヴェルちゃんを見ていたから仕方ないかもしれないけど。


「こんな人気のないところでお弁当?」


「お弁当というより、おやつね。次、実技だから。力を付けなくちゃ。あなたこそ、何をやってるの? えっと……」


「ルクレス……。友達はルースって呼ぶから、そっちに合わせてもらえると嬉しい。僕も目立つのは苦手でね。人気の無いところで休もうとしたら、ミレニアがいたってわけさ」


「なるほど」


 ルースって黙ってても目立つからね。

 私と別の意味で、人の視線が苦手なのかも。


「さっきのは凄かったよ」


「さっきって……。ああ。魔力測定のこと? う、うん……。でも、他の受験生をさらに動揺させちゃって。後で謝らないと」


「そうだね」


 あっさり認めた。しかも、満面の笑顔で。

 ルース、そこは励ますところじゃない?


「でも、あの大柄の受験生に突っかかっていた受験生は、うまく魔力を制御できていたよ。多分、君が仇を取ってくれたからじゃないかな」


「そうなの」


 ルースの言うことが正しいなら、それはそれで嬉しい。

 ちょっとでも頑張ってる人にエールのようなものを送れたなら、元聖女冥利に尽きる。

 聖女って本来は、人のよりどころになることが役目だからね。


 そういう意味では、前世の私は色々なところに首を突っ込みすぎて、お節介がすぎたかもしれない。


「そろそろ実技試験の時間だ。会場へ行く?」


「一緒に行ってもいいの?」


「もちろん」


 ルースはそのまま絵画にしたら、金貨何千枚と値段が付きそうな笑顔を浮かべる。

 私に手を差し出して、立たせてくれた。


(ルースはとてもいい人みたいだ)


 学校に入ることになったら、友達になってほしいなあ。

 ルースが良ければだけど。


 私たちは一緒に実技試験が行われる講堂へと向かう。

 その道すがら、何やら受験生が壁の前に集まっていた。


「何事?」


「ああ……。早速能力試験の結果が貼り出されてるんだよ。筆記とは違って、能力試験の結果はすぐにわかるからね。ほら、君の名前もあるよ」


 ルースは指差す。

 見ると、確かに私の名前があった。

 しかも、全体1位の成績だ。


「よし!!」


 思わずガッツポーズを取る。


 これで筆記試験の0点は、うまく挽回して、プラスマイナスゼロとなった。

 次の実技試験でそこそこの成績を収めれば、平均点獲得だ。

 これで普通の(ヽヽヽ)魔術師に1歩前進できた。



 ――――っと、その時の私はひどく楽観的な気分になっていた。




 ◆◇◆◇◆  教官たち  ◆◇◆◇◆




「間違いない。ミレニア・ル・アスカルドは、何らかの工作員だ」


 ゼクレアの声はがらんとした教官待機室に響き渡る。

 お馴染みの師団長たちが揃い、黙ってゼクレアの報告を聞いていた彼らは思い思いに口を開いた。


「まだ早計ではないかな、ゼクレア」


「アランの言う通りです。その推測は現時点で状況を混乱させるだけかと」


 魔術師第二師団長アランの提言に、第五師団長ボーラは同意した。


「けどよ、アラン、ボーラ。水晶測定器が振り切れる寸前だったんだろ? スパイじゃないかもしれないが、受験生というにはあまりオーバースペックだ」


「スパイだとしても、随分行動が派手すぎますよ。……いずれにしろ、彼女の目的をじっくり調べ、見極めることが先決です」


「今のところ、大人しく試験を受けているだけに見えますがね……」


 ボーラは眼鏡を吊り上げると、さらに言葉を続けた。


「問題は仮に彼女がイレギュラーだとしても、手がすぐ届く場所に今、受験生(ひよっこ)たちがいることです。これは人質も取られているのも同然でしょう。問題があるというなら、まず受験生を避難させる必要があるかと思いますが」


「ですが、実際のところあれほどの魔力量の持ち主から、穏便に受験生を避難させる方法があるでしょうか? 刺激すれば、我々の意図を知れば暴走しかねません」


 アランは顎に手を押さえて、反論した。


「だな……。派手に立ち回れば、他の受験生の動揺を誘う。再試験なんてことになったら、入試を運営する委員会からお小言だけじゃすまなくなるぞ」


「俺がやる」


 ゼクレアの三白眼が光る。


「俺に考えがある」


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