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第10話 お父さんとブランコ

『筆記試験』の会場に行くと、空気が随分淀んでいた。

 受験生たちの緊張感が伝わってくる。かくいう私も緊張してきた

 もう1回お花を摘みに行って来ようかしら、と筆記用具を出していた時、声が聞こえた。


「なんで、あんたがあたしの隣なのよ!」


 横を見ると、さっき出会ったヴェルファーナが座っている。

 ジッと私の方を睨んで、縄張りを主張する猫みたいに警戒していた。

 あー、怒ってても可愛い。ちょっと頬を膨らませているところとか最高かも。


「ちょっと! 聞いてるの、あなた!!」


「ご、ごめんなさい!」


 反射的に謝ってしまったが、どうやら私の邪な心が通じたわけではない。

 多分聞かれていたとしたら怒るというより、ドン引かれていたことだろう。


「いーい! いくらあたしの答案を見たいからって、カンニングしたら即教官に言うからね」


「それはしないと思うけど、多分ヴェルちゃんが可愛いから見ちゃうかも」


 しまった。つい本音が……。

 すると、たちまちヴェルちゃんの顔がキュ~~ッと赤くなっていく。


「な、な、な、何を言ってるのよ、へ、変態! 絶対こっちを見ないでよ」


「そこ! うるさいぞ!! 何をやっている!!」


 鞭でピシッと床を叩いたような声だった。

 前の方を向くと、背の高い男の人が演壇の前に立っていた。


 それもただの男の人じゃない。

 着ているのは軍の制服だ。二の腕にはロードレシア王国の国章が縫い付けられ、その下には『魔術師』を象徴たるガーネットとともに宮廷が描かれていた。


 すると、突然椅子に座っていた受験生たちが立ち上がる。

 立っていた受験生も、その場に直立した。みるみる顔が青くなり、額から脂汗が滲み出てくる。


 ヴェルちゃんの顔も同様に、軍服の男を見て緊張していた。

 王都ではそんなに軍人が珍しいのかしら?

 それとも有名な軍人さん?


 私は声を潜めて、尋ねた。


「ねぇ、ヴェルちゃん」


「あ、あんたねぇ! 今、よく話しかけられるわね」


「あの人って、有名人なの?」


「はあ?? 何を言ってるのよ! あの方を知らないの?」


「えへへへ……」


 私は舌を出して、誤魔化した。

 ヴェルちゃんは「はあ」と深いため息を吐く。


「あの方はゼクレア・ル・ルヴァンスキー様。ローデシア王国魔術師第一師団の師団長」


「第一師団って、確か王宮防衛の要って言われてるエリート集団よね」


 いくら王宮の知識に疎い私でもこれぐらいのことは知っている。

 とはいえ、騎士団に所属するドレーズ兄さんの受け売りだけどね。


「そうよ。そして、今もっとも『勇者』に近いと言われている人よ」


「へぇ……」


「おいそこ! うるさいぞ。お前らも座れ。ここはまだ軍隊ではない。お前らはひよっこですらないんだからな」


 ゼクレア師団長はさらに怒鳴り付けると、受験生を睨んだ。


 癖ッ毛の強い柔らかな髪に、見ると石になってしまいそうな眼光鋭い三白眼。

 細身で高身長だけど、なよなよした感じはしない。

 まるで針金を何本も結って締めたような力強さを感じる。

 いや、もうそれは針金じゃない。一振りの剣に近い。


 ゼクレア教官が入ってきたことによって、空気はがらりと変わる。まるで獅子に頭を押さえ付けられたかのように静かになり、椅子を引く音や鉛筆を出す音だけが響いていた。


 試験用紙と答案用紙が配られ、ついに筆記試験が始まる。


『第1問 平日の昼、お父さんが公園のブランコに座っているのを発見しました。あなたならどうしますか?』


 ……………………えっ? 何これ?

 平日の昼、お父さんが……。えっ? ……どういうこと?


 いや、お父さんだってブランコで遊びたい時があるわよね。

 うちの父なんて、庭にある手作りのブランコを40歳で全力で立ちこぎしてたのを見たことあるけど。

 むしろ微笑ましいんじゃないかしら。子どもっぽいとは思うけど……。


 というか……。


 これが魔術師学校の試験?

 何かの間違いでは?

 普通試験ってさ。普通は『以下の魔術文字を解読しろ』とか『この魔術文字は、いつの年代の文字?』とか、そういうのじゃないの?

 私、だいたい文字が自動的に翻訳されてしまう。だから、文字の年代とかを覚えるのには苦労した。文法や文体の違いでなんとかわかるようになったけどね。


 書店の時にすぐにわかったのも、帯に『コーダ記』って書かれていたからだし。


 最初の頃、どの魔術文字が上級で初級なのかもわからなかったから、3歳でやらかした後、度々家に穴を開けてたし(その度に親から褒められた)。


 まあ、いいか。ひとまず『お父さんと一緒にブランコに乗る』って書いておこう。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 煤けた背中を見なかったことにして無言でそっと後ろにワン○ップ大関とスルメを置いて帰る……かなぁ(おいやめろ
[一言] 素直に「お父さんリストラされたの?」と聞く うん、思いやり無いね 違ってたら失礼だし 無難に「声は掛けずに様子を見る」でどうでしょう
[一言] サービス業とか平日が休みなとこもあるから平日って情報にはあんまり意味はないのかな? ここはたぶん二人いないと遊べない『お父さんをシーソーに誘う』が正解だと思います。
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