さぁ、わたくしの今までの苦しみを…罪を聞いて貰いましょう。
あれから、5日程経ったとある日の午後、
皇宮のテラスで、フィルネオ様とわたくしはいつもの如く、お茶をしておりました。
「今日はいい天気ですわね。」
「ああ…。もうすぐ夏だな…。」
午後の日差しが眩しくて、綺麗な皇宮の庭は、美し花々で彩られていてとても綺麗…
「ああ、今日の菓子は、ベリーのクッキーですのよ。サラが焼いてくれました。
よろしかったらお食べになって。」
覆いを被しておいた、布を外せば、そこにはクッキーが皿に盛られており。
「サラのクッキーか。ベリーのクッキーは特に美味くて、食べられるなんて嬉しい限りだ。」
フィルネオ様は、クッキーを手に取り、美味しそうに食べたわ。
そして、紅茶を飲んだ。
ええ…遠い日のアリア様のように…。
「夏祭りが近いな…。今年はどのような催しにするか…。其方はどのような夏祭りにしたい?」
「そうですわね。今年は野菜が豊作みたいですから、各地の野菜を使って、
お料理とか、お菓子とか屋台を出して、楽しめるお祭りにしたら如何でしょう。」
「成程。それも面白そうだ。」
でも…フィルネオ様…無理ですわ。貴方もわたくしも、夏祭りに出る事は叶わぬでしょう。
「そろそろ執務に戻らないと。」
フィルネオ様が立ち上がりましたの…そして、そのまま、倒れましたわ。
「フィルネオ様っーーー。医者をっ…」
わたくしはすぐに医者を呼ばせました。
ええ…医者だってこの毒を見分ける事なんて出来ません。特殊な毒ですもの…。
それにわたくしは皇宮の医者に、
「最近の皇帝陛下は仕事を無理しすぎて心配ですわ。少し静養すればいいのでしょうけれども。」
と、さりげなく会った時に相談という形で愚痴をこぼしておいたのですわ。
すぐにベットへ運ばれて医者の診察を受けたのだけれど、
医者は、
「過労でしょう。少し、静養なさったらいかがです?」
フィルネオ様は、頷いて。
「そうだな…。私には静養が必要かもしれぬ。」
「でしたら…離宮で静養するのは如何でしょう。皇太子ファルトも大分頼もしくなって参りました。ですから、ファルトと宰相に政務は任せて。わたくしも共に参りますから。
何かあれば知らせて貰えばよろしいのですわ。」
「其方の言う通りだ。私はしばらく静養する事にしよう。」
離宮と言っても、皇宮の広大な敷地の南端にあって、必要ならば、皇宮へはすぐに行ける場所なのですわ。
フィルネオ様は離宮で静養する事になったのですけれども、フィルネオ様の周りはわたくしの腹心で固めて、余計な邪魔が入らないように致しました。
さぁ…わたくしの長年の苦しみを…フィルネオ様。貴方に聞いて貰いましょうか。
離宮に移った夜、フィルネオ様の食事に眠り薬を仕込んでおいて、意識を失った所で、椅子に両手両足を縛り付けましたわ。
そして…。ハルディスとサラ、立ち合いの元、フィルネオ様に起きてもらいましたの。
「何故?私は縛られている?」
フィルネオ様は状況を把握し、わたくしの顔を見た途端、聞いてきましたわ。
「貴方には、病になって貰って、皇帝の位を退位して貰いますわ。皇帝はファルトに即位して貰います。安心なさって。わたくしがこれから先、ずっとこの離宮で貴方を看病してあげますから。」
「病になって貰うとは??…。ちょっと立ち眩みがしただけだ。それに私は退位する気はない。」
「わたくしが…決めたのです。フィルネオ様。貴方はわたくしがどれだけ苦しんで来たかご存知ないでしょう。」
さぁ…わたくしの言葉を…今までの罪を…苦しみを聞いて貰いましょう。
「ベリーのクッキー…美味しかったでしょう…。アリア様もあの日、わたくしと一緒に食べましたの…。そう、紅茶と反応する毒入りとは知らずに。
貴方はわたくしとの婚約を破棄し、アリア様を新たなる婚約者に選んだわね。
許せなかった。だってそうでしょう?どんなにわたくしが貴方を愛していたか。
どんなにわたくしが辛い皇妃教育を頑張ってきたか…。どんなにわたくしが…。
だから、ダンスの授業で急階段を降りて行く前を狙って、毒を盛ったのです。
面白いほどに…転がって落ちていきましたわ…。
思った通り、わたくしは…再び、貴方と婚約を結ぶことが出来ました。
なんて幸せなのでしょう。愛する貴方を再び手に入れることが出来ましたから。」
フィルネオ様は静かにこちらを見ているけれども、何も答えて下さらない。
「貴方と結婚出来て幸せだった。そう、貴方がレティシア様を側妃として呼ぶ日までは。
わたくしだって貴方の子を産みたかった。でも出来なかった。
だから何故???何故、アリアの妹を…レティシアを相手に選んだの?
そんなにアリアを愛していたって訳???
許せない。だから、殺したの…。物取りを装って、心臓を一突き、刃で刺して貰ったわ。
ねぇ…知っている?その時に、ファルトとマークを交換したのよ。
レティシアの子を次期皇帝にしたくなかったから。
犬にしてやったわ。ファルトを守る忠実な犬。いい気味よ。本来なら逆の立場なのに…。」
それでもフィルネオ様は何も答えて下さらない。
「ああ…やっとわたくしは貴方と穏やかな日を過ごす事が出来ると思っていたのに…
そう…貴方がファルトの側妃に、グリニス公爵家の娘、ティーネを望むまでは。
何故?そんなにアリアやレティシアが愛しかったの??
何故?許せなかった。あの女の血筋を皇室に入れるなんて…
だから、罪を着せて、死刑になるようにしてやったわ。
そして、死刑執行人の責任者に頼んだの。
皇帝の責務で、ティーネを処刑して頂戴って…
どうだった?愛する人の面影を残した女を自らの手で斬った感想は…
いい気味よ。
ああ…話し疲れてしまった。
さぁ…ハルディオ。皇帝陛下に毒を飲ませて頂戴。
頭が霞んでわたくしのいいなりになる毒を…これで、フィルネオ様は永遠にわたくしの物。
わたくしだけの物…」
ハルディオが毒の瓶を持って、フィルネオ様に近づこうとした時に、
信じられない一言を聞いてしまったわ。
「ああ…やはり君がアリアを殺したのか…なんて…なんて素晴らしい。」