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二つ目の罪(レティシア・グリニス公爵令嬢)

わたくしが、皇妃になって3年が過ぎようとした頃です。


「今宵はちょっと出かけて来る。」


「どちらへお出かけですか?」


「ちょっとな。」


フィルネオ様は、時々、供を連れて馬車に乗り、出かけているようなのです。


部屋で憂鬱な面持ちで、ため息をついていれば、メイドのサラが紅茶を出してくれて、


「心配ならば、ハルディスに言って調べて貰いましょうか?」


「いえ。いいわ。ああ、サラ。貴方はもう休んでいいのよ。お腹の子に障るわ。」


「有難うございます。お気遣い頂いて。」


サラはハルディスと結婚して、今、妊娠中なのですわ。羨ましい。

わたくしは、結婚して4年は経とうとしているのに、まだ子が出来ませぬ。

周りからは側妃をと、フィルネオ様は言われているのですが、ああ…もしかして、

出かけているのは…。

今宵も憂鬱で眠れそうにありませんわ。


それから3日後、護衛のハルディスが、調べておいてくれました。

ええ…気を使ってくれたのですわ。


「皇帝陛下は、グリニス公爵令嬢の元へ通われています。どうもご懐妊しているらしく、

近々、側妃に召し上げると、発表があるでしょう。その前に、リンディアナ様にお話があるとは思いますが。」


「グリニス公爵令嬢って…。」


「はい。亡くなったアリアの妹、レティシア嬢の事です。アリア様によく似ておられる美しい令嬢です。」


サラがその言葉に怒って、


「皇帝陛下は余程、アリアの事が忘れられないのですかね…。また、グリニス公爵令嬢ですか。」


あああ…本当に、また、あの公爵令嬢一族…。殺したアリアがせせら笑っているような気が致します。


「殺しますか?」


ハルディオが鋭い目つきで問いかけてきます。


「手の者を使って亡き者に致しますが。」


サラが、わたくしに向かって、


「リンディアナ様…。殺すのを待って頂けないでしょうか?ハルディオ、レティシア嬢は妊娠何か月なの?」


「3月位だという話だが。」


「私もそれ位です。もし生まれてくる日が近かったら、そして、互いの子の性別が同じだったら、リンディアナ様。すり替えたいと思います。私の子と、レティシアの子と。勿論、貴方様に子が授かった場合は、廃嫡する方向で持っていってくださってもかまいません。もし、私の子が男の子なら皇帝に、女の子なら女帝にしとうございます。」


まぁ…なんて面白い。レティシアの子を次代皇帝になんてしとうございません。

すり替えて、ハルディオとサラの子が皇帝になったらなんて素敵なんでしょう。


すり替えたレティシアの子は、奴隷に落としてやることも出来るでしょうけれども、

それでは、疑われてしまいますわ。だから、大事に育てて、皇帝を守る忠義の犬にしとうございます。


子が生まれるまでレティシアを生かしておいてあげましょう。


それから一週間後、フィルネオ様からお話がありました。


「レティシア・グリニス公爵令嬢は私の子を身ごもっている。側妃に迎え入れたいのだが。」


「おめでとうございます。皇帝陛下においては、跡継ぎが必要不可欠ですわ。

無事に子が生まれるまで全力にサポートしたいと思っております。」


「ああ、さすがリンディアナ。私の愛する妃だ。よろしく頼む。」



更に数日後、レティシアが皇宮入り致しました。

姉のアリアに良く似た面差し、ああ…フィルネオ様はアリア様を忘れられないのだわ。

階段から落ちて、亡くなったアリア様。


わたくしは時々、あの階段の近くを通るのだけれど、血だらけのアリア様が階段の下からじっとこちらを見ている時がありますの。

わたくしは、心の中でこう言ってやります。


貴方も辛い王妃教育を受けてきたのでしょう?でしたら、わたくしがどれだけ大変な皇妃教育を受けてきたか、共に受けてみてわかったはず…。そんなわたくしが、皇妃を諦めるはずないじゃない?わたくしは貴方に勝ったのよ。死者には何も力はない。消えなさい。


アリアの幽霊は悔しそうな顔をして、スっと消えてしまう…。


そう、死者になんて力はない。生きているわたくしこそ至高の存在、わたくしが生きやすいように、邪魔者を消して何が悪いの。

それにわたくしは、フィルネオ様を愛しているわ。あの方の心を溶かす女を許してはおかない。特に、アリアの一族だったら憎しみも強いわ。

わたくしから、フィリネオ様を盗ったあの女…。姉も姉なら妹も妹…許しはしない。


でも、わたくしは善女の妃と言われている程、慈愛溢れる皇妃。

レティシアの事を皇妃であるわたくしは、何かと面倒を見て差し上げましたわ。

皇妃として側妃の面倒を見るのは当たり前だけれども。


「子の誕生が楽しみですわね。レティシア様。どうか、お腹を温めて、無理をなさらずに良い子を産んで下さいね。」


「有難うございます。皇妃様。お優しいのですね。姉の言っていた通りの方だわ。」


「まぁ、アリア様がわたくしの事を?」


「とても良くしてくださる優しい方だと。生前言っていましたのよ。」


「アリア様が、ああいう亡くなり方をして、レティシア様は大変でしたのね。」


「ええ。あの時は父も母も、兄も皆、悲しんでおりましたわ。皆でこの国に移住して、

姉の幸せを願っておりましたのに。皇妃教育に疲れていたのでしょうか。」


「皇妃教育は大変でしたから…。ああ、あそこの階段から落ちたのですわ。

本当に思い出すだけでも…涙が…」


ハンカチで涙を拭いて、涙なんて流すのはわたくしにとって簡単なのですわ。


「あそこから姉が…」


「ええ…わたくしと楽しいお話をした後に…本当にわたくしがアリア様の体調に気が付いていれば…」


「ああ、皇妃様。なんてお優しい。姉の為に有難うございます。泣いてくださって。

姉も浮かばれますわ。」



それからも、わたくしは、レティシアが良い子が生まれるように、色々と気を使いましたわ。

フィルネオ様は、わたくしの態度に気を良くしたようで、


「さすが、リンディアナ。お前は出来た皇妃だな…」


「お褒めに預かり光栄でございます。皇妃たるもの当然ですわ。」


本当はすぐにレティシアを殺してしまいたい。でも…子が生まれるまでの辛抱。

ハルディオとサラとの子供とどうか同じ性別でありますように。


もし、すり替える事が出来たら他人の子を、次期皇帝として信じて疑わないフィルネオ様。なんだかとてもいい気味だわ。


そして、何か月か過ぎた頃、一日違いで、レティシアとサラは出産しました。

レティシアは公爵家に戻って出産したので、後から聞いたのですが、男の子を無事に産んでくれたようで。そしてサラの子も男の子。

ああ…神様はわたくし達の味方をしてくださったのですね。

レティシアが一週間後に皇宮に戻って参ります。子と共に。

戻って来る途中で、亡くなって貰いましょうか。


馬車で皇宮に向かう途中、レティシアは何者かに襲われて、心臓を刃物で一突きされて、殺されてしまいましたわ。

そう、何者かっていうのは、ハルディオと手の者達なのですが。

その時、赤子をすり替えましたの。レティシアの子をさらって、サラの子を置いてまいりました。


駆けつけた騎士達が馬車の中を見た時には、胸を刺殺されたレティシアと、火のついたように泣き叫ぶ赤子が残されておりましたわ。


フィルネオ様はとても悲しまれて、レティシアが殺されたと聞いて、騎士団を率いて、犯人探しを行いましたが、物取りの犯行ではないかという事で犯人は見つからなかったと…


「リンディアナ。レティシアの代わりに、この子の母となって育てて欲しい。次代の皇帝になる子だ。」


フィルネオ様から子を受け取ったわたくしは、あやすようにその子を抱きながら。


「かしこまりました。フィルネオ様。ああ、なんて可哀想な子。レティシア様が、殺されてしまうなんて…」


わざと涙を流して見せれば、フィルネオ様は、


「リンディアナ、其方の優しさに私は救われている。本当にお前は聖母のようだ…。」


「聖母だなんて…嬉しいですわ。そんなたいそうな物でもないのに。わたくしは。」


そう、2人も殺しているのだから、聖母のはずなんて無いのに。愚かな人…



それからのわたくしは、皇子ファルトをそれはもう、次代の皇帝にふさわしい教育を受けさせて、大事に育てましたわ。

ハルディオとサラの子として育てられているマークは、ファルト皇子を命をかけて守るようにと、小さい時から教育されてきた甲斐あって、今は騎士を目指す好青年に育ったのです。


わたくしも歳を取って、皇妃の公務の忙しさに、すっかり過去の罪について思い出す事も無く、フィルネオ様とはとても仲良く過ごしていたのですけれども…


まさか、又、人を死に追いやる事になるとは思いもしませんでしたわ。


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