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第5話 童貞ブタ野郎は赤髪美少女に夢を見る

 俺とレオナは、一通り胃を空にすると、互いに見つめ合った。

 レオナはゲッソリとうつろな表情をしている。多分俺も同じような顔をしているだろう。


「・・・・・・どうやらこれは現実のようね、喉が痛いわ」


 レオナは涙ぐんだ目で言った。


「あああああ・・・・・・どうしよう──明日からどうやって生きていけばいいのよーッ!」


 レオナは絶望の雄叫びを上げながらその場に倒れ込んだ。


「もう無理、お腹が空き過ぎて動けないわ。アンタ、なんか奢りなさいよ」


「なんで俺が」


「アタシの唇を奪ったんだからそれくらいは当然でしょ。野暮な男ね」


 レオナは拠り所であろう能力を失っても、変わらず強気だ。


「はぁーっ、仕方ねえなぁ」


 俺はレオナを担いで例の酒場に戻った。



 酒場に戻ると、マスターを始め店内に居たほとんどの人間が驚いた表情で俺の方を見てきた。最強の賞金稼ぎを担いでいるのだから、当然といえば当然だろう。

 俺は手近なテーブルにレオナを下ろした。

 下ろすと言うよりは落としたと言った方が正しいかもしれない。俺は疲れていた。

 テーブルに叩きつけられたレオナは、しばらく動かなかったが、やがてスライムのようにグネグネした動きで這いつくばるように椅子に取り付き、腰掛けた。少しでもエネルギーを節約しようと、全身の力を抜いているらしい。

 俺も続けて椅子に腰掛ける。


「何があったんだ一体・・・・・・」


 マスターが不審そうにテーブルまでやって来た。


「なんと言えばいいか──」


「何でもないわよ! いいからマスターご飯持ってきて、お金はコイツが払うから!」


 レオナは椅子に沈んでいるのではないかと思われるほど、グッタリと深く腰掛けながら喚いた。


「おいおい、いいのか? 今のこいつならお前さんの有り金全部吹っ飛ばすほど食っちまうぞ」


「出してやってください。殺されるよりマシですから・・・・・・」


「はーやーくー!」


 俺とマスターが小声でやり取りする後ろで、レオナが急かす。


「兄ちゃん、同情するぜ」


 マスターはそんな言葉を残して厨房に消えていった。


「で、さっきの話なんだが──」


「話は食べてからにしてちょうだい」


 レオナはいよいよ椅子と一体化しそうな軟体生物と化していた。人間が極限まで脱力すると、液体のように振る舞うことを俺は知った。


 しばらく呆れながらレオナを見つめていると、マスターが料理を運んできた。

 一人で店を切り盛りしているとは思えない速さで、厨房とテーブルを往復し、見る間に大きなテーブルに隙間なく皿が並んだ。

 この男にシャトルランをやらせれば、世界記録を打ち立てるだろう。

 肉、魚、スープにパン。

 ケーキにゼリーと言ったデザート類まで揃っている。


「キタキター!」


 料理を目にした瞬間、レオナは剛性を取り戻し、背筋を伸ばして両手を合わせた。


「いっただきまーす!」


 それからのレオナは凄かった。

 左右の手を駆使して、一分の無駄もなく口に飯を放り込んでいく。

 そして時々、料理に伸ばす俺の手を払いのけるのであった。

 俺も胃が空っぽで腹が減ってるのに・・・・・・。

 

 結局、テーブル上の全ての皿が空になり、また大量の料理が運ばれてくるのを20回繰り返すまで、俺が料理にありつくことはなかった。


「ふー、やっとお腹が落ち着いたわ。ほら、アンタも食べなさいよ」


 レオナはパンを一切れ差し出してきた。

 

「・・・・・・なあ。いくらなんでも俺を舐めてないか? 今は俺の方が強いんだぞ?」


 別に本気でレオナをどうこうしようと思っている訳じゃない。ただあまりの傍若無人ぶりを少し戒めておこうと思った。


「借り物の力で威張らないで、カッコ悪いから。それよりどうやったらアンタが奪った力がアタシに戻ってくるのか、作戦会議よ」


 この女、俺の忠告はどこ吹く風とばかりに無視して話を進めやがる。

 まあいい。


「作戦会議もなにも、俺には心当たりがないんだよ」


「ない訳ないでしょ、よく考えて」


「そう言われてもなあ──」


 言いながら、俺はスプーンを宙に浮かせて遊んでいた。


 待てよ──。


 なんで俺はこの力の使い方を知ってるんだ?

 まるで生まれた時から親しんできた能力のように自在に操れる。使い方が分かる。

 この世界に来た時には、そんな感覚はなかった。

 いつからだ?

 いつからこの感覚があった?


「──キスだ」


「はぁ?」


「お前にキスした時から、この力が流れ込んできた気がする・・・・・・。今は酔いが覚めてきたおかげでハッキリ力の使い方が分かるけど、思い返してみればあの時から・・・・・・」


「キ、キスじゃなくて人工呼吸! なによ適当なこと言って、そうやってアタシともう一回、その、キ・・・・・・チューするつもりなんでしょ!」


 レオナは顔を赤らめながら言った。

 意外と純情派らしい。

 こうゆうタイプには強気になれるのが俺だ。


「ふーん。まあ俺としては別にしなくてもいいけどなー。でも可能性があるとしたらアレしかないしなー」


 俺は頭の後ろで手を組んで、天井を見つめながら呟いた。

 我ながらなんてわざとらしいのだろう。

 

「・・・・・・分かったわよ」


「え? なんて?」


「試してあげるって言ってんの!」


「そうか、なら早速」


 腕を解いて顔を突き出す俺を、レオナは赤面した顔で睨みつけた。


「ここじゃイヤ! こんなに人がいる所で・・・・・・バカじゃないの!? 早くお金払ってきてよ!」


 親は言われるがままカウンターに向かい、マスターに金貨5枚を渡した。巾着が随分軽くなってしまった。


「ほら、さっさと行くわよ!」


 テーブルに戻った俺の手を引いて、レオナはそそくさと店から出て行った。

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