第七話 お買い物
第七話
俺がソフィアに与えた命令は“裏切るな”だけだ。
そのソフィアは俺の後ろをしっかりとついてきていた。
目が見えないと言うのが嘘のように、澱みない足で進んでいる。
ソフィアを買ってから、しばらく時間が過ぎた。
行先も告げずに黙々と歩いているから不安になったのだろう。
ソフィアから俺に質問してきた。
「御主人様。これからどちらに?」
「買い物だ」
「買い物ですか?」
「ああ。お前の見た目は汚すぎる。それに、冒険者になるには武器も必要だ。女には他にも必要なものも多いしな」
ああ、全く面倒だ。
男なら適当でも良かったが、女は別だ。
必要なものが多すぎる。
今日だけで三軒は回らないとな。
ああ忙しい。
とりあえず、最初の一軒目だ。
「適当な服を見繕ってくれ。数は五、六着ほど。それと下着とか靴とか、その辺も頼むよ」
南区の反対側、西区には沢山の店が並んでいる。
食べ物も服も、大抵のものはここで揃えられるだろう。
珍しいものがいいなら大通りだが、そこまで奇抜なものはいらないだろう。
「わかりました〜っ!」
そう言って、女性店員がソフィアを連れて試着室に入った。
途中、「きゃー! 可愛い!」とか「すっごくよく似合います! こっちも着てみてください!」と女性店員の楽しそうな声がした。
その後、他の店員も集まってきて、ソフィアの大試着会が始まった。
ソフィアの悲鳴のような声も聞こえたが、別に危機的状況というわけでも無いだろうと、俺は本を読んで時間を潰した。
しばらくしてソフィアが出てきた。
その表情から疲れが滲み出ていて、明らかにぐったりしている。
ふむ。少し悪いことをした気がするな。
「ん。終わったか」
「は、はい……」
「いくらだ?」
「十万七千八百ギルです」
「ほら。残りはチップだ」
俺は十万八千ギルを出した。
余った二百ギルはチップとして渡した。この店にはこれからも世話になるかもしれないからな。
「ありがとうございました〜っ! またのご来店をお待ちしてま〜すっ!」
やけに肌が艶々している女性店員に見送られながら、服屋を後にした。
荷物は俺が異空間に収納した。
次に来たのは日用品店だ。
一番大きな建物に入る。
「ついて来い」
「は、はい」
ソフィアは明らかに疲れているが、今日中に回らないとな後々が面倒だ。
ここ以外にもまだ行かないといけない店があるからな。
我慢してくれ。
日用品店を順番に回って行く。
買うものは決まっているから、早くに回る事ができる。
石鹸売り場にやってきた。
適当な石鹸を2つ手に取る。
「どうだ?」
「え、その、どうだ、とは?」
「お前の好みの匂いか、という事だ」
「えと、私はどちらかと言うと、そちらの方が」
「ふむ」
ソフィアが選んだ方の石鹸を買い物カゴに入れた。
商品の説明でも、女の子の肌には良く合うと書いている。
これなら肌荒れもないだろう。
その後、石鹸売り場ではシャンプーやリンスも買った。
それから歯磨き粉やブラシも買った。
「こんなところかな」
あのもう一つ買うものがあるんだが、男の俺じゃあな。
すみません、とまたも女性店員に声をかけた。
女の子のあれと言うとすぐに理解してくれて、紙袋に包んで渡してくれた。
「あ、あの、御主人様。それは……」
「言うな。俺も恥ずかしいんだよ」
ソフィアは顔を赤くしていた。
多分俺もそうだろう。
次に向かったのは武器屋だ。
ここが今日一番の目的地でもある。
「ほお」
店に入ると、そこは中々の品揃えだった。
剣、盾、槍、斧、短剣、弓矢などなど。
さらに魔法職の杖などもあった。
戦士の鎧や魔法使いのローブなども売っていて、品揃えならこの街で一番なんじゃないか?と思うほどに充実している。
「さて。まずは杖だな」
俺は《聖眼》を発動させて、武器の品質を見た。
どれも、品質はあまり良いとは言えない。
ソフィアは聖女だ。
その力を発揮するなら、
神官系の杖を探すが、中々無かった。
だが一つだけ、無造作に樽に突っ込まれた杖があった。
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《聖杖ラディウス》
品質:《特別級》
備考:街の鍛治師グラン・フェルストが鍛えた聖杖。聖なる力を持つ神官系の職業を持っていると、回復系の白魔法の効果を1.3倍にすることができる。
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何故こんなものがここに? と言う疑問は置いておこう。
鑑定系のスキルを持っている人は少ない。
俺のように品質を見極められなかったのだろう。
「持ってみろ」
「はい」
ソフィアに渡し、握らせる。
初めて持ったにしては、中々に様になっていた。
「どうだ?」
「そ、そうですね。初めて持ったと思えないほど、手に馴染みます」
「それなら戦えそうか?」
「は、はい」
「よし。ならそれを買おう。次だ」
ソフィアに杖を持たせたまま、次は神官服の方に行く。
さっきと同じように《聖眼》で探すと、また良いものがあった。
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《聖衣グラディウス》
品質:《特別級》
備考: 街の裁縫屋ベール・フェルストが縫った聖衣。聖なる力を持つ神官系の職業を持っていると、防御系の白魔法の効果が1.3倍にすることができる。さらに靴には疲労回復の効果があり、長時間歩いても足に疲労がたまらない。
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まただ。
さっきの聖杖もそうだが、同じ姓を名乗る者が作っている。
フェルスト、か。一体何者なんだ? こいつらは。
だが、品質がいいのは確かだ。
それにこの聖衣は靴までセットになっている。
疲労回復は中々いい。
ソフィアは後衛職だから、長時間の移動は疲れてしまうだろう。
「着てみろ。一人で着れるか?」
「は、はい。大丈夫です」
そう言って、ソフィアは試着室に入っていった。
少ししてソフィアが出てきた。
見た目はかなりフィットしていると思う。
まるで服がソフィアに大きさを合わせてるみたいだ。
「どうだ?」
「す、すごく良いです。動きやすいですし、身体が軽いような気がします」
「よし。なら、それを買おう。着たままでいいから、着いてこい」
返事を聞く前に会計に歩き出す。
「主人。これらの会計を頼む」
「全部でニ十三万ギルです」
ちょうど出して、店を出た。
中々良い買い物ができた。
店の外に出ると、あたりはもう暗かった。
いつの間にかこんな時間になっていたんだな。
冒険者ギルドに行くのは明日にしよう。
今日はもう疲れた。
ソフィアも限界だろう。
「さて。宿を探してーーーー」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
武器や魔道具には品質があります。
その段階は
《神話級》
《伝説級》
《最上級》
《特別級》
《普通級》
と言う五段階です。
基本的には、《神話級》や《伝説級》が市場に出回ることはありません。もちろん、武器屋などで売り出されることもありません。
なので、武器屋で売り出される武器で品質が一番上なのが《最上級》になります。
普通は《特別級》は特別なケースに入れられて保存されたりしていますが、何故か《聖杖》《聖衣》は《普通級》と一緒に売られていました。
それは何故でしょうか?
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
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