第五話 奴隷市場
冒険者ギルドを出た後、俺は街を適当に歩いていた。
最低だ。
何の関係もない、ただの受付嬢のアンナに怒鳴ってしまった。
「おーい!」
怖い思いをさせてしまった。
後で謝らないといけない。
「ちょっと! そこの!」
それはさておき、パーティか。
仲間を募集するか?
それは無理だ。
「そこの暗黒騎士の旦那〜!」
俺は誰も信用しない。
仲間なんて作る気もないし、できるわけがない。
「ちょっと!」
「あ?」
「ひぃ!」
さっきならうるさいと思っていたが、俺を呼んでいたのか。
俺はほぼ反射で剣を呼び出し、男の首に突き立てた。
「へ、へへ。その物騒なもんをしまってくだせぇ」
顎を動かして、剣を離せと言う事だ。
……ちっ。
俺は剣を異空間に戻した。
「ヘヘヘッ。オイラは冒険者で情報屋のダントンって者でさぁ。オイラなら旦那の望む情報を持ってますぜ?」
急にそんな事を言い出した。
情報? 何のことだ。
「……何が言いたい?」
「絶対に裏切らない仲間が欲しくないですかい?」
「そんなものがいるわけないだろう」
「ケケケッ。それがいるんだよな〜」
「……教えろ」
「そんなに教えて欲しいならさ〜」
指で輪っかを作るダントン。
ちっ。
「ほらよ」
適当に金を渡した。
一日分の酒代にはなるだろう。
「へへっ。毎度あり〜!」
嬉しそうに金を数えるダントン。
「それで情報ってのはなんだ?」
「奴隷、でさぁ」
「奴隷だと?」
「ええ。奴らは主人の命令には逆らえやせん。“嘘をつくな”と言えば嘘はつけず、“死ね”と言えば死にやす」
奴隷か。
その発想はなかった。
「そ・れ・に」
指で丸を作り、そこに指を突っ込み、動かす。
下品な……。
まあ、最後のやつはともかく、奴隷なら命令を無視できない。
裏切れない奴隷なら、俺もパーティを組めるだろう。
奴隷市場は街の南区にあった。
活気がある奴隷市場だ。
帝国でも奴隷市場はあったが、ここまで賑やかじゃ無かった。どこか陰湿で重たい空気が漂っていた。
だがここは、奴隷が自ら宣伝して、自己アピールしている。
帝国では奴隷は皆、死んだ目をしていたが、こっちでは奴隷の意味合いも違うのかもしれない。
「お兄さーん! 私なんてどぉ? 料理でも夜伽でもなんでもやりますよー!」
「俺は戦士だ! 力仕事なら任せてくれ! もちろん、戦闘もな!」
「私は魔法が使える。
色っぽい女に、ガタイのいい大男、そしてエルフの魔法使いもいる。
その他にも様々な種族、職業を問わずいた。
だが俺はそんな奴隷達を無視する。
コイツらの目には野心がある。
隙があれば主人から逃げ出してやる、という顔をしている。
金はいくらでもあるが、わざわざ反抗心のある奴を奴隷にする気はない。
「主人。いるか」
「はい。どんな奴隷をお求めですか?」
近場の奴隷商人を呼んだ。
一瞬で俺が何故奴隷商人を呼んだのかを察知した。
流石は商人だ。
「野心がないやつ、あるいはそれだけの能力がない奴。それと戦闘ができるやつが欲しい。種族も職業も問わない。冒険者として活動させたい」
「ふむ。戦闘ができるやつは沢山いますが、野心が無い奴隷ってのは難しいですね。どんな奴隷でも、自由になってやるという野心を持っていますから」
「それでも一人くらいいないのか?」
ふむ、と奴隷商人が悩む仕草をした。
それから少しして
「一人だけいます。が、アイツはちょいとーーーー」
「訳ありか?」
「まあ、そうですね」
ふむ。奴隷に訳ありってのはよくある事だ。
たとえば病気持ち。
だが俺は元聖騎士で、しかも聖騎士のスキルを今も使える。
大抵の病気は治せる。
「まあいい。見せてくれ」
「分かりました。奥におりますので、着いてきてください」
奴隷商人は店の奥に入って行った。
俺もそれに着いて行く。
店の奥に入ると、外には出ていない沢山の奴隷がいた。
檻の中から俺を威嚇している獣人の男や、身体を震わして怯えているエルフの女性。
その他にもたくさんだ。
この奴隷達を表に出せないのは俺達、客に反抗的な態度をするからだろう。
「コイツです」
奴隷商人がある檻の前で立ち止まった。
そこにいたのは両目を布で隠した人間の女だった。
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