三十二話
ララを連れて、俺達は冒険者ギルドに入った。
いつもの様に心配したアンナが駆け寄って来た。
「オルガンさん! 大丈夫ですか、血だらけですよ!?」
「ただいま。傷は大丈夫だよ。ギルマスに話をしたいんだが、今いいかな?」
「ギルマスにっ? 分かりました。直ちにアポを取って来ます」
と、アンナは急いで階段の上に駆け上がって行った。
このギルドでは二階にギルドマスターの私室や受付嬢達の着替え場、そして応接間がある。
俺は冒険者になってからの功績から、ギルドから強烈な信頼を得ていた。
その信頼は同業の冒険者だけでは無く、受付嬢のアンナや、ギルドマスターのマカンからも一身に受けている。
「オルガンさん! すぐに面会できる様です!」
だからこそ、こうしてすぐにギルマスと直接話すことが出来た。
「……信頼されているのね」
「オルガン様ですから」
ララティーナが驚くが、当然とばかりにソフィアが言った。
その後、アンナの案内で俺達三人は応接室に通された。
応接室には貴族や身分の高い役職の人間と接待する場所だ。だから壁には高級そうな絵画や棚に陶器が飾られていた。
テーブルを挟んで向こう側の紅牛革のソファにマカンが座っていた。
「やあ。まあ、まずは座って」
薦められるがままに、俺はマカンの向かい側の紅牛皮のソファに腰を下ろした。
それに倣う様にソフィアとララティーナが左右に座る。
「アンナ君。お茶を人数分頼むよ」
「分かりました」
少しして、アンナが人数分の紅茶を淹れた。
「それにしても、まさかSランク冒険者【魔導女帝】ララティーナ殿がお越しになられるとは思ってもいなかったな」
「初めまして。【蒼槍の貴公子】殿にお目にかかれて光栄ですわ」
「参ったな。その二つ名は嫌いなんだ」
「いえいえ。貴方の活躍を前にすれば、この二つ名も納得です」
「Sランク冒険者にそう言っていただけるとは感激だよ」
しばらくはララティーナに好きなように話させていたが、何やら気になる話が聞けた。
【蒼槍の貴公子】か。中々、キザな二つ名だ。
今度図書館かどこかでマカンの武勇伝を調べてみるか。面白そうだ。
「ところで、ララティーナ殿はオルガン君とどういった関係なんだい?」
「兄です」
「っ、へえ。それはびっくりしたな」
マカンは声は上下させなかったものの、珍しく眉毛を動かして動揺を露わにしていた。
ただ、このまま二人の話が続けば本題に入るのが遅くなりそうだ。長居はする必要も無いので、さっさと帰ろう。
「世間話はその辺でいいだろ。本題に入ろう」
「おっと、それもそうだね。二人の報告を聞こうか」
「亜種が山ほどいたぞ」
俺の報告にマカンは真面目な表情に切り替わる。
「かなりの数で、ララが来なかったら俺たちも危なかった」
「君達が圧倒される程なのか」
「タチの悪さで言えば、前回の魔王事件以上だな」
あれは一体一体はそこまで脅威では無かった。
だが、亜種となれば個体ごとに強力な上に、数もいた。正直、俺達はあのまま殺されていただろう。
マカンは紅茶を飲みながら「亜種の生き残りは?」と聞いた。
その辺りは亜種を倒したララティーナが答えるのが適切だろう。
「ほとんどは焼き殺しましたが、森の何処かに“ハグれ”が数匹は残っていると思われます。しばらくはあのはBランク以上が最低戦力になりそうですね」
「その通りだね。Cランク以下には立ち入りを禁止させよう」
流石に仕事が早い。
マカンの言う通り、この一時間後には森への立ち入りが制限され、街の周辺の巡回も増やされていた。
細かい説明をした後、俺達は帰っていいことになった。
クエスト料を貰って宿に帰る。
ララティーナも宿も何も取っていなかったので、一緒に宿に帰った。
「あ、おかえりなさい! オルガンさん!」
俺達が寝泊まりしている宿【金色の雫】に戻ると、看板娘のミーシャちゃんが出迎えてくれた。
すでに数ヶ月の付き合いになるが、すっかり懐かれてしまった。
「ただいま、ミーシャちゃん」
「はいっ! きょうのばんごはんはお母さんとくせいのやさいのシチューです!」
「それは美味しそうだな」
「はい! たのしみにしていてください!」
ミーシャのお母さん、フランの料理は絶品だ。
噂だとかつては王宮の料理人だったとかなんとか。
事実かどうかは定かでは無いが、料理が美味しいのは確かだ。
ソフィアはフランに弟子入りしていて、今もフランに料理を習っている最中だ。
「? そちらのかたはどなたですか?」
っと、そこでミーシャがララティーナに気付いた様だ。
「俺の妹なんだ」
「いもうとさん!」
「初めまして。ララティーナです」
「ミーシャです」
一生懸命、自己紹介する姿が微笑ましい。
ララティーナも思わず頬を緩めていた。
「前にソフィアが使っていた部屋を借りれるかな?」
「はい!」
現在、ソフィアは俺と同じ部屋で生活している。
だから前の部屋は空いていた。
他の人が入っている可能性もあったが、どうやら人は入っていなかった様だ。
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