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第二十九話 リンドバルドの英雄

 冒険者の街リンドバルド。

 数百人を超える冒険者が集まるこの都市には三カ月前、英雄が誕生した。


「オルガンさん、この前はありがとう!」

「オルガンさん! また試合してくれよ!」

「オルガン、今日の打ち上げには付き合ってもらうぜ!」


 街を歩けば賞賛を受け、同業者ばかりのギルドに入れば一瞬で囲われてしまう。


 英雄オルガン。三カ月前にこのリンドバルドの街を襲った、数万を超える魔物をたった一人で討伐し、魔王をもその手で撃退してしまった。

 どんなに傷を負っても立ち上がり、凄まじい強さで立ち上がるその姿はまさしく英雄と呼ばれるに相応しいものだった。


「はは……」


 ただ、本人がそれを甘んじて受け入れているとは限らない。内心では恥ずかしさに我慢しながらも、何とか上手く人付き合いをやっていきたいと思っている。


 彼も前回の功績でAランク冒険者に任命され、Sランク冒険者への道ももうすぐと噂されている。

 

 そりゃあ、人気も出てくる。


「ふふっ。まだ慣れませんか、オルガン様?」


 そんな右往左往している己の主であり、愛しい人の声に面白そうに微笑むのはオルガンの恋人のソフィアだ。


 その首には今も生々しい鉄の首輪が付けられているが、ソフィアが「これはオルガン様とのつながりだから」と外すのを頑なに拒んだのだ。


 今では彼女もBランク冒険者となり、微笑みながら傷を完治させるその姿から《微笑の神官》と呼ばれている。


 そんな彼女は両目に包帯を巻き、盲目である事が分かる。しかし、もう街の住民達はその事に違和感を覚えておらず、ソフィアが盲目でもしっかりと強いという事を知っていた。




 そんなオルガンとソフィアは仕事を受けるために冒険者ギルドに入るといつもの受付に向かって、受付嬢から話を聞いた。


「実は魔物が大量発生しているんです。帝国側から、まるで何かから逃げる様に」

「帝国側から……?」


 帝国は元々、オルガンの出身地だった。と言っても今では何の関わりも無く、皇帝と婚約者、かつての部下からも裏切られて、完全に愛想も尽きている。


 だから帝国がどうなっていてもどうでもいいのだが、一般市民に気概が及ぶのは見逃すわけにはいかない。


 それに、その他にもいくつか気掛かりな事がいくつかあるからな。


「そのせいで生態系が崩れ、我々でも現在、どのような魔物が生息しているのかが判断しかねる状況なのです」

「まあ、だろうな。今のところの被害は? 村が十三、街が二つ、Aランク冒険者まで犠牲になっています」

「Aランクが? なら、ドラゴンでも出て来たか?」

「それは……」

「それも不明、か……」

「すみません」

「いや、いい。その依頼、受けるよ」


 王国は俺もソフィアも骨を埋めたい場所だと考えているからな。何とか守ってやりたい。


「本当ですか!? ありがとうございます! あ、でも、危険があれば……」

「勿論、すぐに撤退するさ。明後日にはソフィアとデートの約束もしてるしな」

「もう、オルガン様ったら……」

「独身の私の前で砂糖を吐かないでくださーい。ああ、私も彼氏欲しいよー…………」

「あはは……。それじゃあ、俺達は出発は明日にするよ」

「了解です。ご武運をお祈りします」

「ありがとう」

「また後で」


 そうしてギルドを後にした。






 俺とソフィアは今、一軒家を購入して一緒に住んでいた。

 住宅街にあって、古い代わりに改築工事をしたらしく、広くて水回りも充実している。


 その割に売れなかったのは強力な幽霊(ゴースト)が住み着いていたからだ。

 街の退魔師(エクソシスト)でも祓い切れずに持て余していたらしく、ソフィアが祓う代わりに格安で譲ってもらった。


 その一軒家に家具を買い込み、俺達は暮らしている。


「今日ははんばーぐにしますね、オルガン様」


 我が家のキッチン担当はソフィアだ。相変わらずの鼻の良さで包丁を自在に操って、肉や野菜を刻んでいる。


 俺は食卓の上を拭いたり、皿の準備をしたり、ソフィアの手伝いをする。


 準備ができると二人で食卓を囲んで食べ始める。

  

「「いただきます」」


 これは惚気も入っているかもしれないが、ソフィアの作った料理が一番旨い。


 この三カ月で高級料理を食べたり、色々な店で食べて来たがソフィアの料理に勝る物は何も無かった。


「ご馳走様でした」

「お粗末様でした。ふふ。また沢山食べてくれましたね」

「いくらでも食べれちゃうんだよ」


 山盛りあった料理もその七割はオルガンの胃袋に消えて行った。


 ソフィアも作る側としてはとても美味しそうに、しかも全て食べてくれるなんて、とても作り甲斐がった。


 まあ、それとは別に好きな人に料理を振舞う楽しさもある。


 その後は二人で皿を洗って、いつもなら俺が先に風呂に入るのだが――――。


「今日は一緒に風呂に入るか」


 何故だか、一緒に入りたくなった。


「勿論良いですよ」


 それにソフィアは了承してくれて、一緒に風呂に入った。


 湯舟の中でイチャつき過ぎてのぼせかけ、夜は二人でベッドで……。




 疲れ果てて眠る二人の左手の薬指には銀色の指輪が輝いていた。




いやー、最近書いてる作品が伸び悩んでて癒しが欲しいです……。

なのでブックマークとか高評価とか感想とか欲しいですお願いします。


次週、妹降臨!?

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