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二十二話 緊急クエスト⑧





 そんな事があったのか。


「ありがとう、ソフィア」

「いえ、私は御主人様の奴隷ですので。当然のことです」


 そう言いながらも、ソフィアは俺の傷を治療するのをやめない。

 集中しているみたいだ。


「御主人様。私、御主人様にずっと黙っていたことがあるんです」


 ソフィアが何かを決意したように語り出した。


「私は共和国の聖女でした」

「っ!」

「そして、かつての仲間に裏切られました」


 ソフィアから告げられたのは、衝撃の事実だった。

 共和国の聖女だったのは知ってたが、ソフィアも裏切られていたのか。


「彼らとは小さい頃から友達でした。幼馴染というやつです。それなのに、裏切られました。私が“魔神の右腕”の呪いを祓えなかったせいです。最初は、最初は彼らを恨みました! 正直、今でも彼らを恨んでます! 死んでしまえばいい! あんな奴ら、大嫌いです!」


 ソフィアが叫んだ。

 目を覆う布は涙で濡れ、俺の服を強く握っている。


 そんなに怖いなら、話さなくてもーーー。


 俺はソフィアを止めようとした。


「でも、感謝もしてるんです」


 だが、その一言で止まった。

 感謝してる?

 裏切られたのに、なんで……。


「御主人様に出会えました。御主人様が、私を買ってくれた。御主人様は言ってくれました。私じゃダメだった、この目の呪いも御主人様が解いてくれると。初めての希望でした」


 ソフィアは俺を真っ直ぐと見つめた。

 いつの間にか、身体の治療は終わっていた。


「御主人様。私は、御主人様を信頼してます。この世の誰よりも」


『嘘よ!』

「ウッ……!」


 まただ。

 皇女の声が響く。


 身体が震える。

 手足に力が入らない。


「そして、御主人様も私を信頼してくれているはずです!」

「信頼……」

「そうです」


『信頼? 笑えるわね。貴方が信頼していた人たちはどうなったの? 皇女わたしも。リーガスも。ロンドも。帝国が貴方を裏切った。ほら、貴方が信頼した人はみんな裏切るのよ?』


「そんなのは、ありえない! 俺は誰も信頼しない! 誰も信用していない!」

「いいえ、御主人様は私を信頼しています! だって、信頼していない人に背中なんて預けません!」


 っ!


「違う! 俺は裏切られるのが怖かった! だから、俺は奴隷を、お前を買ったんだ! 裏切られるのが怖かったから、命令に逆らえないお前を!」

「御主人様は私に“勝手に動くな”とは命令しませんでした。それでは、私は簡単に御主人様を殺せました。御主人様、気づいていましたか? 戦闘中、私のことを信頼していると、仲間だと言っていたことを」


 ……俺が、信頼していると? 仲間だと?


『そう言えばそうね。また”裏切られたい”のかと思ったわよ。とんだドMだわ、ってね』


「御主人様はきっと、ドがつくほどのお人好しなんです! きっと、貴方を裏切った人が御主人様を裏切らなくても、いつか誰かが裏切っていました! それほどまでに、御主人様は人を惹きつけるんです!」


『そう! だから貴方は人に裏切られるのよ! 貴方は自分で不幸を呼び込んでるの!』


 俺が、自分で?


『そうよ! それなら最初から誰もいない方がマシ! そう思わない!?』


 そうだ、そうだよ。


『ずっと孤独! でも、誰にも裏切られない最高の日々よ!』


 そうだよな。


「だったら、最初からーーー」

「だから、私が生涯、貴方を支えます!」

「っ!」

「私は絶対に裏切らない! たとえ、御主人様が虐殺者になっても、魔王になっても、私だけは貴方の仲間でいます!」

「そんなの、そんなの分からないじゃないか!」

「わかります!」

「わからない! 絶対なんてーーー」

『そうよ! コイツは必ず貴方を裏切ーーー』

「私は貴方が好きだから!」

『「っ!」』

「私は貴方が、御主人様が、オルガン様が好きです。誰よりも大好きです。この気持ちだけは、嘘じゃないです!」

「……ッ」

『嘘よ! これも、コイツの嘘!』

「たとえオルガン様が私を拒絶しても、どんな手を使ってでも貴方についていきます! そして、貴方を幸せにして見せます!」


 ふーっふーっ、と鼻息を荒くしたソフィアが呼吸を整えている。

 叫びすぎて、過呼吸になったのだろう。

 胸を押さえて、青ざめた顔をしている。



 俺は、馬鹿だ。



 女の子にここまで言わせて、黙っているのか?


 それが男か?


『嘘よ! コイツだって、いつか貴方を裏切るわ!』


 違うだろ。

 立ち上がれ。

 剣を握れ。


『貴方はいつか一人ぼっちになる! 必ず!』


 俺は、冒険者。


『……やめて、消さないで』


 俺はソフィアの主人だ。


『やめてよ……。私はずっと、ずっと……そばにいるから、だから……』


 もう、俺は恐れない。

 裏切られる? 上等だ。

 もう、裏切られても関係ない。

 俺が全部守ってやる。


『……い、や…………ッ! オ、ルガン………………』


 いつの間にか、頭痛は消えていた。

 手足の震えもない。


 俺はしっかりと立ち上がった。


「オルガン様……」

「なあ、ソフィア。俺はお前を信頼してたんだな」

「……はい」

「ありがとうな」

「……はい」


 ……それだけじゃない。

 

 俺はこの日常で、あの街で、あのギルドで毎日を過ごす内に人の暖かさを知った。

 

 あの人たちを失いたくない。

 だから、守る。


 もしもそれで裏切られたら、その時考える。


 【全部護る】


 俺はもう、この信念だけは守る。


「一つだけ、聞くぞ。ソフィア」

「はい。全てお答えします」

「俺はあの時、お前に俺を追ってくるなと言ったよな?」

「はい」

「なぜ、ここに来れた?」


 そう。これが一番の疑念だ。

 奴隷の首輪の命令は絶対だ。

 それを破るなんて、そんな事……。


「それは、御主人様のもう一つの命令のおかげです」

「もう一つの命令?」


 たしか、俺がソフィアにした命令は二つ。

 “俺に着いてくるな”。そして、“幸せになってくれ”。


「私は御主人様が大好きです。御主人様とずっと居たいです。御主人様と一緒にいることが幸せなんです。だから、幸せになるためにここまで来ました」


 そうか。目には目を。歯には歯を。

 命令には、命令を。ってか。


 ははっ。


「……俺もだよ」

「え?」

「俺も、お前が大好きだ。ソフィア」

「ーーーッ!」


 だけど、それより先にこの戦いを終わらせよう。


 ーーー仲間達と一緒に。







ここまで読んでいただきありがとうございました。

ブックマークや評価(★★★★★)などよろしくお願いします。


帝国に裏切られた死霊術師ですが、何故か死の女神に惚れられました。〜死の女神の力で最強の英雄達を生き返らせて、無敵の仲間達と一緒に楽しく暮らします〜

https://ncode.syosetu.com/n2899gt/


是非、読んでください。

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