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第二十話 緊急クエスト⑥



『オルガン』

『ねえ』

『早く死んじゃいなさいよ』


 皇女の声が聞こえてくる。


「クソッタレめ……」


 頭が痛い。

 頭痛が止まらない。

 

 その時だ。ナイフのような羽が飛んできた。


 それはフラガラッハで羽を振り払い、空を見た。


「キュィイイイ!」


 鳥人、ハーピーだ。

 身体と頭は人間だが、手足は鳥だ。牙が鋭く、簡単に人の肉を切り裂く。


「《聖短剣ソルディア》!」


 短剣を召喚した。

 “増殖”し、空のハーピーに向けて投げる。


 ーーー届かない。


 奴らは高かった。

 俺の力じゃ届かない。


 嘲笑うようにハーピーが鳴く。


 ならばと、一度ソルディアを戻した。


「《聖弓アルテミス》」

『私を一人にしないで』


 今度呼び出したのは、弓だ。


 俺の身長と同じくらいの大きさだ。純白の弦掴が輝いている。


 思い切り、矢を弦にかけて引く。


 矢が放たれる。


 凄まじい勢いだ。

 風を切り、ハーピーに向けて突き進む。


「ギュィイイイイ……ィ!!!」


 そしてハーピーの土手っ腹に風穴が空いた。


 だが、次から次にハーピーが出てきた。

 それだけじゃない、ワイバーンやグリフォンまで出てきた。


「シュッ! シュッ! シュッ!」

『私を置いていかないで』


 だから、それを次々に打ち抜いた。

 連続で矢を放ち、頭に、腹に、羽に穴を開ける。


 だが空ばかり見ていると、地面から攻められる。


 三つ首の番犬ケルベロスだ。


「ガァアアア!」

「チィ!」


 アルテミスを消して、また新しい武器を取り出した。


「《聖槍ブリューナク》!」


 今度は聖槍ブリューナクだ。

 槍に五つの刃が付いている。

 真っ赤な刀身が太陽の光に反射して輝いている。


「燃え盛れ!」

『私を愛して』


 ブリューナクの刀身が発火した。

 炎が燃え盛り、熱量だけで辺りを灼熱に包んだ。


 ブリューナクを振るい、ケルベロスの首の一つを切り落とした。


 そして切り落とした首の断面に突き刺した。


「燃えろおおおお!!」


『愛してる』


 火力をさらに上げる。

 どこまでも。

 刀身が燃え、ケルベロスを中身から燃やした。


 まだだ。


 このまま火力を上げろ。


 炎が燃え盛る。全てを焼き尽くすように。

 ケルベロスを包み込み、俺までも纏めて、さらに周りの魔物達も纏めて燃やした。


「はあ、はあ……」


 段々と疲れが出てきた。

 

 地面に膝をつき、ブリューナクも元に戻った。

 

『ねえ、オルガン』

『今度は海に行こうかしらね』

『愛してるわ』


 足が止まれば皇女の声が波のように襲ってきた。

 呪縛のように、俺の精神を削っていく。


 その時だ。


「グオオオオオオオ…………ッッ!」


 凄まじい雄叫びが響いた。

 大地が揺れ、身震いするほどだ。


「ーーーッ!? グッ……ウッ、アァァァ…………ッ」


 その瞬間、俺の横っ腹に強い衝撃を喰らった。

 巨人が振るったのは堅い拳だ。

 俺の身体はゴム玉のように何度か地面を跳ねて、数十メートルも吹き飛んだ。


「グアアアアアアッッ!!!」


 痛みで絶叫する。

 この瞬間だけは、頭痛を忘れられた。


 俺を吹き飛ばした張本人を見た。


「あっ、はあ……今度は巨人かよ……」


 それは巨人だった。正確には、サイクロプス。一つ目の巨人だ。

 身長が軽く十数メートルを越える。筋肉質で、石の斧を持っている。


「グボァ……ッ!」


 腹から鉄の味が込み上げできた。

 喉まで上り、血を吐いた。


 くそったれめ、内臓がやられた。

 いや、潰された。


「……ぶっ潰してやる」


 口の血を拭い、なんとか立ち上がった。

 周りにも雑魚がいるが、無視でいい。


「《魔戦槌シャルーア》!」


 俺が召喚したのは、戦鎚。

 形は片手棍だ。


 能力は“破壊”。

 あらゆるものを破壊する。


「潰せ!」


 空高く跳ね上がり、サイクロプスの頭上に飛んだ。


 シャルーアを思い切り振り下ろした。

 サイクロプスの頭が簡単に潰れた。


 サイクロプスの巨体が倒れ、下敷きになった魔物達が潰れた。


「次ぃ!」


 シャルーアを振り回して、周りの魔物達をぶっ潰していく。


「うおおおおおお!!!」


「ブギャアァァァ!!」

「グギャア!!」

「ブシャアアアア!!」


 数多の魔物が俺に立ち塞がる。

 オークにゴブリンに大蛇、とにかく大量の魔物が押し寄せる。


 だが、そんなものじゃ俺は止まらない。


 俺はシャルーアで魔物達を粉砕していく。


『オルガン』


 そんな時でも皇女の声は聞こえてくる。

 だが、声を振り払う。


「ウォロロロッ!!」


 現れたのはレッドドラゴンだ。

 火を吐くドラゴンで、火山に生息している。

 ここにいる魔物の中で最も強い。


 その他にもブルードラゴン、イエロードラゴン、グリーンドラゴン……。

 大量のドラゴンだ。


「《魔槍グングニル》!」


 それなら、最強の武器を呼び出す。


 魔槍グングニル。

 かつて、漆黒竜を撃ち倒した最強の槍だ。


「貫け!グングニル!」


 そして、グングニルを投げる。


 大量の魔物を巻き込みながら、飛んでいく。

 そしてレッドドラゴンの腹を突き破った。


 だが、それだけじゃ終わらない。


 グングニルはレッドドラゴンの腹を突き破ってもなお、止まらない。


 自分で飛ぶ方向を変え、ぐんっと曲がって、他のドラゴンを追尾する。


 どれだけ逃げようとも、グングニルからは逃げられない。


 標的に定めたドラゴン達を次々に葬っていく。


 そして、全てのドラゴンを倒し終えた時、俺の元に戻ってきた。


 ズドォォンンンンン

 ズドォォンンンンン

 ズドォォンンンンン


 ドラゴン達が次々に空から落ちてくる。

 それに巻き込まれて、何匹も魔物が死んでいく。


 そのくらいじゃ、数は減って減らないようなものだ。


 だがそれでも、俺の闘志は消えることはない。


「まだまだだ! かかってこいやぁ!」


 もう一度、グングニルを握った。

 

 その時だ。



 



















『愛してるわ、オルガン』






   


















 これまでで一際大きな声が聞こえた。


「う、あああああああっっ!!!」


 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!!


 身体が動かなくなる。

 皇女の声を聞くと、これだ。


 恐怖が蘇ってくるんだ。


「ブギャアァァァ!」

「グァァァ!!!」


 オークが俺の横腹を蹴飛ばした。


「オエェ……ッ!」


 腹から込み上げてくる。

 血と、腹の中身を撒き散らした。


「くそっ、たれめ……」


 ーーーここで死ぬのか。俺は。


『ふふふ。楽しみね』

『早くおいで』

『はやくぅ〜!』


 楽しそうな皇女の声が響いた。


 俺が死ぬのが、そんなに楽しいか?


『もっちろんっ!』


 くそみてえな女だな。


「あー……」


 大の字に倒れて、空を見上げた。

 空にはハーピーやドラゴン。

 周りにはオークやゴブリン、コカトリスにケルベロスに……。

 大量の魔物が俺の命を狙っていた。


 だが俺を殺すのはどうやら、一番近くにいるオークみたいだ。


「最後の景色がオークの面かよ……」


 くそったれめ。


 ーーーソフィア。


 俺が最後に思い浮かべたのは、ソフィアの顔だった。


 ーーーああ、こんな時に理解するのか。


 優しくて、暖かくて。


 ーーー俺は、お前のことを……


 俺が苦しんで、どんなに酷い言葉を投げつけても、俺を見捨てなかった。


 ーーー好……


「「「ファイアボール!!!」」」


 次の瞬間、俺の目の前のオークが炎に包まれて吹き飛んでいった。

 

 次の瞬間、炎の球が飛んできた。

 オークが炎に包まれて、吹き飛んでいく。


「ーーーえっ?」


 何が起こったんだ?


「御主人様!」


 もう、聞き慣れた声だ。

 聞いているだけで落ち着く。

 

 けれど、ここにはいるはずがない。

 いちゃ行けない……!


「ソフィア!!!」


 そしてその後ろにいるのは、沢山の冒険者達だった。




もうそろそろ一章完結です。

そうなったら少しの間、休載します。

理由は期間は決めていませんが、他の作品も進めたいからです。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

ブックマークや評価(★★★★★)などよろしくお願いします。


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