第二話 裏切り
そして一年が経った。
俺は聖騎士長として、まだ働いていた。
両親が死んで、俺には足枷は無くなった。
これで俺はいつでも辞められる。
けど、辞めなかった。
辞めれなかった。
俺は剣を振るうこと以外にできない。
それに、聖騎士という仕事は好きだった。
人を助ける仕事だ。やりがいがある。
今日も俺は部下を率いて、討伐任務にやってきていた。
敵は数千を超える魔物の軍勢。
それを率いているのは、魔王だ。
「はあ!」
聖剣エクスカリバーはオークをまとめて薙ぎ払う。
「俺に続け! 陣形を崩すなよ!」
「「「はっ!」」」
元々、聖騎士は個人個人で戦うことが多かった。
だが俺が聖騎士長になってから、陣形を組むことを始めた。
俺を先頭に凸型の陣形を組む。
敵を一気に突き崩したい時に組む陣形だ。
魔王の軍勢の厄介なところは、組織的な動きをするところだ。
しかし、それは魔王が指揮を取っているからだ。
魔王を討伐してしまえば、他は烏合の衆と化す。
それから帝国の騎士団と軍と協力して、魔王の軍勢を殲滅する。
「「「うおおおおおっ!!!」」」
聖騎士団は雄叫びを上げて魔物の軍勢に突撃する。
それはまるで一つの生き物のように、魔物達を蹴散らしていく。
「リーガス! ロンド! 左右に分かれて魔王を囲め! 俺が魔王を倒すまで邪魔をされるな!」
「「了解!」」
リーガスとロンドは部隊長だ。
他の聖騎士を半分に分ける。
その間に俺が魔王を討伐する。
「我レガ魔王ナリ! 貴殿モ名乗レ!」
「俺は帝国の聖騎士長オルガンだ。お前を倒させてもらう」
「出来ルモノナラヤッテミロ!」
魔王はゴブリンだった。
その身体は赤く変色し、どこかの騎士から奪ったのだろう。立派な装備をしている。
魔王は魔術師のようだ。
その手には魔法使いの杖を持っている。
「来い! 聖剣エクスカリバー!」
俺の右手に一本の剣が現れる。
純白の両手剣だ。
これが聖剣エクスカリバー。
俺が好んで使う、最も扱いやすい聖剣だ。
「舐メルナ!」
魔王は杖から魔法を放つ。
ファイアボールだ。
しかも、数は三十を軽く超える。
普通なら丸焼けだ。
だが……。
「はあっ!」
「ナニッ!?」
魔王は俺が魔法を打ち消したのを驚いたようだ。
その瞬間、よろめいた。
そこが隙になった。
俺の聖剣エクスカリバーの能力は単純な“斬撃強化”だ。
シンプルゆえに、強い。
「さらばだ。魔王」
俺は剣を握り、振るう。
これは俺が使う型の中で最速の剣だ。
「聖剣一刀流 瞬光!」
その瞬間、まるで閃光が走ったように俺の剣が魔王を切り裂いた。
「ソ、ソレホドマデノ実力、ドウヤッテ……」
「誘拐されたんだよ」
「フ、フハハ……」
魔王の首がぽとりと落ちた。
何が面白かったのか、魔王は最後、笑いながら死んでいった。
その姿を見て、両親はどうやって死んだんだろうと思った。
「せめて安らかな眠りにつけ」
胸の前で十字に切る。
この魔王はすでに三つの村と一つの騎士団の部隊、そして冒険者を二つのパーティ壊滅させていた。
犠牲者は軽く千人を超えている。
女神の祝福はないだろうが、せめて祈りは捧げてやろう。
「……ふう」
今日も疲れた。
残りは他の聖騎士や、軍の人間が倒してくれるだろう。
俺はそう思い、聖剣をもどした。
いつもなら、これで俺の任務は終了。
執務室で山のような書類に埋もれるところだ。
しかし、その日は違った。
「ウッ……! 毒か……ッ!」
気づかない内に周囲は薄い霧で覆われていた。
経験上、それが毒だとすぐに分かった。
俺は膝から崩れ落ちる。
うつ伏せに倒れるが、なんとか両手を地面につけて、抵抗した。
何かがおかしい。
「風!」
すぐにロンドの声がした。
風が吹き荒れて、毒の霧が晴れる。
そこにはリーガスとロンド、そして他の聖騎士が集まっていた。
ガスマスクまで付けている。
毒に気付いて助けに来てくれたのだろう。
「ハアハア……」
だが、何かがおかしい。
俺はスキルの力で毒の類は効かない。
それなのに、今俺の身体は毒に蝕まれている。
一体どうして……。
その疑問に答えてくれたのは、意外にも部下のリーガスだった。
「ククク。不思議そうだな、団長。“何故、毒が効くのか?”と」
「どう、いうことだ……?」
「まあ、分かりやすく言えば、裏切りってやつですよ」
今度はロンドが言った。
「低脳でも判るように説明してあげましょう。毒を撒いたのは私です。毒霧。普通なら、貴方がこの程度の魔法で倒れることはないでしょう。なので、私は貴方のスキルを無効化できる薬品を手に入れたのです」
「馬鹿を、言うな……。俺は聖剣を召喚できたぞ……」
「当然ですね。私は解毒のみを無効化したのです。薬品を今日の食事に混ぜておいたのですよ」
クソっ、嵌められた。
しかも、これは……。
「お前らも、グルかよ……」
俺は一般聖騎士に向けて言った。
彼らは俺が聖騎士長になった時からずっと同じ釜の飯を食らってきた仲だ。
なのに、どうして……。
「前々からうざかったんだよ」
「僕ら貴族に平民如きが指図するなんて、烏滸がましすぎる」
「飯を奢ってもらったこともあったけど、あんな汚い居酒屋で飲ませるなんて本当に最悪だ。あの時は吐き気がしたよ」
「史上最年少だかしらないけど、お前が聖騎士ってだけでも腹立たしいんだよ。それなのに聖騎士長にまでなって、俺たちに指図してさ」
聖騎士達の本音が聞こえてきた。
彼らは剣を抜き、俺に向けた。
本気の殺意を感じる。
ここから抜け出そうにも、身体の自由が効かない。
「お前ら、こんな事をして皇帝陛下が黙っていると思うのか? それに俺はヴァーリの婚約者だ。アイツが黙ってるわけが……」
「これは皇帝の意思だ」
「ッ!」
「いや、それだけじゃない。皇女様もグルだ」
は?
ということは、俺に味方なんていなかったのか。
なんでだ。どうして、どうして、俺ばかり辛い思いをしなくちゃならないんだ。
ヴァーリ。俺はお前のわがままに付き合って、両親の死に目にも会えなかったんだぞ。
皇帝陛下。俺は貴方に剣を捧げた。忠誠を誓った。帝国のために人をたくさん殺した。毎日俺はうなされるんだ。殺した人が夢に出てくる。
リーガス、ロンド、お前達。お前達には剣も、魔法も教えた。俺の技術を沢山仕込んだ。そのおかげで、お前達は強くなったんだ。
それなのに、それなのにーーーー。
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな
リーガスが両手剣を振り上げる。巨大な剣だ。
俺の首なんて簡単に切り落とせるだろう。
「……覚えていろよ、お前達」
復讐してやる。
どんな手を使ってでも生き返り、俺の持ち得る限りの手段で苦しめ、絶望のどん底に叩き落としてやる。
必ず殺す。
「あばよ、団長さま」
ザンッ!
俺の首が切られた。
そこで俺の意識は途切れた。
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オルガンの死亡を確認しました。
聖鎧フランガッハの能力が発動します。
聖鎧フランガッハの能力は“蘇生”です。
どんな状況でも生き返ることができます。
肉体の再構築を始めます。
王国の森の中に転生させます。
オルガンの心に復讐が目覚めました。
最短で復讐を果たすために転職を実行します。
職業《聖騎士》から転職します。
職業《暗黒騎士》に転職しました。
尚、《聖騎士》のスキルはそのまま受け継がれます。
スキル《聖眼》を再取得しました。
スキル《聖剣召喚》を再取得しました。
スキル《装着換装》を再取得しました。
スキル《剣術・極》を再取得…………。
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今日からよろしくお願いします。
ブックマークや評価★★★★★などよろしくお願いします。