第十五話 緊急クエスト①
「だから、それは普通じゃないんですよ! オルガンさん!」
「いや、俺は普通にやったつもりで……」
「どこの! 誰が! オークを! 討伐しに! 行って! ワイバーンを! 討伐する! Cランク冒険者が! いるんですか!?」
「ま、まあまあ。アンナさん。落ち着いて」
「ダメですよ、ソフィアさん! 甘やかすとオルガンさんはすぐに新記録を打ち立てるんですか! オルガンさんは新記録打ち立て人間なんですから!
「いや、新記録打ち立て人間ってなんだよ」
朝の冒険者ギルドのいつもよりも少し騒がしい受付。
だが、これも日常になりつつあった。
俺がこの街にやってきてから三ヶ月が経った。
この街での暮らしにも慣れ、冒険者としても頑張ってきた。
そのおかげで冒険者になって一ヶ月でDランク冒険者に昇級した。
「またやってるよ」
「今度は何したんだ?」
「なんでも、ワイバーンを討伐したらしい」
「はあ? ワイバーンってBランク冒険者でやっと倒せるレベルだろ?」
「ああ。まあ、オルガンなら余裕だろ」
「ま。オルガンだしな」
最早、オルガンが新記録を打ち立てるのは日常になりつつある。
これまでオルガンが打ち立てた新記録は十三個。いや、今日で十四個目か。
とにかく、それだけ新記録を打ち立てれば慣れるというものだ。
「はい! 今日でCランク冒険者です! これも冒険者ギルド最速記録です! 良かったですね!」
「なんで半ギレなんだよ……」
「オルガンさんが悪いんですよ!」
「俺のせいにしないでほしい」
「まあまあ……」
キレるアンナと何故か怒られる俺、そしてアンナを鎮めるソフィア。
この三人の光景も見慣れたものになってきた。
俺は新しくなった冒険者カードを受け取った。
DランクからCランクに変わり、色も青から黄色になった。
「おー! 今日でオルガンもCランク冒険者か!」
「早いもんだなー」
「デブンなんか三年もかかったからな」
「それが普通なんだよ!」
「言い訳か」
「言い訳だな」
「おーまーえーらー!」
「おめでとー!」
「これからもよろしくな、オルガン!」
冒険者ギルド中から称賛の声が上がった。
酒の入ったグラスを掲げて、祝ってくれる。
「お、おう。ありがとうよ」
慣れていない事だから、タジタジな感謝の言葉になってしまった。
「今日はどうしますか?」
「そうだな、それじゃあーーーー」
そして今日のクエストについて話そうと思うと
「おーう。ヒック、おめでとぅーよーぉ! オォルガン〜! ヒック」
後ろから酔っ払いが肩を組んできた。
いや、別にそのくらいならいい。
「流石は俺達の仲間だぜ〜! ヒック」
そいつは言った。
“仲間”と。
仲間、仲間?
俺が?誰と?
仲間だと?
俺の頭にリーガスとロンド、他の聖騎士達の顔が浮かんだ。
ふざけるな。
仲間は、裏切るんだ。
仲間なんていらないっ!
仲間なんていないんだーーーーッ!
俺は気がつくと、肩に置かれた腕を振り払った。
「っ! 触るな!」
「ーーーー痛えっ!」
「あっ」
強く振り払いすぎた。
俺に肩を組んできた冒険者は尻餅をついて倒れた。
冒険者ギルドが一瞬で静寂に包まれた。
「っ、すまん」
俺は逃げ出すように冒険者ギルドから出て行った。
その日、俺はクエストを受けなかった。
いつも泊まっている宿に戻ってきた。
気に入って、ずっとこの宿に寝泊まりさせてもらっている。
俺は自分の部屋に入り、鎧を脱いでベッドに潜った。
ああ、だめだ。
聞こえてくる。
奴が来る。
駄目だ駄目だ駄目だ駄目ーーーー。
『オルガン』
ーーーーああ、聞こえた。
皇女の声が。
『貴方に仲間なんてできるわけないでしょ?』
「でも、俺は」
『また、裏切られるわよ?』
「ーーッ!」
こんな会話、一度もしたことがない。
それなのに皇女の声が聞こえている。
これは幻だ。
そう分かっているのに、手足の震えが止まらない。
「いやだ、俺は裏切られたくないんだ。俺は」
「ご、御主人様。今日のお食事はーーーー」
「うるさい! 来るな! 俺に構うんじゃない!」
近くにあったクッションを扉に投げた。
入ってくるんじゃない。
俺は一人になりたいんだ。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
『裏切られるのが怖いの?』
「駄目だ。俺は、誰も信用なんてーーーー」
『お前は私のものよ』
呪縛のような言葉だ。
皇女の言葉が今も耳に残る。
ずっと。
ずっとだ。
皇女の姿さえ、思い出してくる。
「くそ! くそ! 消えろ! 消えろ!」
俺の耳を掻き毟った。
血が出ても、ずっと。
それなのにーーーー
『ふふふ。可愛いオルガン』
消えない消えない消えない!
何故だ?何故?
『オルガン』
頼むから消えてくれ。
『オルガン』
消えない。消えない。消えない。
『愛してる』
消えない。消えない。消えない。
『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『お前は私のものよ』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『私を置いていかないで』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『お前は私のものよ』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『逃がさない』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『逃がさない』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『お前は私のものよ』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『オルガン』消えない『どこにも行かないで』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない『愛してる』消えない『オルガン』消えない
「…………誰か俺を、助けてくれ」
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