第十ニ話 ゴブリン討伐クエスト②
「少し暗いな」
「私にお任せください。《聖なる灯火》」
ソフィアが唱えると、光り輝く炎が発生した。
炎は辺りを照らし、洞窟の中にいるのにまるで真昼のようだった。
俺が前衛、ソフィアが後衛で進む。
「あっ」
洞窟を進むと別れ道にぶつかった。
ソフィアが何かを感じ取ったのか、足を止めたので俺も止めた。
「ゴブリンです。左の通路に三匹います。
ソフィアはゴブリンの体臭で正確な位置が分かった。
右側は行き止まりだ。ゴブリンの気配はない。
「よし。お前一人で倒せるか?」
「問題ありません」
「サポートは?」
「大丈夫です」
自分で言ってるのだから、信じてみよう。
ソフィアは俺の前に一歩出た。
「頼みますよ。《聖杖ラディウス》」
ソフィアの聖杖の名前だ。
その先端は鋭く尖り、“突き”に適している。
逆に上の部分はジャラジャラと装飾が付いているが、その分重たい。十分な鈍器になるだろう。
「ギィ!」
三匹のゴブリンが飛び出してきた。
武器は棍棒だ。
ソフィアの初手はーーーー投擲。
いや、投杖。
「はあっ!」
ソフィアが投げた杖は一匹のゴブリンに直撃。
腹を貫通させた。
だが、続けて二匹が襲ってきた。
手元に武器はない。どうする?
と思うが、問題はない。
「シュッ!」
ソフィアは美しい“突き”を繰り出した。
「剣」では無く、「拳」。
ゴブリンが壁に叩きつけられ、動かなくなった。
最後の一引きだ。
どうするのだろう。
そう思ったのだがーーーー。
「《聖なる灯火。邪なる者を滅せ》」
ソフィアが言うと、辺りを照らしていた炎がゴブリンを包み込んだ。
凄まじい火力だ。
「凄いな」
「ありがとうございます」
「これはスキルの力か?」
「はい。《聖火》と言って、邪悪な魂を焼き尽くす力があります」
ゴブリンは灰すら遺さずに燃え尽きた。
こんなスキルは見たことがない。
聖女のスキルだろうか。
とにかく強力なスキルだ。
それから洞窟の探索を開始した。
ソフィアの嗅覚はやはり凄まじい。
ゴブリンの巣で最も恐ろしいのは、背後からの奇襲だ。
特に洞窟は薄暗く、匂いも充満している。足音も自分や仲間の足音が反響して聞こえにくい。
その結果、冒険者達はゴブリンから背後を襲われ、殺されてしまうというケースが多くあった。
だがソフィアがいれば、これらの心配はなくなる。
洞窟の薄暗さも、ソフィアのスキルで明るく照らされている。これだけで俺の視界も広がり、奇襲される恐れはなくなる。
さらにソフィアの嗅覚だ。この洞窟の中でもゴブリンの匂いを判別し、ゴブリンがどこにいるのか正確に判断してくれる。
どこからゴブリンが出てくるのか。数はどのくらいか。
ソフィアはその全てを事細かく教えてくれる。
俺は完全にソフィアを”頼っていた”。
その結果、ゴブリンとの戦闘は四回。
その全てで俺たちが先手を取ることができた。
そして、ゴブリンの巣に入ってから一時間で洞窟の最奥に辿り着いた。
これまでのゴブリンは全て殺した。
残りのゴブリンはこの先にいるゴブリンだけだ。
そこはこれまでで初めて見る、木造の扉がしてあった。
間違いなく知能がある上位種がいる。
「ゴブリンがいます」
「数は?」
「七匹です。ですが、これは……」
「どうした……?」
「普通のゴブリンとは、違います」
「何?」
「魔法の匂いがします」
「……そうか」
大方の検討は付く。
おそらく、ゴブリンウィッチだろう。
普通のゴブリンとは違い、魔法を使う。
さらに頭もいいため、他のゴブリンの指揮を取る。
「その他にも普通のゴブリンよりも強烈な匂いが二つほどします」
「ホブゴブリンだな。普通のゴブリンよりも身体が大きく、力も強い」
さて。どうするか。
ゴブリンウィッチが一匹。
ホブゴブリンが二匹。
通常が四匹。
対して俺たちは二人だ。
その上、ソフィアは盲目。
狭い洞窟の中で、ソフィアを護るとなれば、立ち回りが難しい。
グングニルで吹き飛ばしたら、洞窟が崩壊する可能性がある。
どうしたものか。
と悩んでいると、ソフィアから提案があった。
「御主人様。雑魚はお任せください」
「だが……」
「私は足手まといになりにきたのではありません。戦いに来たのです。私を”信じて”ください」
「……分かった。お前を”信じよう”」
作戦は決まった。
俺が上位種を倒し、ソフィアが雑魚を倒す。
シンプルな作戦だ。
だが、ソフィアになにかあると大変だ。
だからーーーー。
「《身体強化付与》《物理耐性付与》《一撃必殺付与》《魔法耐性付与》《弓矢無効付与》…………」
「あ、あの、御主人様?」
「黙ってろ。お前に死なれては困る」
「……っ」
そのまま俺は付与をかけ続けた。
全部で三十種類。
まだ心配もあるが、時間がそれを許さない。
仕方がないからここで妥協しよう。
「……御主人様の愛を感じます」
ソフィアが何かを呟いたが、俺はエクスカリバーを召喚して聞き逃した。
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