第十一話 ゴブリン討伐クエスト①
俺達が冒険者になって、最初に選んだのは《ゴブリン討伐》のクエストだった。
「どうやらエリーンさんの農地でゴブリンが畑を荒らしているようなんです。探してみると近くにゴブリンの巣があって、数は二十から三十くらいだそうです」
報酬は一万ギル。
ゴブリン討伐にしては破格の値段だが、それだけ依頼主が困っているらしい。
このクエストはまだ貼り出されていなくて、今回は特別に俺たちに優遇してくれた。
俺とソフィアは依頼主に話を聞きに来た。
「こんにちは。私がクエストを依頼したエリーンです」
依頼主は優しそうなお婆さんだった。
エリーンさんは代々の農地を受け継いで野菜を作ってきたんだが、一ヶ月ほど前からゴブリンが現れたらしい。
ゴブリンは訓練を受けていない大人でも倒せるほど弱い。
だが、流石にお婆さん一人で群れを倒すのは難しい。
お婆さんはゴブリンに畑を荒らされるしかなかった。
だが、とうとう我慢できずに冒険者ギルドに依頼したそうだ。
「どうかお願いします。ここの畑は亡くなった夫が遺してくれたものなんです」
目元に涙を溜めながら、エリーンさんが言った。
「任せてください。必ずや」
かつての俺なら、神に誓っていたかもな。
俺とソフィアはゴブリンの巣を目指して、森を歩いた。
ゴブリンは有名な魔物だ。
身長は90センチほど。身体はガリガリで力も弱い。知能も人間の八歳児程度しかない。しかも汚いし、下品だ。
だが弱くはない。
基本的には棍棒を使い、人間から奪ったナイフや槍、鎧を武器にする。
特に上位種が群れのボスにいれば、ゴブリン達は組織的な動きをするようになる。
そうなれば街の大人達ではどうにもならない。騎士団か冒険者を呼ぶ必要がある。
ゴブリンの脅威はその繁殖力にある。人間の女を攫い、孕ます。一度に産まれるゴブリンは十数匹だ。
ゴブリンの巣を放置していると大変なことになっているはずだ。
今回はそうなっていないことを祈ろう。
「ソフィア。ゴブリン討伐は?」
「初めてです」
「そうか。行けそうか?」
「はい」
ソフィアは思ったよりも落ち着いていた。
厳しい山道も難なく歩いている。
「……あれがゴブリンの巣だ」
しばらく歩いて、ゴブリンの巣を見つけた。
ゴブリンの巣には様々な種類がある。
古い城や廃村に住み着いたり、狼のように森に縄張りを作ったりすることもある。
今回のは最もオーソドックスな洞窟だった。
だが、洞窟は迷路のように道が張り巡らしている。
攻略するのは面倒だ。
洞窟の前に二匹のゴブリンがいた。
「見張りが二匹いるな」
「なるほど、これがゴブリンですか」
ん? ああ、ソフィアは匂いで分かるのか。
「……どうやら、噂通りの魔物のようですね」
顔を顰めているソフィア。
ゴブリンの匂いを嗅いで、何を感じ取ったのだろう。
ソフィアからゴブリンに対する嫌悪感が滲み出ていた。
「私がやりましょうか?」
「いや、いい。俺の番だ」
俺は一本の聖剣を取り出した。
《聖短剣ソルディア》。
能力は“増殖”と“分裂”だ。
俺はソルディアを二本に増やし、見張りのゴブリン二匹に投げた。
見事に眉間に命中し、ゴブリンは絶命した。
「……凄い」
ソフィアは匂いでゴブリンの死を察知した。
俺はソルディアを回収して、ソフィアと一緒に洞窟に入った。
「すごい匂いですね」
「大丈夫か?」
「はい。しっかりと匂いを判別できますよ」
「いや、そっちじゃなくて。鼻は大丈夫か?っことだよ」
「あ、はい。もちろん大丈夫です」
ソフィアはそう言っているが、ゴブリンの体臭は俺でも鼻を曲げるほどの悪臭だ。
嗅覚が凄まじいソフィアにどんな影響があるかわからない。
「これを鼻に巻いておけ」
「……これは?」
「俺のタオルだ。まあ、無いよりはマシだろ」
「ご、御主人様の!?」
「ああ。すまないな。古くて」
「い、いえ! ありがたく付けさせてもらいます!」
ソフィアはタオルを鼻から下に巻いた。
それからスーハー、と息を吸った。
ゴブリンの悪臭がタオル越しでも大丈夫かを確認したのだろう。
普段から俺が使ってるタオルだから、俺の匂いが染み付いている。
正直、ゴブリンの体臭よりキツいと言われたら傷つく。
すぅーーーーーーーーーっっっ!!!
はぁーーーーっ!
すぅーーーーーーーーーっっっ!!!
はぁーーーーっ!
すぅーーーーーーーーーっっっ!!!
はぁーーーーっ!
……問題なさそうだな。
「……いい匂いです」
頬を赤くしたソフィアが小さく呟いたのを、俺は聞き取れなかった。
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