私が婚約破棄される方だと誰が決めましたの?
※短編に慣れてませんので詰め込みすぎてます。
扉を開けると私の婚約者であるマクシミリアン殿下とリーゼロッテ嬢が立っていた。殿下はリーゼロッテ嬢の腰に手を当て、こちらを怖い顔で見ている。その様子から見ていない私でも、殿下がエスコートしたのが誰かわかる。普通ならば今日のパーティーで殿下がエスコートするはずだったのは私コレット・テナールであるはずだった。いや今日と限らずパーティーは婚約者をエスコートする決まりである。しかし、最近の殿下は・・・。私はため息がでそうになる。気持ちはわかるが決まりぐらいは守ってほしいものである。
ひそひそと周りの声が聞こえる中、殿下がコツコツコツと足音を鳴らしこちらに歩いてきた。怒ったような顔が一歩また一歩とこちらに向かってきている。ズキンっと心臓から音が聞こえた気がした。今はこんなだが、昔は仲が良かった。大人が勝手に決めた婚約者。だから、恋はしなかった。愛してもなかった。だけど好きではあった。それは家族に対する好きの様な、そんな情が彼に対してあった。彼も同じだと思っていた時期もあったが、それは勘違いだったようで、変わってしまった彼と彼の好きな人に心臓は痛みを訴える。この痛みは家族同然だったものからの裏切りを感じての痛みだろう。そんな事を考えていると彼の顔が触れられるほど近くに来ていた。私の顔など見たくもないといわんばかりの顔をしながら口を開く。
「コレット! この場をもって君との――――――」
続きは聞かなくてもわかる。婚約破棄といいたいのですね。最近流行りの殿下と男爵令嬢を模したラブストーリー小説のように私を男爵令嬢をいじめる悪女としてこの場で断罪したいのですね。私も読みましたのでよくわかります。でも、言わせてほしい。私は悪い事をしていない。なにより、いつからあなたが破棄する方だと思っていたのです?と。
私はパチンと手に持っていた扇子を閉じる。その音に殿下の声は止まった。すかさずにっこりと笑顔を見せる。その様子にビクッと肩を震わせた殿下の姿は出来の悪い弟の様に思え優しくしてあげたい気持ちになったが、すぐに考えを改める。私に弟などいない。
「そのお話の前に私からいいでしょうか?」
「なに!? 声を遮っただけでなく話だと?」
殿下の顔が不服そうに歪み声が低くなる。普通の女の子ならこれだけで泣き出すだろう。しかし、私は気にしていないというような顔をして話を続ける。
「えぇ、大切な話ですので。」
その言葉から間髪入れずに皆に聞こえるように声を張って私は宣言した。
「私、コレットはマクシミリアン殿下と婚約破棄します。」
物語には順序がある。結果は同じでも過程が大事なのだ。そう、これで殿下は婚約者が要るのにもかかわらず他の女に現を抜かし、婚約者に振られた男になったのである。
ぽかんとした後、何を言われたのか理解した殿下は顔を真っ赤にしていた。女の私から言われた事に男としてのプライドが傷つけられたのかプルプルと震えながら怒鳴りだした。
「嫉妬からリゼを虐めた事がばれ捨てられるのがわかったからといって思い付きで婚約破棄とは・・・本当に醜いな、お前は」
殿下はまるで私が、殿下に捨てられるのが嫌で先に言ったかのように言う。今思いついていったかのように。確かにこれなら殿下が捨てられたのではなく捨てられるのが分かった私の悪あがきに聞こえるだろう。
「思い付きではありません」
私が手を横に向けて出すと、従者が書類を渡してくれた。それは誓約書である。内容は『コレット・テナールの意思にによりマクシミリアンとの婚約破棄を認める。この件に関して、マクシミリアンの不誠実な態度のお詫びに一千万支払う事とする』と言ったもので下に国王である陛下のサインがされたものである。
「それは!!」
「あ、ついでですのでこれも・・・」
私がついでにとだしたのは私たちの婚約するときの誓約書。これが全ての始まりよね。
「これに関しましては破いてもいいとの事でしたのでこの場で破かせていただきますね?」
私は婚約の方の誓約書をビリビリに破くとその場にバラっと捨て、ニコリと笑いながら殿下に問う。
「これで私は思い付きではないと証明されたと思いますが、殿下は先ほど私を捨てるとおしゃっていましたが、ずいぶん身軽なんですね?」
私の嫌味の意味が分かったのかまたもや顔を赤らめた。最も怒りの方だが。
「そういえば、一つ訂正することがあるのですが、先ほど嫉妬で虐めたとおっしゃいましたが、私、愛してもいない男のために嫉妬し、何かするほど可愛い女ではございませんのよ」
「嘘をつくな!! リゼが証言しているんだ」
私はその言葉につられてリーゼロッテ男爵令嬢をチラッと見る。彼女は私と目が合うと肩を震わせ泣きそうな目をしながら殿下に視線を送った。
「マックス・・・」
「リゼ。大丈夫」
陛下は彼女を守るように彼女を私の視線が届かないように体で隠した。どうでも良いけど愛称呼びなのね。
「コレット。リゼを睨むのはやめてくれ。怯えている。ただでさえ君のせいでつらい思いをしているのだから。これ以上虐めないでくれ」
どうやら殿下は私が視界の端に彼女を入れる事さえ虐めと思っているようだ。これなら確かに虐めていたのかもしれない学園で彼女を見ることは何回かあったし。しかしながら納得はいかないので反撃に出る。
「お言葉ですが、私がおこなった虐めの証拠はあるのでしょうか?」
「ぐっそれは、リゼが・・・」
「恐れながら、殿下それは証拠とは言えません」
私のきっぱりとした態度に殿下のいら立ちが見える。
「なぜだ!? こともあろうか貴様は、リゼが嘘をついているというのか!!」
私はすぐに否定はせず、少し目を伏せる。
「・・・勘違いにせよ、証拠がない以上はそのようになるでしょうね」
きっぱりとそういい殿下の目を見ると、怒りで満ちていた。スローモーションで手が振りかぶってくるのがわかる。口で勝てないと手に出るなんて、あきれてものも言えませんわね。
「お嬢様への暴力行為はおやめください」
手は私に当たる前に誓約書を持ってきた私の従者によって振り払われた。
「なっ、従者ごときが」
殿下は従者に手を払われてさらにいら立っている。
「ありがとう。でもつかんだ方が印象よかったのに」
「汚物にはあまり触れたくありません」
殿下を汚物って・・・。まぁいいか。どうせこの国から出ていくのだから。そんな私達の会話が聞こえたのか、殿下はプルプルしている。
「汚物だと!! 愚弄してるのか? 父に言ってお前たちを・・・」
ちょうどいい。これも言ってしまおう。そしてめんどくさくなったのでそろそろ退散させていただこう。言い逃げになるがいいだろう。
「私、国を出ますの。だから陛下に言ってもどうにもできませんわよ。」
殿下はそれを聞いて不思議そうに、しかし勘違いしたのか嬉しそうにする。
「はっ追放されたのか? しかし、言っても無駄とはどういうことだ?」
この男は本当に私、いや婚約者に興味がなかったのか。私が追放されるはずなどないのに。昔は仲が良かったと思っていたが、それすら記憶違いだったようだ。
「ご自分で考えてはいかがでしょうか? それでは、ごきげんよう。二度と会う事はないと思いますわ」
私は、それ以上話すことはないといわんばかりに踵を返し歩き出す。振り返ることはしなかった。が、周りのひそひそ話が殿下中心になっていたので、殿下の評判は終わった事だけはしっかりと理解した。
********
「クスクス」
私の親友である従兄弟殿は笑いが止まらいのか先ほどからお腹を抱えている。殿下と私の話を誰から聞いたのか知らないが人の不幸を笑いすぎではないだろうか?
「エクトル、笑いすぎだと思いますわ」
私は不満げに口を尖らせブーイングを表に出す。それでも笑いが止まらぬようでごめんと謝りはするものの、悪びれた様子は一切なかった。
「本気で怒りますわよ?」
「ごめんって、だってさー暗殺までしようとしたくせに君の事知らなさすぎでしょ。そんなあほであの国大丈夫なの?」
エクトルは、マクシミリアン殿下の国の住人ではない。隣国の・・・。
「まぁ、大丈夫じゃなくても関係ないか。僕は絶対あの国にはかかわらないし、父上もそういってたよ。目当てが来たから用なしってさ」
エクトルの平然とした声に驚きを隠せない。エクトルの父。つまり母の兄は、この国の陛下なのである。陛下は私からするとおじさんなのだが、私に甘い。元々母が末の妹ということもあるのだが、陛下に娘が生まれなかったので、娘が欲しかった后妃ともども、私を娘の様に可愛がってくれている。
おかげで、二人して母と隣国に来るように前から言われていた。しかし、母が父大好きすぎて断っていたのだ。
さて、今回の婚約破棄には前話があって、マクシミリアン殿下は私を邪魔だと思って一度刺客を送っている。実は婚約破棄の際の一千万はその事での和解額なのだ。マクシミリアン殿下の国であるマケニア国とこのトリスタン国は仲が良いが、それは母がいるからでの話であり、母というか、私たちに何かあればまずい事を陛下は知っていた。刺客の件と男爵令嬢の件話したらすごい顔してたものね。可哀そうだった。当のマクシミリアン様は失敗したから断罪を選んだようですけど。
そしてもう一つ、私この国では領主をやっている。なぜそんな事にと思うかもしれないが、マケニア国の后妃は民の母になる修行としてマケニア国で領主を18になるまでに三年間以上しないといけない。それは皆知っているのだが、ここで伯父様が言い出したのだ。『コレットと会う時間減るのやだし、こっちで領主修行したら?』と、ちなみに、マケニア国より、トリスタン国の方が大きい。つまり、マケニア国の陛下が断れるわけもなく。私はここ、トリスタン国の地方領主をしていたのだ。
「本当に傑作だよ。コレットが出ていくということは、この国で正式に領主を任さられる事になる。つまり、マケニア国とトリスタン国の貿易は断たれるというのに知らないなんて」
「それはわからないじゃないですか」
そういいつつ私は確信していた。だって私が任されていた土地こそが唯一貿易していたところだから。そもそも、2つの国が貿易してたのも母が父に会いたくて土地をせがみ勝手にやった事。成就してからは友好の証になっていたみたいだけど。最近はやりの殿下と男爵令嬢のラブストーリーの中で、私が悪役っぽく書かれているせいで私の土地でのマケニア国の印象が最悪なのだ。これでも頑張っていい領主をやっているのである。おかげさまで、マケニア国には物を出したくも買いたくもないと言っているらしい。ご愁傷様である。トリスタン国から嫌われたとなれば他の国とも…。併せてご愁傷です。
「そういえば、叔父さん結構いい土地もらったろ」
叔父とはもちろん私の父である。
「えぇ。父しだいでは母が出ていき、私も出ていくからって必死すぎだと思いましたわ。」
「だよな。俺も思った。だけどコレットが要るのはいてくれるのは助かるし、父上よくやったとは思ったけどな」
「いたずらには手を貸さないわよ」
「昔は俺が、手伝ってやっただろ?」
エクトルはニヒルな笑みを浮かべていた。なんだかんだで兄のような、親友のような、従妹といるのは心地いいので手伝うだろう。弟の様だったマクシミリアン殿下。私、あの日貴方が私を殺そうとしなければ、小説の様に断罪されてもいいと思っていたのよ。だって好きだったもの。家族の様に。
もう気持ちはない。だから、ごめんなさいね。
それからマケニア国がどうなったかはトリスタンの人々は知る由もない。ただ一つ、マクシミリアンが陛下になった頃には政策ができるほどの人望も政策ができる人間もいないかったそうな。反対にエクトルが陛下になる頃にはコレットがどこからか引き連れてきた大量の優秀な人間がいたそうだが真実は闇の中、もとい未来の中である。
最後までお読みいただきありがとうございます。
拙い文章ですので、感想やアドバイスをもらえると幸いです。
この作品は短編ですのでこれで終わりですが、もし、この作品を好きになってくれる方がいましたら連載物として細かく書いたり続きを書いたりするかもしれません。それまで(@^^)/~~~
Ps.裏話
あの、殿下と男爵令嬢の小説ですが、実はエクトルが書いていたり、はやらしてたりします。コレットの現状を知ってわざとはやらせ、マクシミリアンにこうすればいいんだという導き的な。全部はコレットをトリスタン国に連れてくるための作戦です。腹黒い男でした。