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第35話:嵐(4)

 愛歌は俺を預けると、足早に部屋から去っていった。少しだけ焦っていたようにも見えたが、もしかしたら何かあったのかもしれない。もちろん何が起こっていようと、手だけではなく足まで束縛されてしまった俺には何もできないのだが。

 床に転がされ手持ち無沙汰な俺がこの状況をどう脱却しようかと考えを巡らしていると、

「お前、死神らしいな」

 俺を監視している二人組のうち、男の方が声をかけてきた。その声に顔を上げてみると、少し離れた位置から男が冷めた視線を俺に注いでいた。確か秋瀬って名前だっけ。

 無視しようかと思ったが、せっかくなので話すことにした。もしかしたら静歌の居場所が分かるかもしれない。

「まあな」

「お前がね……とてもじゃないけどそうは見えないな」

 疑わしげな声音。表情には出ていないものの信じていないようだ。もう一方の女の方に視線を飛ばすも、女の方も信じていないようでこちらを興味無さそうに監視している。

 俺が視線を戻すのと同時に、秋瀬が口を開く。

「俺たちが知っている死神は歴史上もっとも多くの人間を殺した殺人者だ。無差別大量殺人者スプリー・キラーって言葉がこれほどまで似合うヤツはいないと言われてる。それくらいヤバいヤツだ。それがこんな平々凡々だなんて納得できないな」

「そんなこと言われても実際に死神だからな、俺は。お前がどんなイメージ持っているか知らないけど、嘘はついてないぞ」

 俺がそう言うと、秋瀬は鼻で笑った。冗談を言っていると思ったのだろうか。

 秋瀬は俺に近付くと、どこか陶酔したように語り始めた。

「大戦以降世界にもっとも大きな影響を与えた三人の人間。最初の魔法学者ダニエル・ブランチャード、魔法を公に認めた女教皇ヨハンナ3世、そしてロンドンの悲劇を引き起こした死神。それぞれ三大人災の中心人物な上に、そのうちの一人で唯一生きている死神が見られると思ったんだが……」

 俺を見やり、溜め息。何も言わずに首を左右に振り、俺から離れていった。一定の距離まで離れると、こころなしかさっきよりも冷たい目つきでこちらを見下ろす。期待していたものと違ったおもちゃをプレゼントされた子供のようだ。

 俺からすれば、正直、妙な期待を持たれても困る。影響と言っても悪影響だしな。それに結局、静歌の情報はゼロだ。もっとそれっぽく振舞えばよかったのか?

 俺が内心反省していると、しばらくして今度は女の方が傍にやってきた。無機質な瞳に無表情。ロボットみたいだ。

「お前は……紫園だっけ? なんか用か?」

「……」

 思い切ってこちらから話しかけてみたが、紫園は全く反応しなかった。ただその赤色の双眸だけが忙しなく動いているだけだ。俺の全身を無遠慮に眺めているが、何かを探しているように見える。

 しばらく紫園は俺に視線を飛ばしていたが、突然俺から急速に距離を取った。その姿は天敵に遭遇してしまった野生動物のようで、凄い速度で秋瀬のところまで戻る。

 いきなりの行動に俺が目を丸くしていると、

「秋瀬、何か来る!」

 紫園が大きな声で叫んだ。さっきまで何の感情も浮かんでいなかった顔は、今はひどく強張っていて、否応なしに緊急事態だと伝えてきた。

 紫園のいきなりの行動に秋瀬は呆気にとられたようだが、すぐに表情を引き締めると、

「なんだ、どうした紫園?」

「分からない。何か来てる。かなり強い!」

「どのくらいだ」

「おそらくA、最低でもBプラス!」

「なんだと!?」

 弾丸のように交わされる情報交換。あまり良い状況ではないのか、紫園から聞くたびに秋瀬はどんどん表情を曇らせる。紫園は紫園で眉を寄せ、俺の方を鋭く睨みつける。

 ちなみに俺には何が起こっているのかさっぱり理解できない。完全に蚊帳の外だ。

 だが、それも数秒後に理解できるようになった。俺の周りが、いきなりぐにゃりと歪んだのだ。

 空間がぐにゃりと。

 それを見て、秋瀬が苦々しい顔で呟く。

「転移魔法……空間移動テレポーテーションか」

 直後、俺と秋瀬たちの間にまるで俺を庇うかのように人が現れた。始めからそこにいたとでも言うように、何の違和感もなく現れた。

 その人物は俺の方を見、次いで秋瀬たちを見ると、数学の答えを解くよりも軽い口調で言った。

「というわけで、今回の主役、片桐由美子様の登場だ」

 実にふてぶてしく、不敵に大胆に、笑いながら言った。

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