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第3話:学院

 3 学院


 どこまでも青い、いや、蒼い空の下、俺はゆっくりと学院の門をくぐる。

 流石さすがは朱雀と言うべきか、門は滅茶苦茶がっしりしている。さらに、所々墨のようなもので、魔法の術式が描かれている。たぶん何らかの防護、または警報のようなものだろう。目で見える分でこれなのだから、見えない術式も相当あるのだろう。

 俺は朱雀の厳重な警備に目を見張りながら、同時に、こんなところにテロリストがいるのだろうか? と真剣に考えを進める。

 こんなに厳重なのだ、教師も一流の魔法使いに違いない。

 そんな場所にテロリストが、のこのことやって来るだろうか?

 しかし、その思考も門をくぐり終えたとたん、あっという間に消えてしまう。

「おいおい……」

 俺は、驚きを通り越し、呆れすら覚えた。

 でかい。

 そう、でかいのだ。ひたすらでかい。

 正直、ここまでする必要あるのか? と疑問に思う。

 でかい門と塀で見えなかったが、校舎もかなりでかいのだ。よく見れば、西洋建築物独特の雰囲気や美しさがあるのだが、大きすぎて、すべて押し潰されてしまっている。

 一言で表すと、圧倒的だ。

 そう、綺麗に配置されたレンガとコンクリートの緻密さも、それらが表す模様の美しさも、四神しじんのひとつ、学院名にもある朱雀の紋とLの組み合わさった堂々とした校章も、そして、校舎に向かって歩く幾万の人々さえも。

 この圧倒的な気配に押しつぶされていた。

 

 


 俺が、しばし呆然としていると、ちょん、と何かが肩に触れてきた。

 校舎に威圧されていた俺は、その突然の感触にびっくりして、

「わひゃあ!」

 ……とても情けない声を出してしまった。

 周りを見ると、何人かが俺を見てクスクス笑っていた。だ、だってしょうがないじゃん! こんなん見せられたらびっくりするじゃん! 仕事柄いろんなとこに行くけど、こんなでかいの初めてなんだもん!

 と俺が全力で現実逃避&自己弁解していると、

「あの……」

 と背後から遠慮がちな声が聞こえてきた。

 なんだ? と訝しく思いながら振り向くと、一人の少女が立っていた。

 いや、訂正せねばなるまい。

 一人の絶世の美少女が立っていた。

 腰まで伸ばした艶やかな黒髪に、どこまでも澄んだ瞳、スッと通った鼻、ふくっらと柔らかそうな唇、それらが絶妙な位置で配置された美しい顔。スレンダーなモデル体型。そして、凛とした雰囲気。どこをとっても完璧な美少女がそこにいた。

 俺が金縛りにでもあったように硬直していると、少女も俺の方をじっと見つめた。

 硬直する俺とガン見してくる少女。

 しばらくなんとも不思議な雰囲気が発生する中、口を開いたの少女の方だった。

「えっと……何かお困りですか?」

「え?」

「いえ、門の方で立ち止まっていらっしゃったので」

 どうやら、この少女は威圧されていた俺を、なにか困っている新入生かなにかだと思ったらしい。

 素晴らしい人格の持ち主だ。楓だったら「なに、ボサッとしてんのよ!」とか言いながら跳び蹴りしてくるに違いない。うん、あいつの場合、本気でやりそうで怖い。

 そんなくだらないことを考えていると、少女が不思議そうに見つめてきた。

 おっと、いかんいかん。

「あ、えっと、にゅ、入学式の場所が分かんなくて」

「あ、それでしたら私も行くところですし、ご一緒しませんか?」

「え? いいんですか?」

「ええ。大丈夫です」

「じゃあ、お願いします……」

 少女は噛み噛みの俺を気にすることなく、それどころか笑顔で案内をしてくれると申し出てくれた。やっぱり素晴らしい心の持ち主だ。

 俺は少女の申し出をありがたく受け取ると、二人並んで歩きだした。




「これより、第一二九回日本国立朱雀エルフィード学院高等部入学式を開催します」

 静かな会場――――どうやら、体育館らしい――――に涼やかな女性の声が響き渡り、入学式が始まった。

 今、俺は、所狭しと並べられたパイプ椅子の一つに座っている。なんとか、睡魔に負けないようにしている真っ最中だ。こういうのは、いつも眠くなる。

 あ、ちなみに、さっきの少女はいない。なにやら「兄と友達と待ち合わせしているんです。ごめんなさい」ということらしく、会場に着いたときに、お礼を言って別れた。

 そのあとは、会場の入り口で受付カードをもらい、空いている席を見つけて座り、時間を潰していた。


 しばらく何事もなく式が進んだが、

「――――続きまして、新入生挨拶しんにゅうせいあいさつ

 と司会の先生が言った瞬間、静かだった会場がざわつき始めた。

 いきなり、なんだ?

 周りのおしゃべりに耳を傾けると、「今年の新入生挨拶、あの天才だってよ」「マジ?」「あ! あのカッコイイ人だよね」「そうそう! マジ良かった!」「十貴族なんだろ?」「ああ、そうらしい」「チッ! またあいつか」などなどいろいろ聞こえてきた。

 天才? 誰だそりゃ。

 俺が一人、首を傾げているいると、一人の男子生徒が壇上に登った。

 背は俺とあまり変わらない。が、焦げ茶色の髪に、二枚目でアイドルみたいな顔立ちをして、堂々と代表挨拶をしている。

 確かにモテそうだ。現に、何人かの女子生徒がうっとりした顔で男子生徒を見ていた。

 くっ! ちょっとカッコイイからってぇぇぇぇえ!

 などと、俺(+その他男子)が嫉妬していると、代表挨拶が終わったらしく男子生徒は壇上から降りていった。

 ムカつくことに降りる姿もカッコ良かった。

 ちくしょぉぉぉぉぉお!

「続いて、クラス発表したいと思います――――それでは、お持ちの受付カードをご覧ください」

 言われて見ると、カードにはさっきは無かった『B』という文字が浮かび上がっていた。

 B組ってことか?

 説明によると、一学年一二クラスで、一クラス三〇人らしい。クラス編成はランダムで特に優劣があるわけではないらしい。

「――――今、表示されているアルファベットが組です。

 そのクラスが一年間過ごすクラスです」

 B組で決まりらしい。別に不都合があるわけではないが。




 その後も淡々と進み、入学式はつつがなく終了し、俺の学院生活は味気なくスタートした。

 


 

 


 

 

 

 

 

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